映画には、永遠に語り継がれる名セリフ満載の名作も数多くありますが、このコーナーでは目立たないですが「ちょっといい映画のセリフ」を取り上げています

 

~「映画のちょっといいセリフ」~

 

今日は2011年東日本大震災直後に公開の有川浩氏の短編小説を映画化した「阪急電車~片道15分の奇跡~」から

 

▲宮本信子と芦田愛菜(中央に戸田恵梨香)

「もう泣くのはやめなさい」

「泣くのはいいわ。でも、自分の意思で涙を止められる女になりなさい!」

こう話すのは時江を演じている宮本信子で、泣いている孫娘は芦田愛菜(当時6才)です。電車の中でミサ(戸田恵梨香)の彼氏に怒鳴られ、ホームに降りても泣き止まない亜美(芦田愛菜)に向かってお婆ちゃん役の時江(宮本信子)が諭しているセリフです。どう見ても5~6才の孫にかける言葉としてはかなり難解でどうかとも思いましたが、このセリフは孫娘だけに言っているのではなく、実は一緒に降りたミサに言っている言葉であり、さっきまで電車で一緒だった翔子(中谷美紀)に言っている言葉であり、世の女性への励ましの言葉であると思います。そう考えると、この映画は泣いているシーンが多いのも納得できます

 

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「阪急電車・片道15分の奇跡」

2011年/日本(120分)

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有川浩のベストセラー小説を映画化。片道15分のローカル線を舞台に、偶然乗り合わせた乗客たちのささやかな奇跡を描くヒューマンドラマ

 

 

 監督

三宅喜重

 キャスト

中谷美紀/高瀬 翔子 

宮本信子/萩原 時江 

 

戸田恵梨香/森岡 ミサ 

南果歩/伊藤 康江

谷村美月/権田原 美帆 

有村架純/門田 悦子

芦田愛菜/萩原 亜美 (子役)

勝地涼/小坂 圭一 

 

小柳友/カツヤ 

相武紗季/マユミ 

鈴木亮平/羽田 健介 

大杉漣/披露宴の会場係

安めぐみ/小峰 比奈子 

高須瑠香/樋口 翔子 (子役)

玉山鉄二/遠山 竜太 

 

出演者の多くは大阪、兵庫などこの映画の舞台となる阪急電車に馴染みのある地元出身者が多いそうです

 

▲中谷美紀/高瀬 翔子 

▲宮本信子/萩原 時江 

▲戸田恵梨香/森岡 ミサ 

▲芦田愛菜/萩原 亜美

 

宝塚〜西宮北口間を結ぶ阪急電車が舞台_

孫を連れて電車に乗っていた時江(宮本信子)は、純白のドレス姿で乗り込んできた女性、翔子(中谷美紀)に思わず声をかける。翔子は婚約者を後輩に寝取られ、当てつけに白いドレスを着て彼らの結婚式に出席した帰りだった・・。わずか8駅の短い路線の中で、お互い見知らぬ乗客たちの中でもさまざまな悩みを抱えていた・・

この映画は、弱者に寄り添ってくれる映画です。登場人物のみんなが悩みや苦しみを抱えています。たまたま電車に乗り合わせたことで、救われた人が今度はキーパーソンとなり他の人に寄り添ってあげて悩みを和らげてくれるハートフルストーリーです

 

 

 

  さまざまな乗客が織りなす人間模様!

 

婚約中の恋人を後輩社員に奪われたアラサーOL、恋人のDVに悩む女子大生、同級生のいじめに悩む小学生、受験に悩む女子高生、ママ友との付き合いに悩む主婦、田舎から出てきて学校に馴染めない大学生など、それぞれのエピソードも丁寧に描かれています

 

いくつかの短いストーリーが同時進行し、途中からそれぞれ交じり合っていく様は、まるで短編小説を読んでいるような感覚です。みんながみんな弱さや悩みを抱えていて、電車に乗り合わせた人と話すうちに少しづつ悩みも解決していきます。主な登場人物は8人ですが、それを取り巻く人やグループも楽しく分かり易い構成です。テンポが良くところどころ笑えて、時折映る車窓の風景が気持ちの余裕を持たせてくれますね。そして登場人物がみなさんすばらしい。中でも宮本信子さんと中谷美紀さんが飛びぬけて素晴らしかったですね。さらに大人顔負けの演技の芦田愛菜ちゃん。そして、田舎から出てきて友達がいない谷村美月&勝地涼コンビはこの映画ではオアシス的な存在でした。そのほかでも、戸田恵梨香さんや有村架純さんなどみなさん素晴らしかったですが、個人的には、エピソードの最後に出てくるクラスメイトにイジメられる小学生役の高須瑠香ちゃん!思わず「がんばれ!」と声をかけたくなってしまうくらいでした

 

 

  弱者に寄りそってくれる映画

「泣いてもいいのよ」

「この角度からだとあの子たちからは見えないわ」

こう話すのは、かつて同じように泣いていた高瀬翔子(中谷美紀)で、いじめられていた小学生の樋口翔子(高須瑠香)を庇います。同級生の嫌がらせを「聞いてないのに教えてくれてありがとう」と強がって言い放った彼女を「かっこ良かったわよ、わたしは好きよ」と言って同級生の視線を遮るように隣りに座って発したセリフでした。それは、冒頭のエピソードで、突っ張って元恋人の結婚式に出た翔子に、時江(宮本信子)がかけてくれた言葉と同じです。そしてこうも言います

「なんとなくだけど、あなたは私に似てるわ。だから一緒に頑張りましょう」

「ハイ!」

「あなたみたいな女の子はきっと損をすると思う。でも、きっと私みたいにあなたを見てくれる人がいるわ、ガンバレ!」

「綺麗な女は損をするものなのよ」

同じ名前の翔子同士、彼女は強がっている小学生の翔子に、自分と同じものを感じたに違いありません。立場や状況によって励ます者と励まされる者が、阪急電車を舞台にループしていきます。普段使っている電車という日常に近い場所だからこそ馴染みやすく、沁みてくる映画です。常に弱者に寄りそう視線で描かれており、まるで心の中を見透かされているようです。そういう意味で阪急電車は応援歌ですね。この映画は泣くシーンが多いと書きましたが、泣いていた女性たちも今は前を向き歩き始めます

 

 

「悪くないわよね、この世界も」

この映画の試写会は東日本大震災直後でしたが、阪神・淡路大震災を経験していた原作者の有川浩さんは、「自粛は被災地を救わない!阪神・淡路を経験した私たちはそのことを知っています。エンターテインメントを楽しむことを後ろめたいと思わないでください。映画1本分、本1冊分、自分は経済を回すのだと思って楽しんでください。張り詰めた糸が切れてしまわないために、気持ちのゆとりを作るためにエンタメはあるのです」と舞台挨拶で述べています。映画を見に行くたびにふと有川浩さんの、この言葉を思い出します。いま、まさに能登半島地震で多くの方々が苦しんでいます。復興に向け私たちは、エールを送ると共に能登産の魚一匹、野菜一束でも買う事、そして間接的にはエンタメを楽しんで経済を回すことだと思います

 

「悪くないよ、この世界も!」

 

一日も早く、皆がこう感じるようになってほしいです