第百九十九弾「鋼鉄の夢、永遠の想い その5」の続きです

 

 

 

第十二章 戦術の構築

フォークストン王国、地下格納庫。
フレデリックは『ブランシュ』のコクピットで、
キーボードを叩き続けていた。
画面には、無数のデータが流れている。
エネルギー効率。
装甲強度。
武装配置。
そして――『MOTOR』の出力調整。

「ガーディアン同士の戦闘は、
結局はエネルギーの削り合いになる」
フレデリックは呟いた。

半永久機関

『MOTOR(Mighty Only Time Over Reactor)』は、

無尽蔵のエネルギーを生み出す。
だが、それは理論上の話だった。
実際には、個体により時間あたりの
エネルギー生産量が異なる。
生産量が無限でも時間辺りの生産量で

使用出来るエネルギーの量に制限が課せられ、

使用量がその生産量を上回れば、エネルギー切れを起こす。
そして、一定量のエネルギーが蓄積されるまで、
稼働できなくなる。

「ガーディアンは全てを『MOTOR』に依存している」
攻撃。
防御。
機体の稼働。
自己修復。
自己整備。
自己進化。
自律型有機AI『イリス』の稼働。
そして、搭乗者の生活。

全てが、『MOTOR』からのエネルギーで賄われている。

「戦闘では、相手のエネルギーを削ることが重要だ」

防御や被弾回数を増やす。
無駄な攻撃を多くさせる。
そうすることで、相手のエネルギーを消耗させ、
最終的に機能停止に追い込む。

が大抵はその前に撤退していく。

「『クレオパトラ』は……『MOTOR』を2基搭載している」

フレデリックは自分が設計した機体のデータを見つめた。
『クレオパトラ』や伝説の『ファラオ』は、
エネルギー生産量を増やすために
『MOTOR』を2基搭載している。
圧倒的な出力。
それが、最強と言われる所以だった。

「だが、デメリットもある」

2基の『MOTOR』の同調は難しい。
エネルギーの伝達効率が変動しやすく、
機体バランスを崩しやすい。
戦闘中に同調が崩れたら、
エネルギー生産量が著しく低下してしまう。
機体バランスが崩れたら、上手く機動できなくなる。

「師匠サーシャが認めてくれた僕でも、
完璧には出来なかった」
フレデリックは苦笑した。

2基の『MOTOR』を完璧に同調させるのは、

至難の技だった。

「『クレオパトラ』も、
完成後に『イリス』が調整しているはずだ」

アンが育てた『イリス』。
彼女の才能からいって、その調整は完璧であろう。

「これは……ハードのマイナス特性を、
ソフトで補う状況に近い」
現代でいえば、そういうことだ。

機体そのものの欠陥を、AIの制御で補っている。

「だが、本体である『クレオパトラ』は……」

フレデリックは考えた。
『クレオパトラ』は、
自分の設計データからのコピーに過ぎない。
アンは僕の渡した設計データを元に、
公国で製作を進めた。
だが、全てが完璧にコピーできるわけではない。

「特に、エネルギー伝達ラインは……
制作者の個性に依存している」

配線の角度。
接続部の微妙な調整。
素材の選定。
それらは、データだけでは再現できない。

「不具合が出ている可能性がある」

フレデリックは拳を握りしめた。

「だが、その辺りは対峙してみないとわからない」

フレデリックは立ち上がり、格納庫の作業場へと向かった。
そこには、改修中の『ブランシュ』が横たわっていた。

「まず、砲撃特化型仕様にする」
フレデリックは決めていた。

手数を増やす方法。
背部に大型ミサイルポッドを装備。
両腕に速射砲。
肩部にレールガン。

「防御シールドを多く展開させて、
エネルギーを消耗させる」

『クレオパトラ』に防御を強いる。
そして、防御シールドの隙間を突いて被弾させる。

「ただ……」
フレデリックは眉をひそめた。

「砲撃戦を増やすと、重量増加により機動性が悪化する」

こちらも被弾が増える。
それがデメリットだった。

「でも、やってみないと何もわからない」

フレデリックはキーボードに向かい、
装備の最終調整を始めた。
完全マニュアル入力。
コマンドが流れていく。
装備換装プログラムの書き換え。
エネルギー配分の再設定。
バランサーの調整。

二日後――

「完成した」

フレデリックは格納庫の中央に立つ
『ブランシュ』を見上げた。
白い装甲に、無数の武装。
背部には巨大なミサイルポッド。
両腕には速射砲。
肩部には長大なレールガン。
増加装備で、外見が大きく変わっていた。

「重厚感がすごいな」
ジョナサンが後ろから声をかけた。

「ああ。機動性は犠牲になったが、火力は格段に上がった」
フレデリックは頷いた。

「これで、『クレオパトラ』と戦えるのか?」

「わからない。でも――」

フレデリックは『ブランシュ』の胸部を見た。
そこには、『MOTOR』が静かに脈動している。

「これが、最初の一歩だ」
彼は思いを新たにした。

長い戦いの、第一歩。
アンと対峙するための、第一歩。

「ブランシュ、準備はいい?」
フレデリックが尋ねた。

『イリス』の声が響いた。
「いつでも。あなたと共に戦います、フレデリック」

「ありがとう」

フレデリックは深く息を吐いた。

「さあ、行こう。シュトゥットガルト公国へ」
ジョナサンが頷いた。

「フォークストン王国再建の旗を掲げ、
正式に宣戦布告する」

「ああ」
二人は顔を見合わせた。
そして――
戦いの幕が、上がった。

――続く――