第二百一弾「鋼鉄の夢、永遠の想い その7」の続きです

 

 

第十四章 超空間航行


『ワイバーン』は大気圏を突破し、
宇宙空間へと到達した。

「よし、ワープ準備に入る」
クリスが言った。

『了解』
フレデリックが答えた。

ガーディアンは長距離移動では超空間跳躍
――所謂ワープを行う。
通常の移動も速い。
標準的な機体でも光速の50%。
そして『ワイバーン』の最高速度は光速の90%近かった。
ただ、機動となると速度は落ちる。
機体の負荷が大きいからだった。
重量物を大出力で無理やり機動させれば、
機体に負荷がかかるのは当然のこと。
それは常に自己修復を行っているガーディアンでも、
いずれ限界が来る。

『ブランシュ』のコクピットで、
フレデリックは考えていた。
当初、『ブランシュ』を高機動戦仕様にしようとした。
だが、その場合の機体にかかる負荷を考えると、
致命的になる可能性が高い。

「高機動戦仕様にするのは……
データ収集が最後と思った時にしよう」
フレデリックは呟いた。

最後の賭け。

それまでは、機体を保たせなければならない。

「ワープ開始まで、あと30秒」
クリスの声が響いた。

『了解』
フレデリックは深呼吸をした。

ガーディアンの内部は、非常に快適だった。
長期間居住が可能な設計になっている。
ワンルームだが、ユニットバス、キッチン、
冷蔵庫、クローゼット、ベッド、リビング。
2人くらいなら生活できる居住空間だった。
自動調理器があるから、食事に困らない。
それに必要なマテリアルも大量に搭載している。
ワールドネットを使えるから、
いろんな情報も得られ、暇つぶしもできる。
戦闘シミュレーション機能もあるから、
訓練を行うこともできる。
工作機械でもの作りをすることも可能だ。

「まるで、小さな家だな」
フレデリックは苦笑した。

ここで何日も過ごすことになるかもしれない。
いや、もしかしたら――
ここが、自分の棺桶になるかもしれない。

「ワープ開始! 超空間展開!」
クリスの声が響いた。

瞬間――
世界が歪んだ。
空間が捻じ曲がり、光が渦を巻く。
『ワイバーン』と『ブランシュ』は、
超空間へと突入した。

超空間航行中。
外の景色は、流れる光の帯だった。
美しく、それでいて不気味な光景。
『ブランシュ』のコクピットで、
フレデリックは戦闘シミュレーションを起動させた。
メインディスプレイに、仮想戦場が展開される。
敵機――『クレオパトラ』。
白金と黄金の巨体。
エメラルドグリーンの瞳。

「シミュレーション開始」

フレデリックは操縦桿を握った。
『ブランシュ』が動く。
両腕の速射砲が火を噴く。
肩部のレールガンが咆哮する。
背部のミサイルポッドが一斉に解放される。
だが――
『クレオパトラ』は防御シールドを展開し、
全ての攻撃を弾いた。
そして、カウンター。
光の刃が『ブランシュ』を両断した。

『シミュレーション終了。敗北』
機械音声が告げた。

「……もう一度」

フレデリックは再起動させた。
今度は、距離を取る戦法。
中距離からの砲撃で、相手のエネルギーを削る。
だが――
『クレオパトラ』は圧倒的な速度で距離を詰め、
格闘戦に持ち込んだ。
『ブランシュ』の重装備では、機動が追いつかない。

『シミュレーション終了。敗北』

「……もう一度」

フレデリックは何度も繰り返した。
十回。
二十回。
三十回。
何度やっても、勝てない。
何度やっても、納得できない。
だが――

「数多くのパターンを学習するのも、重要なことだ」
フレデリックは呟いた。

完璧な戦術など、ない。
だが、可能性を少しでも高めることはできる。
相手の動きのパターン。
自分の機体の限界。
エネルギー配分の最適化。
それらを、体に叩き込む。

「もう一度」

フレデリックは、再びシミュレーションを開始した。

その頃――
『ワイバーン』のコクピットで、クリスは呟いていた。

「頑張ってるな、フレデリック」

彼には聞こえていた。
『ブランシュ』のコクピットから漏れる、
シミュレーションの音。
何度も何度も繰り返される、敗北の音。

「お前、本当に……アンを止められるのか?」

クリスは不安だった。
フレデリックの想い。
その重さは、わかる。
だが――
アンは、フレデリックをどう想っているのか。
それが、わからない。

「まあ、俺にできることは、
お前をそこまで運ぶことだけだ」

クリスは操縦桿を握りしめた。

「頼むぞ、フレデリック。無駄死にだけはするなよ」

超空間の光が、流れていく。
目的地まで、あと数時間。
戦いは、もうすぐだった。

『紅男爵』と『コブラ』2機も、
別ルートで超空間航行を行っていた。

「目標地点まで、あと3時間」
ゲーリーが確認した。

「情報収集の準備を整えろ。
今回の任務は、フレデリックを生きて帰すことだ」

『了解!』
『コブラ』のパイロットたちが答えた。

三機のガーディアンは、
静かにシュトゥットガルト公国へと近づいていった。
運命の時が、迫っていた。

――続く――