第二十五弾を読んで

サラリーマン田中とは別の生体ロボットの

活躍も描きたいと思い作りました

 

# 見えない守護者

## 第一章 徘徊老人

桜ヶ丘ニュータウンの住民たちは、
彼を「公園の老人」と呼んでいた。

毎日、朝から夕暮れまで、中央公園のベンチに座り、
ぼんやりと何かをつぶやいている。
時折、目的もなさそうにふらふらと歩き回る。
子持ちの親たちは子供に近づかないよう注意し、
PTAの会合では
「あの老人、どうにかならないか」
という声が上がることもあった。

誰も彼の名前を知らなかった。
誰も彼と会話をしたことがなかった。

ただ、いつもそこにいる。それだけだった。

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## 第二章 小さな奇跡

春の午後、
三歳の男の子が公園の出口から
ボールを追いかけて車道に飛び出した。

ダンプカーが迫る。母親の悲鳴。

次の瞬間、男の子は歩道に戻っていた。
転んで泣いている。
服が少し汚れているだけで、無傷だった。

「危なかった……風で転んだのかしら」

母親は震える手で息子を抱きしめた。
誰も気づかなかった。
公園のベンチで、老人が静かに立ち上がり、
またゆっくりと座ったことを。

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夏の夕方、
小学生の女の子が知らない男に腕を掴まれていた。
駐車場の影。

「おじさんと一緒に来るんだ」

その時、男は突然手を離し、顔を歪めて逃げ出した。
女の子は首を傾げながら家に走って帰った。
後日、男は県外で逮捕された。複数の余罪があった。

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秋の夜、
ジョギング中の主婦を追い続ける影があった。
三週間も続いていた。

その夜、ストーカーは突然姿を消した。
翌朝、隣町の交番に「自首したい」と現れた。
警察官が理由を尋ねると、男は青ざめた顔で答えた。

「見られてる……ずっと見られてる気がして……」

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## 第三章 ミュルミドン

老人の左胸ポケットに、
いつも小さな膨らみがあった。

体長三センチメートル。
人型。L'sコーポレーション極秘開発部門が
生み出した最高機密。
コードネーム「ミュルミドン」。

超小型AIアシスタントロボット。
街中の監視カメラにアクセスし、
映像解析を行い、危機を予測する。
必要に応じて映像を改ざんし、痕跡を消す。

老人——正式名称「ガーディアンシステム Ver.7.3」
——が行動するたび、
ミュルミドンは証拠を消していた。

車道に飛び出した子供を救った映像は、
「子供が自分で転んで戻った」映像に。

誘拐犯が逃げ出す映像は「何もなかった」映像に。

すべてが、なかったことになる。

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## 第四章 冬の事件

十二月のある夜、住宅街に悲鳴が響いた。

押し込み強盗。三人組。刃物を持っている。

「金を出せ!」

老人が路地から姿を現した。

「……危険を、検知しました」

ぼんやりとした目が、一瞬だけ鋭く光った。

三分後、強盗たちは路上に転がっていた。
気絶している。武器は遠くに投げ出されている。
住民が通報し、警察が到着した。

被害者の家族は警察に言った。

「何が起こったのかわからないんです。
気づいたら、もう犯人たちが倒れていて……」

監視カメラの映像には、
強盗たちが
「互いに殴り合いを始めて勝手に倒れた」
様子が記録されていた。

その夜、公園のベンチで、
老人は静かに座っていた。

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## 第五章 守護の意味

L'sコーポレーション本社。
地下十五階、特別管理室。

「ガーディアン7.3、今期も稼働良好です」

モニターには、公園で眠る老人の姿。

「市民からの苦情は?」

「増加傾向です。
『不気味』『何とかしてほしい』と」

「……かまわない。続けたまえ」

重役の一人が、ため息をついた。

「皮肉なものだ。
彼らを守っているのに、彼らは彼を嫌う」

「それでいいのです」

別の重役が答えた。

「英雄は要らない。
ただ、守られていることに気づかないまま、
平和に暮らしてくれればいい」

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## エピローグ

春が来た。

桜が咲いた。

公園では子供たちが遊んでいる。
母親たちが話している。誰も気づかない。
ベンチの老人が今日も街を見守っていることに。

左胸のポケットで、三センチの影が動いた。

「システム正常。監視継続」

ミュルミドンの小さな声は誰にも聞こえない。

老人は目を閉じた。

「……任務、継続します」

桜の花びらが、風に舞った。

誰も知らない守護者の物語は、
今日も静かに続いていく。

—— 了 ——