# 新たなる戦い
## 第一章 失われた盾
ヘクトルの死後、トロイアは大きな支えを失った。
城壁の守りは手薄になり、兵士たちの士気は下がり、
プリアモス王の顔には深い憂いの影が差していた。
「このままでは...」老王は呟いた。
だが、トロイアは孤立していなかった。
遠い国々から、次々と援軍が駆けつけた。
その中には、伝説の戦士たちもいた。
そして、ある日――。
城門が開き、見たこともない軍勢が入城してきた。
それは、すべて女性の戦士たちだった。
## 第二章 女王ペンテシレイア
「アマゾンの女王ペンテシレイアが参られた!」
伝令の声に、トロイアの人々は色めき立った。
黄金の鎧に身を包んだ女王は、戦神アレスの娘だった。
その瞳には炎が燃え、
その腕には比類なき力が宿っていた。
「プリアモス王よ」
ペンテシレイアは高らかに宣言した。
「我がアマゾンの戦士たちが、
トロイアのために戦おう」
翌日、戦いが始まった。
アマゾンの女戦士たちは、
嵐のようにギリシャ軍に襲いかかった。
弓が鳴り、槍が舞い、剣が閃いた。
ヘクトルなき後、
トロイア軍を追い詰めていた連合軍は、
一気に押し返された。
「何という強さだ!」
ギリシャの勇士たちは驚愕した。
だが、その時――。
「退け」
低い声が響いた。
アキレウスが進み出た。
## 第三章 二人の戦神の子
ペンテシレイアとアキレウス。
戦神アレスの娘と、海神テティスの息子。
二人の英雄が、戦場の中央で対峙した。
「女だからといって、容赦はせぬぞ」
アキレウスが言った。
「望むところだ」
ペンテシレイアは笑った。
「女を侮る者こそ、我が槍の錆となる!」
槍と槍がぶつかり合い、火花が散った。
ペンテシレイアの動きは、風のように速く、
稲妻のように鋭かった。
アキレウスでさえ、押され気味だった。
「強い...!」
アキレウスの額に、汗が滲んだ。
だが、最強の英雄は、ついに隙を見出した。
槍が一閃し、ペンテシレイアの鎧を貫いた。
女王は膝をついた。
## 第四章 美しき勇者への敬意
倒れたペンテシレイアの兜が外れた。
その時、アキレウスは息を呑んだ。
黄金の髪が流れ落ち、美しい顔が現れた。
その瞳には、恐れではなく、誇りが輝いていた。
「見事だった」
アキレウスは膝をついた。
「あなたの強さと勇気に、敬意を表します」
彼は女王の手を取り、静かに目を閉じさせた。
その時、嘲笑の声が響いた。
「はっ! 女に惚れたか、アキレウス!」
醜い男、テルシテスだった。
彼は戦いには臆病だが、口だけは達者な男だった。
「女戦士に敬意だと? 笑わせるな!」
アキレウスの目が、氷のように冷たくなった。
「貴様...」
次の瞬間、
アキレウスの拳がテルシテスの顔面を打った。
鈍い音が響いた。
テルシテスは地面に倒れ、二度と動かなかった。
周囲が静まり返った。誰も、何も言えなかった。
*(後の時代、
ソビエト連邦のマルクス主義文学者たちは、
権力に媚びず真実を語ったとして、
このテルシテスを民衆の英雄として
崇拝することになる。
歴史とは、なんと皮肉なものか)*
## 第五章 エティオピアの王子
数日後、新たな援軍がトロイアに到着した。
エティオピアの王子メムノンと、その精鋭部隊だった。
メムノンは暁の女神エオスの息子で、
その武勇はアキレウスに匹敵すると言われていた。
黒檀のような肌に、黄金の鎧が輝いていた。
「メムノン王子が来てくださった!」
トロイアに、再び希望が灯った。
戦いが始まると、メムノンの強さは本物だった。
彼の槍は次々とギリシャの勇士を倒していった。
そして――。
「アンティロコス!」
ネストルの息子、若き勇者アンティロコスが、
メムノンの槍に倒れた。
## 第六章 父の涙、息子の誓い
「息子よ...!」
白髪の老将ネストルが、息子の亡骸に駆け寄った。
「メムノン!」
老将は剣を抜いた。
「この老いぼれが相手だ!」
メムノン王子は首を横に振った。
「老兵殿、私は老人と戦う趣味はない。
誰か、他の者を寄越してくれ」
その時、群衆が割れた。
「私が相手をしよう」
アキレウスだった。
ネストルは涙を流した。
「アキレウスよ、頼む。息子の仇を...」
「お任せください」
アキレウスは老将の肩に手を置いた。
「必ず」
## 終章 暁の女神の嘆き
メムノンとアキレウスが対峙した。
二人の英雄は、互いに一歩も引かなかった。
槍と槍が幾度も交わり、大地が震えた。
戦いは一日中続いた。
太陽が西に傾き始めた時、
ついにアキレウスの槍が、メムノンの胸を貫いた。
「見事...だ...」
メムノン王子は微笑んで倒れた。
天から、暁の女神エオスの嘆きの声が響いた。
愛する息子を失った母の悲しみが、空を覆った。
アキレウスは空を見上げた。
また一人、強敵を倒した。
だが、神馬の予言は、
まだ彼の心に重くのしかかっていた。
*――あなたの死期は、もうすぐです*
アキレウスは剣を鞘に収めた。
運命の時は、確実に近づいていた――。