大人になってから、親友並みの友達が出来ることってなかなかないと思う。

子どもが小さい頃毎日のように顔を合わせていたママ友たちは、子どもが大きくなると疎遠なった。

その場その場で仲良くする人はいても、その場を離れれば疎遠になる人がほとんどで、私には友達らしい友達もいない。

そんな中で唯一親友と呼べる通称『マリリン』とは、凌亮と同じ職場で働く前に、半年の短期アルバイト募集で知り合った。

一緒に働いた期間が半年とは思えないほど意気投合し、お互いの仕事が変わっても無職の期間であっても、年に数回は顔を合わせ近況報告をする間柄となった。

凌亮と同じ会社で働いていた頃は、いろんな世代の人が集められていたこともあり、何かと話題に事欠かず、マリリンとのランチ会でも毎回話をしていた。

凌亮の話もしてはいたが、凌亮への気持ちは自分自身も言葉にするには難しく伝えてはいなかった。

久しぶりのマリリンとのランチ。

なるべく冷静に私は淡々と話すことにした。

会社最終日に凌亮に『これからも会って欲しい』と言われたこと。

それが何を意味するのかということ。

すでに体の関係になったこと。

それでもまだ時々これで良いのかと悩んでしまうこと。

するとマリリンは案外冷静に
「話を聞いていてそうなるかなって思ってたよ」
と答えた。

凌亮のことが気になっていることさえ言っていなかったのに、私の気持ちはだだ漏れだったようだ。

マリリンは正論を振りかざして反対することもないけど、大手を振って応援するというわけでもない。

だけど私の夫婦間のことも知った上で、理解を示してくれた。

「私に手を差し伸べてくれた、王子様みたいな人」

私はそんなふうに凌亮のことを言った気がする。

その日からマリリンとの間で凌亮は『王子』というニックネームになった。

「でもね、私まだ悩んでる。家族を不幸にはしたくない。でも王子ともこれからも会いたい」

「どっちかが不幸になるんじゃないよ。唯は家族も王子も両方幸せにするんだよ」

あの時そう言ってくれたこと、マリリンはもう忘れているかもしれない。

でも私はこのマリリンの言葉で自分の気持ちが決まった気がした。

「でも気をつけてね。不倫すると女性特有の病気に罹るってジンクスのようなものがあるから」

マリリンの言葉に一瞬緊張が走った。

『女性特有の病気』って婦人科系ってことかな?

私は家族も凌亮も幸せにしたい。

でもいろんな覚悟はしておかないといけない。

そのジンクスがその通りになっても受け入れる覚悟をしないといけない。

「あと避妊は絶対だよ」
「うん。それはもちろん」

避妊を相手任せにはしたくないと思った私は、後日産婦人科に行き、低容量ピルを受け取った。

絶対間違いが起きないために。