次回で最終回です
# トロイの木馬
## 第一章 知恵者の策略
十年にわたる戦いは、膠着状態に陥っていた。
アキレウスを失い、パリスを倒し、パラディオンを奪い
――それでも、トロイアの城壁は崩れなかった。
ある夜、オデュッセウスが作戦会議で口を開いた。
「力ではトロイアは落ちない」
彼の目が光った。
「ならば、知恵で落とす」
「どうやって?」
アガメムノンが問うた。
「巨大な木馬を造るのだ」
一同が顔を見合わせた。
「木馬...?」
「そうだ。アテネへの献上品と偽り、中に兵を潜ませる」
オデュッセウスは続けた。
「そして、トロイアの門を内側から開けさせるのだ」
## 第二章 秘密の建造
名工エペイオスが呼ばれた。
「できるか?」
「やってみましょう」
巨大な囲いが造られた。
トロイアから何も見えないように、高い板で覆われた。
その中で、木馬が造られていった。
三階建ての家ほどもある、巨大な馬。
その腹の中は空洞で、
兵士が隠れられるようになっていた。
トロイアの城壁から見張っていた兵士たちは、
首を傾げた。
「何を造っているのだ...?」
だが、囲いの中は見えなかった。
## 第三章 偽りの撤退
木馬が完成すると、ギリシャ連合軍は動き出した。
すべての船が港を離れ、テネドス島へと向かった。
トロイアからは見えない場所だった。
「敵が...撤退している!」
トロイアの見張り兵が叫んだ。
人々は喜びに湧いた。
十年の戦いが、ついに終わったのだ。
だが、浜辺には奇妙なものが残されていた。
巨大な木馬だった。
## 第四章 捕虜の告白
トロイア軍が木馬を調べていると、
一人の男が見つかった。
ぼろ布をまとい、傷だらけの男。
シノン――オデュッセウスの異母兄弟だった。
「お前は何者だ!」
兵士たちが彼を捕らえた。
拷問が始まった。
「この木馬は何だ! 答えろ!」
シノンは苦しみながら語った。
「これは...アテネへの献上品です」
彼は喘いだ。
「神託が告げたのです。
一度全軍が撤退し、もう一度攻めに来なければ、
トロイアは陥落しないと」
「それで撤退したのか?」
「そうです...アテネ女神の怒りを鎮めるため、
この木馬を献上したのです...」
トロイアの兵士たちは、その話を信じかけた。
## 第五章 神官の警告
「待て!」
一人の男が進み出た。
神官ラオコーン――プリアモス王の息子でもあった。
「これは罠だ!」
彼は叫んだ。
「ギリシャ人を信じてはならぬ!
贈り物をする者にも警戒せよ!」
彼は槍を手に取り、木馬の腹を突いた。
その時――。
海から、異様なうねりが起こった。
二匹の巨大な海蛇が、波を蹴立てて迫ってきた。
ポセイドンの使いだった。
海神は、ギリシャ軍に味方していたのだ。
「父上!」
ラオコーンの二人の息子が駆け寄った。
だが、海蛇は三人に巻きついた。
「ぐあああっ!」
締め上げられ、毒が注入された。
ラオコーンと二人の息子は、人々の目の前で絶命した。
## 第六章 悲劇の予言者
「神罰だ!」
人々は恐れおののいた。
「ラオコーンが、アテネへの献上品を拒んだから...!」
「木馬を城内に運び入れよ!」
巨大な木馬が、トロイアの門をくぐった。
カサンドラ王女が駆け寄ってきた。
「やめて!」
彼女は叫んだ。
「その木馬を入れてはいけない! 罠よ、罠なの!」
だが、誰も彼女の言葉に耳を貸さなかった。
アポロンに呪われた予言者
――彼女の予言は常に真実だが、
決して信じられない運命にあった。
「お願い...聞いて...」
カサンドラは泣き崩れた。
だが、木馬はすでに城内に入っていた。
## 第七章 最後の宴
その夜、トロイアでは盛大な祭りが開かれた。
「戦争が終わった!」
「アテネ女神に感謝を!」
酒が注がれ、歌が歌われた。
人々は木馬の周りで踊り、笑い、喜んだ。
ただ一人、ヘレネだけが木馬の正体に気づいていた。
彼女は夫デイポポスが眠りにつくと、
密かに彼の武具をすべて隠した。
剣も、槍も、鎧も。
「許して...」
彼女は呟いた。
「でも、これ以上の血は見たくないの」
## 終章 深夜の惨劇
夜が更けた。
宴会に酔いしれた人々は、深い眠りについていた。
木馬の腹が、静かに開いた。
縄梯子が降ろされ、男たちが降りてきた。
オデュッセウス、ディオメデス、メネラオス
――約三十名の精鋭たちだった。
彼らは音もなく動いた。
見張りの兵士が、次々と倒された。
城門が内側から開かれた。
シノンが浜辺で松明を掲げた。
その合図を見て、
テネドス島に隠れていた
ギリシャ連合軍の船が動き出した。
アガメムノンが剣を掲げた。
「突撃!」
数千の兵士が、
開かれた門からトロイアに雪崩れ込んだ。
眠りについていたトロイアの人々が目を覚ました時、
すでに街は炎に包まれていた。
十年の戦いは、
一夜にして終わりを迎えようとしていた――。