「ハードエッジ系」望月けいさんとのお仕事(前編) | ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト 開発スタッフブログ

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というわけで、かくかくしかじかな(じつはかなり単純なw)理由から『ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト』FILE:06の担当イラストレーターとなった“望月けい”さん(その経緯は7月13日(金)ごろ発売のワンフェス公式ガイドブックの該当記事を参照してください)。
今回は、まずその望月さんが普段描かれている創作系イラストを数点紹介させていただき(もちろん望月さんの個人Webサイトにアクセスすればそれらを見ることはできるんですけどね)、望月さんの描くイラストの魅力と特徴を『ワンダちゃんNEXT DOORプロジェクト』からの視点なりに紐解いてみますね

……いや、実際のところ、望月さんの描くイラストの魅力や特徴って「言葉」に置換するのがひどく難しいんですよ
 

(※ちなみにこのブログを閲覧するPCやスマホのブラウザ環境によっては、イラストの色味がかなり残念な色味で表示されてしまいます。望月さん、ごめんなさい……。)
 
 
▲ある意味において「もっとも望月さんらしい」と思わせる1枚。パッと見だけだと「手づかみで肉を食いちぎっているワイルドな女の子」という情報だけが飛び込んできて終わってしまうのですが(肉にだけ暖色系の色が使われているのはおそらくはそのせいでしょう)、よくよく見ていくと女の子は皿の上に座っていて、皿の上にはナイフやフォークのカラトリーも置かれている。それに気付くと髪の毛はパスタのようにも見えてくるし、スカートは(色こそ黒いものの)皿の上に敷き詰めた野菜のようにも見える。「……肉を食べてはいるけれど、じつはこの女の子自身がこれから(巨人に)食べられてしまうメインディッシュなのでは!?」みたいな情報までが盛り込まれているのです。とにかく「COOOOL!」のひとことに尽きますね

 

▲あえて望月さんには問い合わせていないのですが(聞けばいくらでも教えてくれるはずなんですけど)、「愛と正義ちゃん」というちいさな書き込み文字を見る限り、イラスト右端に描かれた女の子の心情風景が後方のビルディングに描かれているんだろうな、というイラスト。望月さんは主に寒色系の色を多用したイラストを多く描かれているのですが、そこに差し色として暖色系=ショッキングピンクを思い切りよく入れてくるあたりの色彩設計能力の高さが「さすが」のひとこと。これもまた「COOOOOOOOOOL!」ですね

 

▲望月さんの、Twitterのヘッダー画像にも使われているイラスト(※'18年6月下旬現在)。「……この魔法少女と思われる女の子はどうして巨大化しちゃったの?」ということは置いておくとして、女の子はあえて(魔法少女の記号である)暖色系のパステルカラーでカラーコーディネイトし、マンションと空を寒色系でカラーコーディネイトしているインパクトの強い1枚。また、女の子の手前に電線や電柱を配置するあたりはおそらく『新世紀エヴァンゲリオン』などの影響ではないかと思われる描写も存在し、望月さんのこれまで培ってきたルーツが想像できるイラストと言えるかもしれません。そして、いわゆる“アホ毛”が「何のために描かれているのか(そもそもその存在意義とは何なのか?)」をしっかりと感じさせるイラストだとも思います

 

▲前回のブログで説明した「望月さんの描く美少女イラストは白目部分が白く塗られておらず、白目部分が肌色で塗られている」という事実がよく確認できる1枚。指摘されなければなかなか気付かない、というか、指摘されてもそのことがまったく気にならない手法を望月さんは独自に確立しているわけですが、ただし、それをそのままフィギュアで再現し「白目が肌色で塗られていることがまったく気にならない」というところへ持っていくのは非常に難しいのです。そこが2Dのイラストと3Dのフィギュアの「1D増える分だけ表現を変えて見せてあげないと違和感が生じる」という問題なんですね


……と、まあ、こんな感じで、じつは望月さんのイラストってじっくり研究していけば研究していくほどかなり個性的なんですよ。「絵柄がスタイリッシュ」というよりも、絵を構成する線そのもの自体がスタイリッシュ。そのスタイリッシュさをどう上手くワンダちゃんのキャラクターデザインに活かしてもらうべきか? そのあたり、望月さんは自分の描く絵に対しかなり自覚的な雰囲気が漂っていたので、「今回は割と楽勝で行けちゃうんじゃない?」と安易に考えていたのですが、そのじつ蓋を開けてみたらこれまででいちばん「産みの苦しみ」を味わうこととなってしまったのでした。

というわけで、いつものように「フィギュア化されることをなるだけ意識せずに何案かラフスケッチを上げてみてください」というこちらからのオーダーに対し提出されてきたのが、下に掲載する第1稿たるキャラクターデザインです(本当は6点あったのですが、抜粋し4点のみ掲載)。

▲なんと言うか……「よい」とか「悪い」とかいう話以前に、どれも「望月さんらしさ成分」がまったく足りていないんですよね。野球のピッチャーにたとえるならば「置きに行った」というか、無難な落とし所を目指していて「抜け感」が悪いと言いますか……


どうしてこういう事態に陥ってしまったのかと言うと、《まったく存在していないように思えるのに、じつは結構存在している“ワンダちゃん”という名の呪縛》に望月さんがハマってしまったからなんですね。
つまり、故・水玉螢之丞先生が描いていた「元気、元気!」感溢れるワンダちゃんは普段望月さんが好んで描く創作系キャラクターとタイプがほぼ真逆なため、自由気ままにワンダちゃんを描こうとしても、水玉版ワンダちゃんにどうしても引きづられて行ってしまう……という現象が生じてしまったわけです。

結果、望月さんは完全に自分のフォームを崩してしまい、第2稿はさらにキャラクターデザインが明後日の方向にふらふらと彷徨って行ってしまうこととなってしまいます。

 

▲「フィギュア化されることをなるだけ意識せずに」というリクエストは確かに出しましたが、ここまで特徴のないポーズや服装だと「フィギュアとして魅せる」のが難しいのも事実。ただし頭部のデザインにだけ目を移せば、「望月さんなりのワンダちゃん像」がなんとなく固まってきた感じが伺えます

 

というわけで、いよいよ迷宮の中を彷徨いはじめてしまった望月さん版ワンダちゃんのキャラクターデザイン
果たしてここからどうやって迷宮を抜け出し、そしてフィニッシュへと辿り着いたのか? この回、後編へと続きます。
それでは乞うご期待!