第三十九弾より昔のお話で
第三十九弾に繋がるお話を作りました
ジョージの話は他にも作りたいと思ってます
一応 ジョージの経歴は既に作ってあるので・・・
アルヴェルトとラーナの経歴も作ってあります
実はこの3人ではアルヴェルトが
いろんな意味で一番凄い人という設定です
# 探偵ジョージ・リチャードソン ―消えた科学者―
秋の午後、
探偵ジョージ・リチャードソンの
事務所のドアが控えめにノックされた。
「どうぞ」
と声をかけると、
ドアが開き、小さな影が現れた。
七歳の少女だった。
ブロンドの髪を三つ編みにし、
紺色のワンピースを着た彼女は、
その幼い顔に似合わぬ真剣な表情を浮かべていた。
「探偵さん、ですか?」
少女は緊張した声で尋ねた。
「ああ、そうだよ。
ジョージ・リチャードソンだ。君は?」
「ナターシャ・ヤールです。
お父さんを探してほしいんです」
ジョージは椅子から立ち上がり、
少女を応接ソファに案内した。
助手のアルヴェルト・ドライゼが
コーヒーを淹れる音が奥から聞こえる。
「お父さんの名前は?」
「ジャン・ラッセン・ヤール。
ヴァージン・エレクトロニクスの所長です」
ナターシャは小さな手で涙を拭った。
「三日前から帰ってこないんです。
お母さんは議員の仕事で忙しくて
……だから私が来ました」
「お母さんは?」
「ディアナ・ヤール。
プレスコット共和国の国会議員です」
ジョージは眉をひそめた。
プレスコット共和国――この国の政治の中枢。
そして大手電子機器メーカーの所長が失踪。
これは単純な事件ではないかもしれない。
「わかった。引き受けよう」
ジョージはナターシャの頭に優しく手を置いた。
「必ず見つけ出すから」
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調査は翌朝から始まった。
アルヴェルトと、もう一人の助手
ラーナ・ラヴロフスキーと共に、
ジョージはまず
ヴァージン・エレクトロニクス本社を訪れた。
受付で面会を申し込むと、
副所長のジョーダン・オニールが対応に出た。
三十代半ばの女性で、
知的な眼鏡の奥の目は冷たく光っていた。
「ジャン所長ですか?ええ、心配しています。
警察にも届けを出しましたが……」
オニールは事務的に答えた。
「最後に見たのは三日前の夕方。
研究所に向かうと言っていました」
「研究所?」
「郊外にある我が社の研究施設です。
機密性の高いプロジェクトを扱っていますので、
詳細はお話しできませんが」
ジョージは違和感を覚えた。
この女性の態度には、
上司を心配している様子がまったく感じられない。
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その夜、三人は郊外の研究所に向かった。
人気のない工業地帯を車で走っていると、
突然、後方から黒いSUVが猛スピードで迫ってきた。
「ジョージ、まずいぞ!」
アルヴェルトが叫んだ。
銃声が響いた。
後部座席のラーナが素早く身を伏せる。
「軍用車両だ!」
ラーナが叫んだ。
「プレスコット共和国軍のマーキングがある!」
なぜ軍が関与している?
ジョージは激しくハンドルを切り、
追跡を振り切ろうとしたが、
前方にも軍用車両が現れた。完全に挟まれた。
「降りろ!戦うしかない!」
三人は車から飛び出した。
SUVから降りてきたのは、
完全武装した兵士たち――六人。
ジョージはコートの内側から愛用の拳銃を抜いた。
一発、二発。
正確な射撃が兵士の武器を弾き飛ばす。
アルヴェルトが腰のホルスターから光剣を引き抜いた。
青白い光の刃が闇を裂く。
「久しぶりだな、この感覚!」
彼は笑みを浮かべながら、
襲いかかる兵士たちに斬りかかった。
光剣が銃弾を弾き、兵士の防弾ベストを焼き切る。
「右!」
ラーナが叫んだ。
別の兵士が彼女に襲いかかったが、
ラーナの姿が残像を残して消えた。
人間離れした速度だ。
兵士の銃口がラーナを追うが、
彼女はすでにそこにはいない。
銃弾が空を切る。
ラーナは兵士たちの攻撃を、
まるで舞うように全てかわしていく。
ナイフの一閃――残像。
銃撃の嵐――残像。
彼女の動きはあまりに速く、
兵士たちの目には
複数のラーナが同時に存在しているように見える。
そして次の瞬間、
鋭い回し蹴りが兵士の顎に叩き込まれた。
続けざまに肘打ち、膝蹴り。
サンボとキックボクシングを融合させた
彼女の格闘技は、その超人的な速度と相まって、
重装備の兵士たちを次々と無力化していく。
攻撃は全て空を切り、
ラーナの反撃だけが正確に命中する。
「後ろだ、ジョージ!」
ジョージは振り返りざま発砲。
弾丸は兵士の肩を掠め、武器を落とさせた。
その兵士にラーナが飛びかかり、
関節技で地面に叩きつける。
アルヴェルトの光剣が唸りを上げて回転し、
三人の兵士を同時に薙ぎ払った。
「数が多いぞ!」
「増援が来る前に逃げるぞ!」
ジョージが叫んだ。
最後の一人を蹴り倒したラーナが頷く。
三人は工業地帯の迷路のような路地に走り込んだ。
背後でサイレンが響き、
さらなる増援が到着する音が聞こえる。
曲がり角を曲がるたび、
ジョージは後方に威嚇射撃を放った。
アルヴェルトは光剣で追跡車両のタイヤを切り裂き、
ラーナは廃材を蹴り飛ばして道を塞ぐ。
どうにか追跡を振り切り、
廃工場の影に身を隠した三人は、
息を切らせながら顔を見合わせた。
「一体何が起きてるんだ?」
アルヴェルトが呟いた。
「わからない。
だが、ジャン・ヤールは
何か非常にまずいものに関わっていたようだ」
ジョージは拳銃に弾を込め直しながら答えた。
「そして誰かが、それを隠蔽しようとしている」
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翌日、
より慎重に接近した三人は、
ついに研究所への侵入に成功した。
薄暗い廊下を進むと、
奥の実験室から微かな光が漏れていた。
ドアを開けると、そこには――。
ジャン・ラッセン・ヤールが実験台の前で倒れていた。
すでに息はなかった。
机の上には研究資料が散乱している。
「これは……」
ラーナが資料に目を通す。
「コンピューターウイルス?
しかもこの設計は
……あらゆる防御システムを突破できる。
画期的すぎる」
アルヴェルトが別の資料を手に取った。
「軍事ネットワークへの侵入を想定している。
これが完成すれば、
一国の防衛システムさえ無力化できるぞ」
その時、警報が鳴り響いた。
「罠だ!逃げるぞ!」
三人は走った。
背後で爆発音が響き、炎が廊下を駆け上がってくる。
研究所全体が爆破されようとしている。
証拠隠滅だ。
間一髪、非常口から飛び出した瞬間、
背後で研究所が巨大な火柱を上げた。
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一週間後、
ジャン・ラッセン・ヤールの葬儀が執り行われた。
黒い服を着たナターシャは、
父の棺の前で声を上げて泣いていた。
母親のディアナが娘を抱きしめている。
ジョージたち三人は
静かにナターシャの方へ歩いて行った。
その光景を、
葬儀の参列者の中から眺めている女性がいた。
ジョーダン・オニール。
ヴァージン・エレクトロニクスの副所長。
彼女の唇が、わずかに歪んだ。
不敵な笑みだった。
その目は、
次の計画をすでに見据えているかのようだった。
軍との取引は続く。
研究は別の場所で継続される。
そして彼女は――所長の座を手に入れた。
すべては計画通りに。
ジョージはふと視線を感じて振り返ったが、
オニールはすでに群衆の中に消えていた。
事件は終わった。
だが、真実はまだ闇の中にある。
それを知るジョージの胸に、重い予感が残った。
**(完)**