L'sコーポレーションの生体ロボットが

活躍するお話を考えました

話しを肉付けして伸ばしたら

単発ドラマや映画っぽくなるかな?

って感じにしてみました

 

# 砂塵の彼方へ

エンジン音が途切れがちに唸り、
車体が大きく揺れるたびに、
乗客たちは座席にしがみついた。
アフリカ東部を縦断する長距離バスは、
塗装が剥がれ、窓ガラスにひびが走り、
もう何十年も走り続けているように見えた。

後部座席に座る日本人男性は、
膝の上のビジネスバッグをしっかりと抱えていた。
三十代半ばと思われるその男は、
よれた紺色の背広を着て、黒縁の眼鏡をかけていた。
額には薄く汗が浮かび、時折ハンカチで拭っている。
典型的な、疲れたサラリーマンの姿だった。

バスには十五名の乗客が乗っていた。
地元の商人、看護師、大学生、子供を抱いた母親、老人。
誰もが自分の目的地へ向かう、ごく普通の人々だった。

正午を過ぎた頃、バスは突然停止した。

道路を塞ぐように、武装した男たちが立っていた。
迷彩服を着て、自動小銃を構えている。
運転手が何か叫ぶ間もなく、
銃声が空に向けて放たれた。

「全員外へ出ろ!」

荒々しい声が響いた。
乗客たちは恐怖に震えながら、
一人ずつバスから降りた。
灼熱の太陽が容赦なく照りつける。
日本人男性も、
ビジネスバッグを握りしめたまま外に出た。

「それを渡せ」

武装した男がバッグを指さした。
日本人男性は小さく頷き、
素直にバッグを差し出した。
男はバッグの中身を乱暴にあさり、
書類やノートパソコンを地面に放り投げた。

「乗れ」

乗客たちはトラックの荷台に押し込まれた。
何時間も揺られ続け、やがて日が傾き始めた頃、
古びた建物の前で停車した。
かつて工場だったのか、廃墟のような建物だった。

地下へ続く階段を降りると、そこには牢獄があった。
薄暗い空間に、鉄格子で区切られた部屋が
いくつも並んでいる。
そして驚くべきことに、
そこには既に大勢の人々が囚われていた。

「また新しい人質か」

暗がりから声がした。
初老の男性だった。
身なりから、相当な地位にある人物だと分かる。

「政府の高官です」
隣にいた女性が小声で言った。

「私は気候学者。あちらには医師や技術者もいます。
もう三週間も囚われているんです」

日本人男性は黙って頷き、壁際に座り込んだ。
眼鏡を外し、疲れたように目頭を押さえた。

夜が更けた。

看守たちの足音が遠ざかり、
建物全体が静まり返った頃、
日本人男性がゆっくりと立ち上がった。
眼鏡をかけ直し、周囲を見回す。

そして、彼は鉄格子に近づいた。

「何をしているんですか」
政府高官が警戒した声で尋ねた。

「変なことをすれば、私たち全員が——」

言葉が途切れた。

日本人男性の手が、鉄格子を掴んでいた。
そして、金属が軋む音とともに、
格子がゆっくりと曲がり始めた。
まるでバターを曲げるように、軽々と。

「ば、馬鹿な……」

囚人たちは息を呑んだ。
格子が十分に広がると、男性は静かに言った。

「出られます。静かに」

一人、また一人と、囚人たちが格子をくぐり抜けた。
廊下に出ると、男性は先頭に立って歩き始めた。
その動きに、どこか不自然なものがあった。
歩き方が滑らかすぎる。
まるで重力を感じていないかのような。

階段の手前で、足音が響いた。

武装した見張りが二人、角を曲がってきた。
銃を構える。

その瞬間、日本人男性が動いた。

彼の動きは、言葉では表現しがたいものだった。
コミカルに見えるほど大袈裟な身のこなし。
だが、その速度は人間離れしていた。
最初の男の銃を掴み、ねじり上げ、
男の体を軽々と持ち上げて壁に押し付けた。
二人目が発砲する前に、
回転するような動きで接近し、
首筋に手刀を叩き込んだ。

二人の男は音もなく倒れた。

「行きましょう」

男性の声は、依然として感情を欠いていた。
まるで会社の廊下を歩くような口調で。

地上に出ると、夜空に星が瞬いていた。
そして、空気を震わす音が聞こえてきた。

巨大な影が、月明かりの中に現れた。

STOVL——短距離離陸垂直着陸機だった。
軍用機のような無骨な外観だが、
どの国の軍のマーキングもない。
機体が地面すれすれまで降下し、
後部ハッチが開いた。

「早く!」

ハッチから声が響いた。
囚人たちは我先にと駆け出した。
日本人男性は最後まで残り、
全員が乗り込んだのを確認してから機内に入った。

ハッチが閉まり、機体が浮上し始めた。

「全員無事です」
男性はヘッドセットに向かって報告した。

「帰投します」

機内の照明の下で、彼の顔が照らされた。
汗ひとつかいていない。
背広は相変わらずよれていたが、
眼鏡の奥の瞳には、何の感情も浮かんでいなかった。

「お、お名前は」
政府高官が震える声で尋ねた。

「あなたは何者なんです」

男性は少しだけ首を傾げた。
まるで質問の意味を理解するのに
時間がかかったかのように。

「エイキュー警備保障の者です。
L'sコーポレーション傘下の民間警備会社です」

「民間の……?」

「はい。たまたま近くにいたもので」

たまたま。

その言葉に、誰も反論できなかった。
人間離れした力、超人的な動き、
完璧なタイミングで現れた救出機。
どれ一つとして「たまたま」で
説明できるものではなかった。

だが、疑問を口にする者はいなかった。
ただ、命が助かったという安堵だけが、
機内を満たしていた。

機体は闇の中を飛び続けた。

男性は窓際の席に座り、眼鏡を外して指で拭いた。
その動きは、どこまでも人間的だった。
疲れたサラリーマンの仕草そのものだった。

だが、彼の胸の内側には、
有機組織と精密機械が複雑に絡み合っていた。
バイオテクノロジーとロボット工学の粋を集めた、
生体ロボット。
L'sコーポレーションが極秘裏に開発した、
究極の人工生命体。

その存在を知る者は、世界中に数人しかいない。

政府も、諜報機関も、テロリストも。
誰一人として、今夜何が起きたのか、
真実を知ることはない。

ただ、十五人の乗客と数十人の人質が、
奇跡的に救出された。
それだけが、記録に残る事実となる。

男性は眼鏡をかけ直し、窓の外を見た。
地平線が白み始めていた。

新しい一日が始まろうとしていた。

そして彼は、また明日も、よれた背広を着て、
どこかの街角に立っているだろう。
誰にも気づかれず、誰にも知られず。

平凡なサラリーマンとして。

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**おわり**