生体ロボットとは別のヒーローものを書いて貰いました

最初のモチーフはスーパーマンだったんですが

ジョジョの石仮面に

引っ張られた感じになってしまいました 苦笑

 

 

# 仮面の向こう側

## 1

空き地に落ちていたそれを、
俺は何の気なしに拾い上げた。

コンビニのバイトが終わり、深夜の帰り道。
いつも通る空き地の片隅に、
月明かりに照らされた奇妙な形が転がっていた。
お面だった。
祭りの屋台で売っているような
――いや、違う。こんな面は見たことがない。

白を基調とした表面に、幾何学的な赤い模様。
狐でも般若でもない、
何か別の生き物を模したような、
それでいて抽象的なデザイン。
手に取ると、
プラスチックにしては妙に重厚感がある。

「誰かの忘れ物かな」

二十三歳。フリーター歴三年。
やりたいことなんて特にない。就職する気もない。
毎日が同じように過ぎていく。
この面も、明日にはゴミ収集所行きだろう。

でも、何となく持ち帰った。

アパートの六畳一間。
洗濯物が山になった部屋で、俺はその面を眺めた。
被ってみたい――そんな衝動に駆られた。
子供じみた好奇心。

顔に当てると、ぴったりとフィットした。

次の瞬間、世界が変わった。

体が浮いた。
いや、浮いたというより――飛んだ。
窓ガラスを突き破り、夜空へ。
悲鳴を上げる間もなく、
俺は高度百メートルに達していた。

「うわああああああ!」

恐怖。しかし不思議と体は自由に動いた。
思うだけで方向転換できる。
スピードも自在だ。
試しに全力を出してみると、景色が流れた。
時速何百キロ、
いや千キロを超えているかもしれない。

着地は公園の木に激突する形になった。
太い幹が、俺の体に触れた瞬間、真っ二つに折れた。

「え......?」

俺は無傷だった。
それどころか、手で地面を軽く押しただけで、
直径五メートルのクレーターができた。
額に意識を集中すると、
光の筋が放たれ、遠くの岩を粉々にした。

面を外すと、全てが元に戻った。
普通の体。普通の力。

「......マジか」

## 2

最初の一週間は、秘密の遊び場を満喫した。

無人島を見つけては、巨大な岩を持ち上げたり、
海面を超高速で飛んだり、
額からの光線で洞窟を作ったり。
誰もいない場所で、ヒーローごっこだ。

二十三歳のフリーターが、だ。

でも、面白かった。
生まれて初めて、何かに夢中になれた気がした。

二週間目、それも飽きてきた。

コンビニのバイトに戻ると、全てが色褪せて見えた。
レジを打つ手。
時給九百五十円。

「袋要りますか」と聞く声。

何のために生きてるんだろう、と思った。
面があっても、なくても。

ある夜、ビルの屋上で面を被り、
街を見下ろしていた時だった。

悲鳴が聞こえた。

路地裏。若い女性が二人の男に囲まれている。
ひったくりか、それとも――。

俺は飛んだ。

着地と同時に、男の一人を軽く小突いた。
彼は五メートル先のゴミ箱に激突して気を失った。
もう一人は俺を見て固まり、そのまま逃げ出した。

「だ、大丈夫ですか......?」

女性は震えながら俺を見上げた。
白い仮面。夜の闇。

「ありがとう......ございます」

そして俺は、また飛び去った。

次の日、
ニュースで「謎の仮面男、暴漢撃退」と報じられた。

## 3

人助けは、思いのほか中毒性があった。

火事からの救助。暴走トラックの停止。
川に落ちた子供の救出。
毎晩のように街を飛び回った。
SNSでは「仮面ヒーロー」として話題になり、
目撃情報が相次いだ。

昼間はコンビニのバイト。
夜は仮面を被る。

奇妙な二重生活。
でも、初めて自分が
何かの役に立っている実感があった。

三ヶ月が過ぎたある夜。

ビルの屋上で一息ついていると、
背後に気配を感じた。

「すごいね、君」

振り向くと、高校生くらいの少年が立っていた。
制服姿。黒髪で涼しげな顔立ち。
鳥谷修――胸のネームプレートにそう書いてあった。

「どうやってここに......?」

「僕も飛べるから」

少年は微笑んだ。
次の瞬間、彼は俺の隣にいた。
瞬間移動したかのような速さ。

「君の活動、見させてもらってたよ。
立派だと思う。
でも、そろそろ終わりにしてもらえないかな」

「......何?」

「その面、君が持つべきものじゃないんだ。
返してもらえる?」

俺は身構えた。

「嫌だと言ったら?」

「じゃあ、力ずくで」

鳥谷修の拳が、音速を超えて迫った。

## 4

「すごいね、君」

その声に、俺は本能的に身構えた。

「どうやってここに......?」

「僕も飛べるから」

少年――鳥谷修は、穏やかに微笑んでいた。
でもその目は、どこか冷たかった。
人間の目とは違う、何か別の生き物の目。

「君の活動、見させてもらってたよ。立派だと思う」

「......何が目的だ」

「目的? 君と同じだよ。この街の平和を守ること」

鳥谷修は一歩、俺に近づいた。

「でも、君はもう十分やった。
そろそろ休んでもいいんじゃないかな」

彼の体から、尋常ではない気配が漏れ出していた。
圧倒的な力。
俺の面が与えてくれる力とは、次元が違う何か。

「お前......何者だ?」

「ただの高校生だよ」

鳥谷修は笑った。
その笑顔に、俺は背筋が凍る感覚を覚えた。

「じゃあね。次に会う時は
――もう少し、本気で話そうか」

彼の姿が、一瞬で消えた。

残されたビルの屋上で、俺は夜空を見上げた。

何だったんだ、あいつは。

なぜ俺の前に現れた。

そして――次に会う時、何が起きる?

答えのない問いだけが、風に乗って消えていった。

仮面を外すと、いつもの街の景色が広がっていた。
でも今夜から、全てが変わった気がした。

俺の知らない世界が、確かに存在している。

鳥谷修という少年が、その扉を開けてしまった。

もう、後戻りはできない。

〈終〉