ブータン王国の近代化や

実在のザンスカール旅行ガイド

(YouTubeちゃんねる

「セリフと演出から読み解く機動戦士ガンダム解説」)

を見て思いついたお話です

 

 

# 谷底の村

山間の交通の便の悪い谷底にその村はあった。

生活は自給自足が基本で、
三ヶ月に一度、行商人が来る程度。
村への訪問者は殆どおらず、
ごくたまに遭難した登山家が訪れるくらいだった。

村は小さく、誰もが顔見知りだった。
朝、畑仕事に向かう老人に若者が声をかけ、
重い農具を代わりに運ぶ。
病気で寝込んだ家があれば、
近所の者たちが野菜や煮物を届け、
「無理しないでね」と労わり合う。
収穫の時期には村総出で助け合い、
夜には誰かの家に集まって
素朴な料理を囲んで笑い合った。

川辺では子供たちが石を投げたり、
木の枝で作った船を浮かべたりして遊んでいた。
手作りの人形やお手玉、缶蹴り。
何もないようでいて、
子供たちの笑い声は谷間に響き渡り、
それを聞く大人たちも自然と笑顔になった。

平和で争い事も殆どなく、村人は皆幸せを感じていた。

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ある時、行商人がいつもより多くの品物を持ってきた。

今までは持って来なかった便利な日用品や娯楽品。
珍しい子供の玩具や大人の趣味性の強い品々。
多くの村人がそれらに興味を持ち、
一部の者は手に入れて周りの者に自慢した。

それにより多くの者がそれらを欲しがるようになった。

一部の村の若者は、それらを手に入れるために
遠くの街へ出稼ぎに行った。
出稼ぎに行った者が帰った時に持ち帰った品や
土産話は、さらに村人の興味を引いた。
村の生活に満足できなくなった者たちが
次々と村を出るようになった。

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村人の減少を危惧した村長は、
村をもっと都会的にしようとして行商人に交渉し、
村に来る回数を増やしてもらった。

それにより村人の欲は高まり、
中には今まではいなかった
強盗までする村人も現れた。

人々は互いを警戒し始めた。
隣人の新しい品物を見ては「どこでそんな金を」
と疑いの目を向ける。
かつて助け合っていた畑仕事も、
「自分の収穫を盗まれるのでは」
と誰も手を貸さなくなった。
病気の家に食べ物を届ける者もいなくなり、
「あの家はいいものを隠し持っている」
という噂が広まった。
村人同士の会話は減り、すれ違っても目を合わせず、
互いを憎む言葉だけが陰で囁かれるようになった。

川辺で遊ぶ子供たちの姿も変わった。
手作りの玩具は誰も見向きもせず、
誰が新しいゲーム機を持っているか、
誰がより高価な玩具を持っているかで優劣が決まった。
持っていない子は仲間外れにされ、
一人ぼっちで川を見つめていた。
ゲーム機を持つ子供たちは暴力的な遊びに夢中になり、
弱い者をからかい、いじめることを面白がった。
かつて谷間に響いていた朗らかな笑い声は消え、
泣き声と罵声だけが聞こえるようになった。

人々の欲の高まりにより、
人の優しさや思いやりは完全に消えていった。
疑心暗鬼が高まり、村の平和は崩れ去った。

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村長は村役場の窓から、
かつて笑顔で助け合っていた村人たちが、
互いに目を逸らしながら
すれ違う光景を見つめていた。

「私は、何を守ろうとしたのだろうか」

谷底に沈む夕陽は、
いつもと変わらぬ美しさで村を照らしていた。
しかし、その光を見上げる者はもういなかった。
誰もが下を向き、
自分の手の中にあるものだけを見つめていた。