今度は財務省のせいで国立の美術館や
博物館が潰されそうになっています
そういう真に教育的価値のある施設
それもわざわざ国営の施設にしているもので
採算が必要あるのか?
国民の教育的価値の向上という
採算では図れないものの為に必要だと思います
子供の頃に芸術鑑賞でそういう施設に行きました
それが切っ掛けで何かに目覚める子供もいます
そういうお金では得られないものってあると思います
# 亡国の総督
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## 第一章 糸の端
東京・霞が関。
冬の朝、灰色の空の下、
その巨大な建物はいつも通り沈黙していた。
経済産業省、国土交通省、厚生労働省
——官庁街に並ぶ省庁の中で、
ひときわ重厚な存在感を放つ建物がある。
財務省。
日本の国家予算を握り、税制を決め、
国の財布の番人を自称する組織だ。
「また消費税の話か」
フリーライターの城島凛(じょうじまりん、三十二歳)
は、パソコンの画面をにらみながら呟いた。
彼女の小さな事務所
——といっても自宅の六畳間だが
——には、新聞の切り抜きと
メモが壁一面に貼られている。
きっかけは、ささいな疑問だった。
半年前、地方の中小企業を取材したとき、
社長が泣きながら言った言葉が忘れられない。
「消費税を上げるたびに、売上が落ちる。
なのに政府は『財政再建が必要だ』と繰り返す。
いったい誰のための政治なんですか」
その言葉が、城島の胸に小石のように沈んだ。
調べ始めると、糸がほつれるように、
次々と問題が浮かび上がってきた。
少子化。医療崩壊。教育格差。地方の過疎。
デフレの長期化。中小企業の廃業ラッシュ。
若者の貧困——。
それぞれ別の問題のように見える。
しかし城島は、すべての糸をたどったとき、
同じ場所に行き着くことに気づき始めていた。
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## 第二章 元官僚の証言
「会ってくれる人がいる」
城島に連絡をくれたのは、
大学の先輩で現在は経済誌の編集長を務める村田だった。
「元財務省の官僚だ。
今は大学で教えている。話を聞いてみろ」
指定されたのは、四谷の古い喫茶店だった。
男の名前は、桐島修(きりしまおさむ)。
六十代、白髪交じりの頭に細いフレームの眼鏡。
退官から十年が経つというのに、
その目には現役のような鋭さが残っていた。
「財務省の何が知りたい?」
桐島は、コーヒーカップを置きながら静かに言った。
城島はメモ帳を開いた。
「日本が三十年間、経済成長できなかった理由です。
調べるほど、財政政策が関係しているように思えて」
桐島は少し間を置いた。
「……正直に話す。君には、その覚悟があるか?」
「あります」
桐島は窓の外を一度見てから、口を開いた。
「財務省には、長年にわたって受け継がれてきた
『哲学』がある。
それは——『国民は愚かであり、
財政規律を守るためには増税と緊縮が必要だ』
というものだ」
「それは、財政再建論ですよね」
「言葉の問題じゃない」
桐島は首を振った。
「問題は、その哲学が正しいかどうかを、
彼らが一度も本気で検証していないことだ」
城島はペンを走らせた。
「財務省は、日本が財政破綻する、国債が暴落する、
と何十年も主張し続けた。
しかし実際には何も起きなかった。
なぜか?
日本は自国通貨建ての国債を発行しており、
円は世界有数の基軸通貨だ。
構造的に、財政破綻は起きにくい」
「では、なぜ緊縮を続けるんですか」
桐島は苦い笑みを浮かべた。
「それが続く理由は、二つある。
一つは、官僚組織の本質——間違いを認めると、
過去の政策すべてが否定される。
だから誰も軌道修正できない。
もう一つは——」
彼は声を低めた。
「財務省は、予算の配分権を握ることで、
政治家も、他省庁も、メディアも、学界も、
すべてをコントロールできる。
緊縮財政は、
その権力を維持するための道具でもあるんだ」
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## 第三章 連鎖する問題
城島は取材を重ねた。
少子化担当の内閣府官僚OBは言った。
「子育て支援の予算を増やそうとすると、
必ず財務省が査定で削る。『財源がない』と。
でも防衛費は通る。
優先順位は、国民が決めているんじゃない」
地方創生を研究する大学教授は言った。
「地方交付税を毎年削減し続けた結果、
地方の病院が閉まり、学校が統廃合され、
若者が都市に流出した。
過疎は自然現象じゃない。政策の結果だ」
医師会の幹部は言った。
「診療報酬の改定のたびに、
財務省は引き下げを要求する。
医療費を『コスト』としか見ていない。
でも医療は社会インフラだ。
削れば必ず、どこかが壊れる」
教育学者は言った。
「日本の教育予算のGDP比は、
先進国の中で最低水準が続いている。
財務省は教員の数を増やすことも、大学の無償化も
、ずっと阻んできた。
教育への投資を削れば、二十年後に国力が落ちる。
でも二十年後の責任を、今の官僚は取らない」
中小企業診断士は言った。
「消費税が五%から八%に上がったとき、
景気が腰折れした。
八%から十%に上げたとき、また落ちた。
増税のたびにGDPが下がるデータが出ているのに、
財務省は『社会保障のために必要』と言い続ける。
でも消費税収が増えても、
社会保障は削られているんです」
城島はすべての証言をノートにまとめ、
壁に貼られたメモを見つめた。
少子化→教育費削減・子育て支援不足→財務省の査定
医療崩壊→診療報酬削減→財務省の圧力
地方過疎→地方交付税削減→財務省の方針
デフレ長期化→緊縮財政・消費増税→財務省の哲学
若者の貧困→教育・雇用・社会保障への投資不足
→財務省の優先順位
すべての矢印の先に、同じ名前があった。
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## 第四章 黒い回廊
取材が深まるにつれ、城島は奇妙なことに気づいた。
財務省に批判的な経済学者が、
いつの間にかテレビから消えている。
財務省の政策を疑問視した議員が、党内で干されている。
財務省に不都合なデータを発表した研究機関が、
翌年、予算を削られている。
「偶然じゃないと思う」
城島は、村田編集長に言った。
「気をつけろ」村田は真剣な顔で言った。
「財務省の主計局には、
各省庁の予算を一手に握る権力がある。
逆らえば、予算をつけない。
メディアへの影響も侮れない。
大手新聞社の経営陣と財務省OBの関係を調べてみろ」
城島が調べると、大手メディアの役員や
経済部のデスクに、財務省出身者や財務省と
深い関係を持つ人物が名を連ねていた。
「これが日本のメディアが、
財務省に批判的な報道をしない理由か」
城島は呟いた。
さらに深く潜ると、
「主計局支配」と呼ばれる構造が見えてきた。
財務省主計局は、各省庁に担当の主計官を配置し、
予算折衝という名の「支配」を行う。
各省の官僚は、財務省主計局に気に入られることが
出世の条件になる。
政治家も、財務省の協力なしには予算を動かせない。
国会という民主主義の舞台では、
議員が議論しているように見える。
しかし本当の決定は、霞が関の薄暗い会議室で、
選挙で選ばれていない官僚たちによって行われていた。
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## 第五章 告発
城島は、記事をまとめた。
タイトルは
「亡国の総督——財務省支配と日本の三十年」。
しかし村田編集長は、掲載をためらった。
「これを出せば、うちへの広告が……」
「編集長」城島は言った。
「私が六ヶ月間調べてきた事実です。
これを書かない理由こそ、記
事の中に書いてあることそのものじゃないですか」
長い沈黙の後、村田は言った。
「……わかった。出す」
記事は、ネットで爆発的に広まった。
反響は二つに割れた。
一方では、
「ようやく誰かが書いた」
「現場の実感と一致する」という共感の声。
他方では、「財務省陰謀論だ」
「財政再建は必要だ」という批判。
しかし城島が注目したのは、
批判的なコメントの多くが、財務省が長年、
メディアや学会に向けて発信してきた
「財政破綻論」をそのまま繰り返していた点だ。
「これが、三十年かけて作られた認知の檻か」
彼女は呟いた。
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## 第六章 変化の芽
記事が出て三ヶ月後、
城島は予想外の場所から電話を受けた。
若い衆議院議員の秘書だった。
「先生が、直接お話したいと言っています」
議員の名前は、相川誠一郎。
当選二回、三十八歳。
かつては財務省で働いていたが、
「内側から変えられないと悟った」
と言って転身した人物だった。
「城島さんの記事を読みました。
私が知っていることと、ほぼ一致している」
相川は言った。
「しかし問題は、これを政治で変えようとすると、
党内で必ず潰される。
財務省と太いパイプを持つ長老議員たちが動く」
「では、どうすればいいんですか」
「国民が知ることだと思います」
相川は静かに言った。
「財務省の権力の源泉は、
国民が財政を理解していないことにある。
国民が『財政破綻するから仕方ない』
と思っている限り、増税も緊縮も通ってしまう」
城島は頷いた。
「記事を書き続けてください」相川は言った。
「私は国会で質問し続けます。一人では壁は崩せない。
でも、あちこちで同時に叩けば、いつかひびが入る」
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## 終章 霞が関の朝
それから二年が経った。
城島の記事は本になり、増刷を重ねた。
相川議員は党内で少しずつ仲間を増やし、
「財政政策を問い直す議員連盟」を立ち上げた。
桐島元官僚は各地で講演を行い、
財政の仕組みをわかりやすく伝えた。
変化はゆっくりだった。
しかし確かに、何かが動き始めていた。
ある朝、城島は霞が関を歩いた。
財務省の建物を見上げながら、思った。
この建物の中には、優秀な人たちがいる。
彼らの多くは、自分たちが正しいと信じている。
悪人がいるわけじゃない。
しかし組織は、間違いを認められなくなる。
権力は、それ自体を守ろうとする。
構造が、人を縛る。
変えるべきは、人ではなく、構造だ。
そして構造を変えるのは、政治であり、
政治を動かすのは、国民の意識だ。
城島はコートの衿を立て、歩き出した。
次の取材先に向かって。
まだ書かれていない記事が、山ほど待っている。
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**了**