「富士火山貞観噴火と青木ヶ原溶岩」
荒牧重雄,藤井敏嗣,中田節也,宮地直道編集
『富士火山』(2007年、山梨県環境科学研究所,p.303-33)収録
全文
http://www.yies.pref.yamanashi.jp/fujikazan/web/P303-338.pdf

富士山の北西部に位置する青木ヶ原樹海は、西暦864年(貞観6年)に起きた「貞観噴火」によって、長尾山および付近の亀裂から膨大な溶岩が噴出して作られたことは、研究者のみならず富士山好きや樹海好きにもそれなりに知られている。なお北側にあった湖「セの海」は溶岩によって分断されてしまい、今の西湖、本栖湖、精進湖という三つの湖になってしまっている。
というわけで、樹海といえばそこを構成している噴火による溶岩がなければそもそも成立しなかったわけだが、この溶岩に注目した研究論文が上記のものである。

近年の調査では、『富士山の謎をさぐる 富士火山の地球科学と防災学』(日本大学文理学部地球システム科学教室編、築地書館、2006年4月1日初版)が、最新の溶岩研究をとても分かりやすく書いている名著なのだが、この本の編者の一人でもある宮地直道日本大学准教授も上記の論文に関わっている。

『富士山の謎をさぐる』は一冊2400円もする高価な本だが、論文はpdfでも見ることができ、つまるところタダで最新の研究成果が分かるというわけで、富士山や樹海好きは見ない手はないと断言する。マジで。もちろん本当に研究している人は、上記の本も買って研究者の印税に貢献するように。

この論文ならではの見所というのを分かりやすく書くとこんな感じ。

・通説では貞観噴火は富士山の脇火山である長尾山から流れたってことになっているけど、超具体的に複数の噴火口が分かる(他に下り山火口、石塚火口、天神・伊賀殿火口、氷穴火口など)。しかも時期によって、どこから噴出して、どう流れていったか、多層的にまで分かる。

・アア溶岩、パホイホイ溶岩、その中間型という、樹海を形成する溶岩のタイプが写真つきで分かる。さらにその溶岩組成まで。ちなみに「スラブ状パホイホイ溶岩」ってのは、「溶岩の海」を構成する板状溶岩のこと。

・最新の研究成果である、航空レーザ計測結果に基づいた「赤色化立体画像」と、各地の掘削ボーリング調査の成果がある程度分かる。

おおまかに書くとこんな感じか。
ともかく樹海マニアの人は、見ておいて損はないと思うぞ。タダだし。

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