木刀の打ち合う音がする。

その音の間に、時折幼い気合いの声が入ってくる。

儂の名は三好清海

娘らの稽古に顔を出す所だ。

この里では子供達は皆で面倒を見る。

それ故、儂は他の娘らにも『祖父さま』と呼ばれている。

大きく風を斬る音がした。
桔梗の薙刀だ。

その切っ先をうまく躱しているのは弥生。
弥生の父は海野六郎という体術使いだった。
弥生もヤツに似て、柔らかい体の持ち主で、短刀を逆手に持ち、桔梗の薙刀を体で捌いている。

もう一方の組はどちらも小太刀。
順手にしているのがタイ捨流の使い手、根津甚八の孫、蛍。
この中では一番幼い娘だが一撃離脱の技を使うタイ捨流の小太刀を上手く使う。

打ち込みの甘さを指摘しながら、その相手をしているのは霞。

霞はこの中では一番年上で、面倒見もよく、腕の方も泣き虫の犬坊や食い意地のはった小源太なぞよりよほど使える娘だ。

霞は穴山小助の娘。
かつて、幸村様の影武者となって敵陣を食い止めた男だ。

皆、散っていったあの大阪の陣で…

『祖父さま!』

霞の声で娘らが駆け寄って来た。

男の子らは左馬介と桔界の見回りに同行している様だ。
実戦を想定した訓練だろう。

娘らが一斉に黄色い口を開く…
…何を言ってるのかさっぱりわからん…

曰く、どうやら男の子らと稽古の内容が違うのが不満らしい。

儂は娘らの口を塞ぐ為の武器を懐から取り出した。

すなわち飴玉を娘らの口に放り込み、近くの石に腰を下ろし『よく聞け…』と、ゆっくり口を開く。

元来、娘が使う武器や武術は『力』でやる刀の技とは発想が違う。
なぜなら根本的に男より力で劣るからだ。

と、また黄色い声が上がる。
確かに今は娘らの方が大きい。
しかし将来的にはどうか?
ならばこそ足を使い、体を捌き、相手の懐に入る剣法体術を身につけるが上策。

しかるに薙刀の技を合わせて学べば、大小の戦いに理があるというもの。

他に娘らには弓、手裏剣、毒や薬、記憶術、化け物(変装)術も教える。

幸い先代十勇士は皆、面食いの上、娘らは母親に似た為、皆器量がいい。
これは芸人や舞手、貴人に化けるのに都合がよい。

こういう時は、奴らの悪癖に感謝したくなる。

さあ、薙刀の稽古じゃ!
娘が扱いに慣れるには『演舞』が良策!

ぱたぱたと走って行く娘らとは反対の峰を見ると、一画に白い花が咲いていた…

あの花の事もいづれ話さねば…