ある地方の某所に、前々から気になるエリアが存在していた。農地と雑木林とまばらな住宅がパッチワークのように点在する、昔からの風景が広がっているのだが、とある一角だけは特殊な雰囲気を漂わせていた。

雑木林には常時100羽を超えるカラスが群がり、周囲には牧場特有の牛や豚の糞尿臭に加えて、腐敗したような臭いが常に漂っていた。
そんな場所なので住宅はさらに少なく、自然があるために上空では希少種であるオオタカやノスリといった鷹が飛び回り、カラスと毎回バトルを繰り広げていることもあり何度も訪れていた。

そんな場所へ通ううちに偶然廃墟も見つけたため、仕事に出かけた際に私はカメラを持ってついでに立ち寄ってみることにしてみた。

(以降、ゴミや生物の死体などがあるため閲覧注意)



鬱蒼とした枯れ草の向こうにその建物は存在していた。
この時点で酪酸などの成分を含んだヘビーな牛や豚特有の糞尿臭が広がっている。糞尿は時々空き地に山積みになり、やがてまとめて畑の有機肥料に転用される。自分としてはまだそんなに気にならない臭気。



さて、気になる廃墟に近づいてみる。廃墟の周辺からは、大量のカラスが抗議の鳴き声をあげながら飛び立った。だんだんと嫌な腐敗臭が強くなってくる。普通ではない状態だが行ってみよう。



無人の放棄された、牛か豚の飼育場のようだ。


普通と違うのはとにかく腐敗臭がただよい、放置されたごみだらけ。さらにカラスの白っぽい糞がいたるところに落ち、乾燥して、羽のカスなどと一緒に空中に舞っている。このあたりで、ちょっと入ったことを後悔。 マスクをしていたことは正解だった。この空気を吸い込んだら得体のしれない病気になる。



エサの入っていたサイロは倒壊しているものもあれば



まだ残っているものもあった。そして手前の鉄箱には、ビニール袋に入ったり、むき出しの状態で大量の生ゴミが入れられていた。なんだこれは。異常な臭いの原因はこれのようだ。



生ゴミは比較的新しいものもあるが、きつい腐敗臭が鼻をつく。撮影時はまだ春先で気温が低いからこの程度で済んでいたが、夏などではここから新しい伝染病が発生するぐらい危険だ。



そんな腐敗した生ゴミの中には、カラスの死体まで転がっていた。「鳥インフルエンザとかで死んだんじゃ?」と思い、即座に撤収を決意する。もちろんちらばる生ゴミは絶対に踏まないように気をつける。 気を抜いたらいけない。



撤収しながら周りを撮影。畜舎は塀が低いことから豚を飼っていた可能性がある。





ゴミは新しいものから古いものまで雑多にあるが、生ゴミに関しては現在進行形で捨てられ続けているのは間違いない。雑木林はたくさんあるのに、この一角だけカラスが群がっているのも、この生ゴミがめあてだったのだ。


さらば、危険な廃墟。カラスがやっぱり抗議の声をあげていた。



帰る途中にも接近に驚いたカラスが飛び立った。


さて、なぜあそこには大量の生ゴミが捨て続けられているのだろうか?調べたり、以前から聞いていた情報を改めて考えてみると、ある事実が浮かんできた。

まずなぜ生ゴミが常に供給されているのかという問題は、上空からの写真にヒントが隠されていた。
探索時には気が付かなかったが、廃墟エリアに隣接して真新しい現役の建物が複数あることが確認できるた。
ここで飼っているのはおそらく豚であり、豚は人間の残飯などで育てる場合もあるため(最近は専用の飼料のみで育てることも多い)、食糧や給食工場、食品流通などで大量にでる残飯を畜産農家では毎日定期的に集められているのだろう。しかし残飯はしょせん残飯なので、中には腐敗していたりして豚も食べられないようなものがある場合もあるため、そういったものはこの旧畜舎エリアに投機しているのではないかと思う。

普通の感覚だったら埋めたり、まともに発酵処理をして有機肥料などに変えるのだろうが、ここでは適当にビニール袋のままほったらかしているのだろう。

カラスの死体もあったが、別の友人による調査ではカラスの大量死事件がこの周辺で時々発生していることがわかり、原因は鳥インフルエンザではなく、腐敗した食べ物による腸炎などだったことが分かっている。ニュース記事では発生源は分からない、とあったが発生源はここだとしても全くおかしくない。というか、ここで決まりだろう。おそらく。95%ぐらい。

こういった臭いが問題になっていないのかと思い、「この地名 悪臭」などで検索すると出るわ出るわ。ある掲示板では毎回臭いと話題になっていた。地元自治体の議会でも問題になっている旨の議事録があり、地元議員のブログなどでも「対策を講じたいが原因が分からない」と書いていた。ここですよー、ここ。ものすごく教えてあげたい!
というかメールを送りたい。

近隣のショッピングセンターでは風向きによって臭いという苦情や情報がツイッターなどでも毎回書かれていた。なんだか気の毒なぐらいだ。

ここは「ある川」の源流域なのだが、地元住民の友人から以前より、このあたりの畜産農家が雨になるとわざと糞尿を川に流したり、昔は豚の死体を流して、川に引っかかっていたなんて話を聞いていた。私が子供の頃も、あの川はとにかく汚い川という印象しかなかったが、最近は川の汚染も少しはましになりつつあると思っていた。しかし畜産農家のこのモラル破たんぶりを見ると、今も行われているのではないかとも思った。

この危険な廃墟。入る時には、せめて使い捨てブーツカバーとサージカルマスクぐらいは最低でも必要、できれば使い捨て防護服とゴーグルも装備しないと本当に危険だ。