この映画は、70年代の後半に東京下町の青砥京成名画座で観ております。「ジョーズ/Jaws」の大ヒットで一躍有名になったスティーブン・スピルバーグの初監督作品ということで俄かに注目を集めた作品です

 

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「激突!」(DUEL)

1971年/アメリカ(90分)

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トレーラーから追跡される恐怖を描いた、スティーブン・スピルバーグ監督の第一作目監督作品!

 

 

 監督

スティーヴン・スピルバーグ

 キャスト

デニス・ウィバー/デイヴィッド・マン

(大型タンクローリー)

ジャクリーン・スコット/妻

エディ・ファイアストーン/カフェ店主

ルシール・ベンソン/スタンド女店主

 

デニス・ウィバーで思い出すのは、カウボーイハットでお馴染みのテレビドラマ「刑事マクロード」です。ほかの映画は残念ながら観た記憶がありません。この映画はもともとデニス・ウィバーとタンクローリーの二人芝居?ですから登場人物も少なく、出演者の出番も短いです。知った顔というと「大陸横断超特急」(76)「1941」(79)などのルシール・ベンソン。この人はマーロン・ブランドの「蛇皮の服を着た男」(60)で映画デビューしています。妻役のジャクリーン・スコットは「突破口!」(74)、バス運転手のルー・フリッゼルは以前レビューした「おもいでの夏」(71)にちょっとだけ出演しています

 

 

▲デニス・ウィバー(デイヴィッド・マン)

▲主人公?のタンクローリー

セールスマンであるデイヴィッド・マン(デニス・ウィバー)は、商談のため車でカリフォルニアに向う途中、ハイウェイで大型トレイラー型のタンクローリーを追い越す。しかし、その後トレイラーが彼の車を執拗に後ろから煽り、次第にエスカレートしてきて命を狙うような行動を起こす・・・

 

妻の尻に敷かれた平凡な中年セールスマンが、取引相手の元に急ぐ際、ごく軽い気持ちで大型トラックを追い越したことが恐怖の一日の始まりとなる・・ストーリーはごくシンプルで「追い越した車に逆に追いかけられる」という、ただそれだけで90分も緊張感させる映画です。今でいうあおり運転で、50年以上まえにこういう映画が作られていたこと自体驚かされます。車社会のアメリカならではという背景があるのでしょうね。元々はTV映画として製作された作品ですが、評判の良さから日本では2年後の73年に劇場公開されています

 

 

「静」と「動」の巧みな切り替え! 

 

この映画は、ほとんどが車の中のワンシチュエーション・ムービーですが、途中3回だけスタンドに寄ります。このシーンで、主人公の仕事などの状況、性格や心理を説明し、運転中は対トレーラーとの恐怖を描くという「静」と「動」のすみ分けがされており、実に巧妙で大胆です

 

最初に立ち寄ったGSで、妻に電話をします。その内容から彼がセールスマンであること。集金に行く途中で急いでいること。そして、小心者のセールスマンであることが判ります。洗濯機の丸く縁どられた蓋越しに電話をしている彼と、その後ろの車のショットは見事です

二番目に寄ったのがドライブイン。トレーラーから故意に減速したり進路妨害したりの嫌がらせから、猛スピードで後ろから煽られたことから恐怖を感じます。一瞬見たブーツの記憶を頼りにカウンターに座っている男たちの足元を見て犯人を想像するシーンは、黒澤明監督の「野良犬」を思わせる場面でした。

三番目に寄ったヘビを飼っている変わったスタンド。電話BOXから警察へ電話している時に轢き殺されそうになり、楽観的に考えていた彼は「殺される」ことを確信します

 

いったい誰が何のために?

 

クライマックスへと一直線に突き進むたたみ掛けは見事で、当時弱冠25才というスピルバーグ監督の非凡さを知らしめた作品であります。なお、本作は撮影から編集までわずか3週間弱という超低予算映画であったことも付け加えておきます

 

 

 

 

姿を見せない恐怖は「ジョーズ」へ 

 

主人公のデイヴィット役は、当初スピルバーグは「ローマの休日」「アラバマ物語」のグレゴリー・ペックにオファーしたと言われています。結果的に、この大スターに断られるのですが、これが逆にスピルバーグには幸運だったかもしれません。ごく平凡でさえない男が、最後の最後で勇気を振り絞って「怪物」と対峙する姿は、失礼ながらデニス・ウィバーの方がふさわしく感じてしまいます

 

本作には、犯人であるトレーラーの運転手の正体はいっさいわかりません。一貫して姿は見せず、手、足などしか見せません。したがって、このトレーラー自体が意志を持った「怪物」のように見えます。時には待ち伏せ、時には踏切で押され、黒い煙を上げながらせまりくる怪物です。サスペンスというよりトレーラーという怪物に追われるホラーです!正体を見せず、けたたましい音だけで迫りくる恐怖を植え付ける手法は「ジョーズ」とまったく同じで、この怪物トレーラーは「ジョーズ」のホオジロザメへと引き継がれていきます

 

姿を見せず音と画像だけで恐怖を煽る演出は見事の一語です

 

 

行き詰った時に観る映画?!

 

監督としては、世界最高のヒットメーカーの一人として挙げられるスピルバーグ監督ですが、今でも行き詰った時には必ずこの映画を観るそうです。「ジョーズ」「ジュラシックパーク」「E.T.」「シンドラーのリスト」など多くのヒット作、名作を生み出したスピルバーグをしても、この作品が原点なのでしょう。ちなみに他監督作品で良く観るのは黒澤明の「七人の侍」、フランク・キャプラの「素晴らしき哉、人生!」、デヴィッド・リーンの「アラビアのロレンス」を挙げています

 

必ず観るべき一本です

是非どうぞ!