今年一年ありがとうございました!

 

早いもので2023年もあと数日です。異常気象、物価高、詐欺事件、戦争と暗い話題が多い辛い年でした。そんな中、「ワンダの映画三昧」に今年も多くのみなさんに遊びに来ていただきありがとうございます。今日が今年最後のレビューになります。今年最後ということで、最近アメブロではあまり紹介されなくなった古典の名作を取り上げてみました。この映画は、以前”d9nchan”さんからレビューのリクエストがあった作品です。70年以上前の映画ですが一度は観るべき一本だと思います

 

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「イヴの総て」

1950年/アメリカ(138分)

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ブロードウェイの演劇界の内幕をついた物語で、多くの映画賞を獲得した50年代の名作!

 

 

 監督

ジョセフ・L・マンキーウィッツ

 キャスト

ベティ・デイヴィス/マーゴ

アン・バクスター/イヴ

 

ジョージ・サンダース/アディンソン

ゲイリー・メイル/ビル(マーゴの恋人)

セレステ・ホルム/カレン

ヒュー・マーロウ/ロイド

 

セルマ・リッター/バーディ

マリリン・モンロー/カズウェル

 

監督は「裸足の伯爵夫人」「クレオパトラ」などのジョセフ・L・マンキーウィッツ。主演のマーゴ役には「黒蘭の女」「何がジェーンに起こったか?」「ナイル殺人事件」のベティ・デイヴィス。イヴ役には「彼女は二丁拳銃」「私は告白する」「十戒」のアン・バクスター。晩年彼女は「刑事コロンボ」シリーズの「偶像のレクイエム」にも出ていました。そのほか、ヒッチコックの「レベッカ」「海外特派員」のジョージ・サンダース。グレゴリー・ペック主演の名作「頭上の敵機」のゲイリー・メイル。「紳士協定」などのセレステ・ホルム。彼女は、以前企画した「あなたが選ぶ美人女優」の際、候補に入れたほどの美人女優です。その他にも「三十四丁目の奇跡」「裏窓」などのゼルマ・リッター。そして、新人俳優の役でまだブレイク前のマリリン・モンローが端役で出演しています

 

この作品は第23回1951年度のアカデミー賞で、最多の14部門にノミネートされ作品賞、監督賞、助演男優賞(ジョージ・サンダース)など6部門を獲得しています

 

 

 

▲ベティ・デイヴィス/マーゴ

▲アン・バクスター/イヴ

▲セレステ・ホルム/カレン

▲ジョージ・サンダース/アディソン

 

アメリカ演劇界最高の栄誉であるセイラ・シドンス賞が、新進女優イヴ・ハリントン(アン・バクスター)に与えられた。満場の拍手の中、イヴの本当の姿を知る数人の人達だけは、複雑な表情で彼女の受賞を見守るのだった_
話しは8か月前にさかのぼる。劇作家ロイド・リチャーズ(ヒュー・マーロウ)の妻カレン(セレステ・ホルム)は、毎夜劇場の楽屋口で大女優マーゴ(ベティ・デイヴィス)に心酔する娘イヴ(アン・バクスター)を知り、マーゴに紹介する。哀れな身上話と彼女の聡明さを見抜いたマーゴは、イヴを付き人として雇うことになったのだが、イヴの利発さと抜け目なさに、マーゴは次第に警戒心を抱きはじめる。そんな中、イヴは次第に本性をあらわし、批評家やマーゴの周りにいる人々に取り入ってゆく。そしてついにイヴは、マーゴまでも踏み台にしてスター女優へとのし上がっていくのだが・・・・
実在の女優エリザベート・ベルクナーをモデルとした、短編小説 "The Wisdom of Eve" を原作としており、ブロードウェイの舞台裏、女優たちの熾烈な女の戦いを描いています
 
 

  女優同士のし烈な戦いを描く!

 

いわゆるのし上がり系のストーリーで、スターになるために手段を選ばぬ女優の野望を見事に描いた演劇界の内幕モノで、女優ものの原点のような映画です
 

物語は、演劇界最高の栄誉であるセイラ・シドンス賞の授与式でイヴ(アン・バクスター)が選ばれたところからはじまります。最初にオチを見せてから長いフラッシュバックさせて展開する演出は、オーソン・ウェルズの「市民ケーン」や黒澤明の「生きる」、さらにミステリーなどでもよく使われる技法で、今でこそ珍しくないですが効果的に使われている印象です

 

1950年の作品というと今から73年前の映画なのに、あまり古さを感じさせません。そこに人間の愛と欲という普遍性があるからでしょう。最初から最後まで非常にうまく作られており、計算された無駄のない構成、緻密な人物描写、セリフの面白さ、そして俳優陣の力量の高さがうかがえ、見ているうちに物語に引き込まれていきます

 

 

 

  貫禄のベティ・デイヴィス!

 

ベティ・デイヴィスはこの時42才。すでに「青春の抗議」「黒蘭の女」で2度アカデミー主演女優賞を受賞しており、実年齢そのままに、わがままで傲慢な女優を演じています。ハリウッド史上屈指の演技派と言われるだけあって、この映画のベティ・ディヴィスも凄味があります。傲慢な人気女優を演じながら、自身の女優としての老いを悟り、恋人である年下のビル(ゲイリー・メイル)の前ですら素直に付き合えない脆い女性を演じています。それでいて、車の中で親友のカレン(セレステ・ホルム)に本音を吐露するシーンが切なく哀しいですね。舞台劇のようなセリフの応酬と、顔のクローズアップが多様されており、そのために細かな心の変化まで読み取れます。これにはベティ・デイヴィスを含めた俳優陣のレベルの高さがあってこそできることです

「女は老けるものなのよ。そんな舞台の栄光なんて何になるの」

「何もなくても喝采があるわ」

年下の恋人ビルを愛していながら、舞台と同様に年をとっていくことで一歩踏み出せないマーゴと、どんな手段を講じてものし上がっていこうとするイヴの、決定的なセリフでした

 

この作品の演技により、ベティ・デイヴィスの3度目のアカデミー主演女優賞は確実と言われていたにもかかわらず、共演のアン・バクスターが助演女優賞から主演女優賞に急きょ鞍替えしたため、票が割れて二人とも取れず、この年は「ボーン・イエスタディ」のジュディ・ホリディが獲得しています。まさに、映画さながらバチバチだったのでしょうね

 

 

  面白いセリフが満載!

 

マーゴの自宅で彼女のボーイフレンド・ビルの誕生日のパーティーの時、マーゴはビルがイヴと親しげに話し込んでいるのを見て不機嫌になります。その時のセリフが

「シートベルトをしっかりしてね。今夜は大荒れよ」

このセリフは「AFIアメリカ映画名セリフ」のベスト10にランクインしていますので聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。そして、この時のパーティの中で際立った美人がひとり。それが当時まだ無名だったマリリン・モンローで、劇中でも売り出しの新人女優役でした。この時に有名スターがみんな毛皮のコートを着ていたのを羨まし気に見てひと言

「女はみんな毛皮に引き付けられるのよ。あれはセーブルだわ」

「君がほしいのはセーブルか?、ゲーブルか?」

「両方よ」

セーブルとは黒テンの超高級毛皮のことで、ゲーブルは当時人気絶頂の二枚目俳優のクラーク・ゲーブルのことを指しています。つまり新人女優役のモンローは、お金とスターという地位の両方欲しいと言いのけていたのですが、それがズバリ万人の女優の意見を代弁しているようでした。見ているわたしたちは、その後のモンローの活躍を知っていることもありますが、俄然光り輝いていたように見えました

 

マーゴの古き付き人のバーディ(セルマ・リッター)とのやりとりも面白く、印象的なセリフがいくつもあります。マーゴ(ベティ・デイヴィス)が舞台でつけたガードルが小さいとバーディに文句をつける場面

「これをはいてあなた、2時間半も芝居をする身にもなってよ!」

「わたしなら2時間半かけてもはけないわ」

新しく雇ったイヴは万事そつなく仕事をこなすのだが、なにか不穏な動きに、マーゴがバーディに印象を聞く

「あなた彼女(イヴ)をどう思う?」

「嫌いよ!(即座に)」

おそらく、最初からイヴ(アン・バクスター)に対して違和感を持っていたのは彼女でしょうね。それは彼女が初めてイヴに会った時から、胡散臭い目を向けていました。セルマ・リッターはこの作品でアカデミー助演女優賞にノミネートされています。ヒッチコックの「裏窓」でも看護婦役で出演していて、同じようにかなりの皮肉屋の役回りでした。拙ブログの「~映画を支える脇役たち~PART2」でセルマ・リッターの特集をしています

 

 

 

 

  何度もリピートしたい映画!

 

少し話しが脱線しますが、時々ブログ友や友人、会社の仲間などから「今までで一番の映画は?」「今の映画のおススメは?」などと聞かれることがあります。残念ながら数ある映画の中からだと100本くらいなら書き出せますが、とても1本にはしぼりきれません。新作映画に至っては月3~4本くらいしか見てませんので、なんとも言えません。ただ旧作や再見を含めると、少なくなったとはいえ月30本は見てますので、映画にはそれなりに自信はあります。ですから、「いい映画ってなんでしょう?」と言われると若干ニュアンスが違ってきます。人それぞれだと思いますが、これは「何度でも見たくなる映画」と答えることにしています。感動に涙する名作、オチが分っているサスペンス、度肝を抜くアクションなどなど初見の新鮮さとは別に、いい映画は何度も見たくなります。そういう意味では本作「イヴの総て」「第三の男」「アラバマ物語」などやフランク・キャプラの名作、黒澤明監督作品、そして大好きな70年代の映画は何度も見ます。つまり僕にとってはそれらが「いい映画」に他なりません。この映画も何度もリピートしたい映画の一本です

 

筋を知っていてもというより、筋を知っているからこそ、今まで気づかなかった人間模様や、ちょっとした表情を発見することでより楽しむことができます。先に書きましたが、マーゴの付き人バーディ(セルマ・リッター)は、マーゴを含めまわりの人間が次々とイヴに篭絡されていく中、唯一初めからイヴに心を許していません。初めてイヴと会った時の彼女の表情、マーゴとベッドルームでかわす視線など何度みてもぞくぞくします。このほかにも、見事なカメラやセリフひとつひとつに無駄がなく何度見ても見ごたえがあります。この映画に影響を受けたであろう映画はかなりの数になると思います

 

 

 


▲「サンセット大通り」のグロリア・スワンソン

  VS「サンセット大通り」

 

よくこの映画と同時期公開のビリー・ワイルダー監督の「サンセット大通り」と比較されます。それは作品自体の比較でもありますが、ベティ・デイヴィスとグロリア・スワンソンの比較でもあります。同じショービジネスを描いてアカデミー賞を争った映画です。どちらも素晴らしい映画なのでこの機会に見たことがない人にはぜひ見て欲しいですね。グロリア・スワンソンのひとり舞台の感がある「サンセット大通り」とベティ・デイヴィス、アン・バクスターなどをそろえた「イヴの総て」との比較は難しいですが、地味ながら映画の展開の面白さは「サンセット大通り」の方が優れていると思います。ただ、どちらが好きかというと微妙なところで、「サンセット大通り」はグロリア・スワンソンのひとりを軸に展開していくのに対し、「イヴの総て」は何人もの俳優の競演と、セリフや登場人物の面白さ演技の応酬などみると「イヴの総て」でしょうか。このあたりは好みの問題ですね。かつて、淀川長治氏がアカデミー賞作品賞、監督賞に「イヴの総て」が輝いたことに激怒したと伝えられましたが、イヴ派とサンセット派の評論合戦も読みごたえがありました。いずれにしても両作とも見るべき映画です

 

 

  意味深長なラスト!

 

前半から中盤にかけてはマーゴ(ベティ・デイヴィス)中心に物語が進みます。そして、中盤以降はイヴ(アン・バクスター)中心へと変わっていきます。イヴの企みとしたたかさでスターの座をつかみ取るのですが、演劇評論家のアディソン(ジョージ・サンダース)に全ての真相がバレ、彼の操り人形と化します

「お前は俺の好きなタイプじゃない!しかし他人とも思えん。なぜならお前には野心と才能がある・・お前なら立派にやるだろう」

イヴがマーゴに目を付けたように、今度は若い女優の卵がイヴの懐に飛び込んできます。そして彼女はかつて、イヴがマーゴの衣装を鏡の前で身にあててうっとりしたように、今度は彼女がイヴの衣装を羽織り鏡の前で、喝采を浴びている夢を見ています。それは、新人女優が大女優にとって代わることを予感させるものなのですが、はたしてイヴほどのしたたかな女がそんなことがあるのか?という疑問とマーゴが言っていた「女は老いるものなのよ」というセリフがよみがえり、哀しい末路を予感させます。マーゴにはたくさんの支える仲間がいましたが、イヴには誰もいません。マーゴは自ら引き際を感じて退いたのですが、イヴは蹴落とされて終わることを示唆して物語は終わります

 

鏡の中に見た将来の夢を実現させるために、多く人を裏切り利用して掴んだ大女優という地位に、イヴがかつて語った

「なにもなくても喝采がある」

というセリフがむなしく聞こえるラストでした

 

何度見ても心動かされる名作を是非ご覧ください!

 

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新年は1月2日にレビュー予定で、お馴染みの「シネマDEクイズ/~新春特別版~」を予定しております。是非遊びに来て下さい!