第十六章 鬼神との戦い
フレデリックは最初に、大型の多弾頭ミサイルや
ロケット弾を撃った。
背部のミサイルポッドが開き、無数の弾頭が放たれる。
肩部のロケットランチャーも咆哮する。
爆炎が、ババロンの上空を覆った。
だが――
この種の兵器は、ガーディアンには通用しない。
建造物や地形には被害を与えられるが、
常に浮遊しているガーディアンに地形変化は無意味だ。
主目的は、ジャミングと撹乱。
視界と各種センサーを潰すこと。
それが狙いだった。
「『ブランシュ』は、『紅男爵』から
常にデータリンクで情報が伝達されている」
フレデリックは呟いた。
戦場を把握できる能力は、
『クレオパトラ』を上回っているはずだった。
その為に――
先に監視衛星を破壊した。
反物質反応弾等で地上のセンサーを無効化した。
ダメ押しが、このミサイルとロケット弾の攻撃だった。
「投棄!」
フレデリックは発射後、関連装備を切り離した。
撃ち終わったミサイルポッド、ロケットランチャー。
それらが宙域に放たれる。
重量を減らす。
機体への負担軽減のためだ。
その間にも、フレデリックは
『クレオパトラ』の防御シールドの隙間を探していた。
速射砲が火を噴く。
レールガンが咆哮する。
各種砲弾を撃ち込む。
当然、『クレオパトラ』からの砲撃も来る。
光の弾丸が、『ブランシュ』を狙う。
だが――
紙一重で避けられる精度だった。
「センサーへの攻撃が、効いている……!」
フレデリックは確信した。
だが――
そう思った瞬間。
『ブランシュ』の数メートル前を、斬撃が横殴りに走った。
光剣の眩い光。
目が眩む。
「くっ!」
ここで後退したら、追撃される一方になる。
フレデリックは機体は下げずに、砲撃を増やした。
絶対に防がれる砲撃も増やして、牽制する。
エネルギーゲージの減りが、大きくなる。
『MOTOR』が悲鳴を上げている。
『クレオパトラ』の攻撃は、容赦なかった。
光の刃が、次々と『ブランシュ』を襲う。
砲撃用武器が、破壊されていく。
肩部のレールガン――破壊。
右腕の速射砲――損傷。
使えなくなったものは、投棄していった。
「アン! 答えてくれ!」
フレデリックは叫んだ。
だが、アンは最初の通信以降、何も応じなかった。
眼の前の鬼気迫る勢いの、
まるで鬼神のような『クレオパトラ』。
あれに、アンが乗っているなんて――
フレデリックには信じられなかった。
優しかった彼女。
笑顔が美しかった彼女。
『イリス』を愛情深く育てていた彼女。
その彼女が、こんな――
「違う……これは……」
フレデリックの思いが、油断になった。
瞬間――
『クレオパトラ』の光剣が、
『ブランシュ』の左腕を捉えた。
ガギィィィン!
装甲が裂ける。
内部のエネルギー伝達ラインが切断される。
『警告! 左腕動力系統、損傷! 稼働不能!』
機械音声が告げた。
「くそっ!」
フレデリックは左腕の動力をカットした。
エネルギー消費は抑えられた。
だが、死角が増えてしまった。
徐々に、左側からの被弾が増えていき、
エネルギーの消費量が増えていく。
『クレオパトラ』は、容赦なくその死角を突いてくる。
光の刃。
光の弾丸。
衝撃波。
その攻撃に、ジリジリと後退せざるを得なくなる。
「これまでか……」
フレデリックがそう思った時――
『クレオパトラ』の斬撃が、迫った。
光剣が、『ブランシュ』の胸部を狙う。
直撃だ。
データ収集1度目にして、
『ブランシュ』が落ちるのか……
フレデリックは目を閉じた。
だが――
ガキィィィン!
金属が激しくぶつかり合う音。
フレデリックは目を開けた。
「!?」
『ブランシュ』の左前の空間が歪んでいた。
そして――
緑色のガーディアンが、突然出現した。
転送か?
いや、違う。
高度なステルスだ。
明らかになったそのガーディアンは――
『ドライアード』。
ジョナサン・リヴィングストンの愛機だった。
全身を覆う防御バインダー。
重装甲と強力な防御シールド。
更には、魔法による結界まで発動できる。
完全防御型の、接近戦が得意な機体。
『ドライアード』は、
『クレオパトラ』の光剣を防いでいた。
「もう限界だ。撤退しろ」
ジョナサンの声が、通信に響いた。
「ジョナサン……!」
「いいから、早く!」
フレデリックは、素直に従った。
『ブランシュ』が後退する。
『ドライアード』は、『クレオパトラ』の攻撃を
全て防御しながら、徐々に後退していく。
防御バインダーが次々と展開される。
魔法の結界が、光の刃を弾く。
そして――
その戦場から、離脱した。
流石に、『クレオパトラ』も追撃はしてこなかった。
『クレオパトラ』のコクピットで、アンは呟いた。
「……フレデリック」
彼女の手は、震えていた。
「なぜ……なぜ、あなたが……」
『イリス』が静かに言った。
「陛下、敵は撤退しました」
「わかっている」
アンは操縦桿から手を離した。
「わかっているわ……」
彼女の目から、一筋の涙がこぼれた。
宙域の彼方。
『ワイバーン』が、『ブランシュ』と
『ドライアード』を回収した。
「データは取れたか?」
クリスが尋ねた。
『ああ……何とか』
フレデリックの声は、疲れ切っていた。
「カルタゴ帝国とルパート王国は……
この戦いで数十隻の艦艇を失った」
ゲーリーの重い声が、通信に響いた。
「ミサイル艇は、全機撃墜された」
沈黙。
重い、重い沈黙。
「すまない……僕のせいで……」
フレデリックが呟いた。
「お前のせいじゃない」
クリスが言った。
「これは、戦争だ。犠牲は出る」
「でも……」
「データは取れたんだろ?
なら、彼らの死は無駄じゃない」
クリスは強い口調で言った。
「次で、勝てばいい。それが、彼らへの弔いだ」
フレデリックは何も言えなかった。
ただ、拳を握りしめることしかできなかった。
『ブランシュ』のコクピットで、
フレデリックは一人、呟いた。
「アン……君は、何も言ってくれなかった」
彼の声は、震えていた。
「僕の声は、届いていたのか?」
答えは、ない。
ただ、静寂だけがあった。
報われない想い。
届かない声。
そして、増えていく犠牲。
フレデリックは、更に追い詰められていった。
――続く――