遂に今回を含め残り3話で終わりです

 

# 裏切りと策略

## 第一章 ヘレネを巡る争い

パリスの死後、
トロイアの宮殿で醜い争いが始まった。

「ヘレネは私のものだ!」

「いや、私が!」

プリアモス王の息子たちが、
ヘレネを巡って争った。

美しきヘレネは、黙ってその光景を見ていた。
またしても、
彼女は男たちの欲望の対象でしかなかった。

「静まれ!」

老王プトレマイオスが声を上げた。

「ヘレネは、デイポポスに与える」

デイポポス王子が勝ち誇った笑みを浮かべた。

だが、一人の王子が顔色を変えた。

ヘレノス王子――予言者でもある聡明な王子だった。

「私ではないのか...」

彼は唇を噛んだ。

## 第二章 予言者の裏切り

その夜、ヘレノス王子は密かに城を出た。

そして、信じられないことに
――ギリシャ軍の陣営へと向かった。

「何者だ!」

兵士たちが槍を向けた。

「私は、プリアモス王の息子、ヘレノスだ」
王子は両手を上げた。

「話がある」

オデュッセウスとアガメムノンの前に
連れてこられたヘレノスは、
驚くべき情報を語り始めた。

「トロイアには、アテネ像パラディオンがある」

「パラディオン...?」

「あれがある限り、トロイアは決して落ちない」
ヘレノスは続けた。

「また、私の予言によれば
――落城には、アキレウスの息子
ネオプトレモスの参戦が必要だ」

双子の妹カサンドラと同じく
予言の力を持つヘレノスの言葉は、信憑性があった。

オデュッセウスの目が光った。

「ならば、やるべきことは明らかだ」

## 第三章 潜入

数日後、二人の浮浪者がトロイアの城門をくぐった。

ぼろ布をまとい、顔は汚れ、髪は乱れていた。

それは、
変装したオデュッセウスとディオメデスだった。

城門の近くで、一人の女性が彼らを待っていた。

ヘレネだった。

「こちらです」
彼女は小声で言った。

「私が道案内をします」

「なぜ、我々を...?」
ディオメデスが訝しんだ。

「もう、うんざりなのです」
ヘレネの目には疲れが浮かんでいた。

「男たちの争いに、これ以上巻き込まれたくない。
この戦争を、終わらせたいのです」

ヘレネの手引きにより、
二人は容易に城内に潜入できた。

## 第四章 神像の魔力

深夜、二人はアテネ神殿に辿り着いた。

そこに、パラディオンがあった。

木でできた、古い像。
だが、その瞳には不思議な光が宿っていた。

「あれだ」

オデュッセウスとディオメデスは、像に近づいた。

二人で像を持ち上げた瞬間――。

「貴様!」

オデュッセウスがディオメデスに剣を向けた。

「何を!」

ディオメデスも剣を抜いた。

パラディオンの魔力が、二人の心を狂わせていた。
互いが互いを敵兵だと認識し、殺し合おうとしていた。

「ぐっ...!」

オデュッセウスが歯を食いしばった。

*これは...幻覚だ!*

知恵の英雄は、必死に理性を保とうとした。

「ディオメデス! 目を覚ませ! 
私だ、オデュッセウスだ!」

「オデュッセウス...?」

ディオメデスの目から、狂気が消えていった。

二人は震える手で像を運び出した。

## 第五章 神殿への奉納

夜明け前、二人はトロイアを脱出した。

パラディオンは、
イーダ山のアテネ神殿に奉納された。

「これで、トロイアの守護は失われた」
オデュッセウスは満足げに言った。

「次は――」

「アキレウスの息子だな」

二人は、スキロス島へと向かった。

## 第六章 少年英雄

スキロス島の宮殿で、
一人の少年が剣の稽古をしていた。

金髪で、鋭い目つき。
まだ幼いが、その動きには父の面影があった。

ネオプトレモス
――アキレウスの息子。わずか十歳だった。

「ネオプトレモス殿」

オデュッセウスが呼びかけた。

「誰だ?」少年は剣を構えた。

「私はオデュッセウス。お父上の盟友だった者だ」

少年の目が輝いた。

「父の...!」

「お願いがある」
オデュッセウスは膝をついた。

「トロイア戦争に参加していただきたい。
お父上の武具を受け継ぎ、トロイアを落とすために」

ネオプトレモスは一瞬も躊躇しなかった。

「喜んで!」

わずか十歳の少年は、目を輝かせて答えた。

「父の仇を討ち、父の名誉を守りたい!」

## 終章 運命の歯車

こうして、すべての駒が揃った。

パラディオンは奪われた。

アキレウスの息子が参戦する。

ヘレノスの予言は、成就しつつあった。

オデュッセウスは、船上で空を見上げた。

「もうすぐだ...」

彼の頭の中では、すでに最後の策が練られていた。

巨大な木馬の姿が、その脳裏に浮かんでいた――。

トロイア戦争は、
ついに最終局面を迎えようとしていた。