1.改正の背景

化学構造式で特定した合成医薬品に比してバイオ医薬品の発明は、機能・特性のみで登録可能なため、主導的地位にある製薬会社が権利範囲を先取する問題を惹起する。

バイオ医薬品の技術発展を反映し、主要国が明細書の記載要件を改正したことにより判断基準の国際的バランスを図るための対応が必要とされる。

*(米国):明細書の記載要件を改正(’18年)、(中国)実施例水準の請求範囲の記載要件を運営

 

2.改正の内容

□  バイオ医薬発明の明細書の記載要件の判基準及び事例を追加

(改正理由)出願人が明細書に公開した水準に符合する合理的な範囲の請求範囲の記載を誘導する必要性があった。

(改正案)バイオ医薬発明の有効成分を機能・特性のみで表した場合、明細書の記載要件の判断基準を明確にし、具体的な例示を提示することで、審査結果に対する予測可能性を向上させる。

 

□  バイオ医薬発明の明細書の記載要件(サポート要件)に追加される内容

化合物の場合と同様に、バイオ医薬発明の有効成分を機能・特性のみで表した場合は、発明の説明により裏付けられていないものとみなす。ただし、発明の説明においてその機能・特性で表された請求項の発明全体にわたって十分な数の具体的な実施例が記載されていたり、又は機能・特性が表されるようにする配列の共通した構造的特徴が記載されており、出願時、当該技術分野における技術常識に照らしてみて、発明の説明に記載された内容を請求された発明の範囲まで拡張または一般化できる場合には、発明の説明により裏付けられたものとみなすことができる。

 

(例) [請求範囲] 表面プラズモン共鳴により測定するとき、1×10-2-1以下のKoff率の定数でヒト蛋白質Xから解離する、ヒト蛋白質Xに結合する分離されたヒトモノクローナル抗体

 

[発明の説明] 実施例にはファージディスプレイライブラリーから得られた抗体Aを同定した後、CDR配列を改変して改善された抗体Aαを作製し、その後、抗体Aαから派生した200余個の抗体をさらに作製・試験し、ヒト蛋白質Xに結合し、中和活性の高い抗体Aα-1を得た。全ての抗体は、プラズモン共鳴測定法により測定したとき、ヒト蛋白質Xに1×10-2-1以下のKoff率の定数で解離する結合活性を有し、可変領域のアミノ酸配列が母抗体であるAの可変領域と90%以上の相同性を示し、いずれもV3重鎖及びλ軽鎖を有する。

 

☞ 発明の実施例において200余個の抗体が記載されているが、これらは全てA抗体CDR組み合わせのアミノ酸一部に変異を起こし、物性(結合親和性)を改良したものと類似する配列と効果を有する一類型の抗体であるため、出願発明の請求範囲において、解離定数のみで特定した広い範囲の抗X抗体の全範囲を代表するものとみることができない。

 

□  バイオ医薬発明の明細書の記載要件(実施可能要件)に追加される内容

バイオ医薬発明の有効成分を機能・特性でのみ表現した場合、通常の技術者が出願時の技術水準を参酌し、過度な試行錯誤や繰り返し実験等を経ずに、明細書における具体的な実施例等の記載によりその機能・特性で表された請求項の発明全体を正確に理解し、再現できなければ、発明の説明に対する記載要件を満たしていないものとみなす。

 

(例)[請求範囲]1x10-7以上のKdで配列番号1で表されるヒト蛋白質Xに結合し、X媒介シグナル伝達を減少させる、分離された抗Xモノクローナル抗体

 

[発明の説明] ヒト蛋白質Xに結合するモノクローナル抗体で抗X抗体およびそれを改変した抗X-1〜抗X-3抗体を作製し、蛋白質Xに対する結合親和性および抑制活性を測定し、X媒介シグナル伝達遮断効果を試験した実施例が記載されており、そのうち活性が最も優れた抗X-3抗体による脈管形成および腫瘍増殖を抑制する効果が現れた実施例が記載されている。出願日前にヒト蛋白質Xは、脈管形成および生体内腫瘍増殖に関与するシグナル伝達蛋白質として知られている。

 

☞ 発明の説明から、抗X抗体とこれより改変された抗体がX蛋白質に結合し、そのシグナル伝達を抑制することが分かるものの、これは1つの抗体から派生し、類似する配列及び効果を有する抗体に対する実施例にすぎない。この記載からは出願発明に含まれる特定の解離定数と機能を有する多様な抗体の配列を明確に把握することができず、発明の説明には、請求項の包括的範囲に該当する多様な抗体を代表するのに十分な実施例と製造方法が記載されていないので、出願時の技術水準を参酌しても過渡な試行錯誤や繰り返し実験を経ずには、その抗体が請求項に表された機能的特性である解離定数を満たすのか、及びX媒介シグナル伝達抑制活性があるのか、について予測することが難しい。


特許法人元全(WONJON)