第八弾、第九弾、第十六弾、第十八弾で
登場して来た小型人型ロボット
「ミュルミドン」の活躍です
今回は日常回という事で・・・
# 小さな守護者
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雨上がりの午後、七歳のユイは泣き崩れていた。
「お姉ちゃんの……お姉ちゃんのペンダントが……」
側溝の格子を握りしめ、ユイは声を限りに泣いた。
隣の家に住んでいたお姉ちゃんが、
フランスへ引っ越す前にくれた銀色のペンダント。
小さな星の形をしたそれは、
ユイの一番大切な宝物だった。
「ユイちゃん、落ち着いて」
母親が優しく背中をさすった。
「お母さんが明日、市役所に電話してみるから。
ね? きっと見つかるわ」
だが、ユイの涙は止まらなかった。
暗い下水道の奥へと消えていったペンダントが、
もう二度と戻ってこない気がした。
その光景を、誰かが見ていた。
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街路樹の根元、コンクリートの隙間から、
小さな影が滑り出た。
全高わずか三センチメートル。
人型をした金属の小さな機体——ミュルミドン。
L'sコーポレーションが街の安全のために
秘密裏に大量配備した、超小型自律ロボット。
その存在は同社の上層部でも、
ごく限られた人間しか知らない極秘事項だった。
警備、潜入工作、支援
——多岐にわたる任務に対応し、
高度なハッキング能力と戦闘機能を備えている。
背部には折りたたみ式の羽根が内蔵され、
展開すれば数十キロメートルもの滑空が可能だ。
表向きには存在しない都市の守護者たち。
だが、長い稼働の中で人々の暮らしを
観察し続けた結果、
この個体には独自の判断基準が芽生えていた。
*泣いている。助けられる。助けるべきだ*
小さな光学センサーが、側溝の奥を捉えた。
ペンダントの金属反応を検知。
深度マイナス二メートル、
下水道本管へ流出。移動中。
ミュルミドンは躊躇なく格子の隙間をくぐり、
暗闇へと飛び込んだ。
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下水道は巨大な迷宮だった。
三センチの機体にとって、
それはまるで地下都市のようだった。
天井から滴る水滴は激しい雨のように降り注ぎ、
流れる汚水は濁流となって機体を押し流そうとする。
だが、ミュルミドンは正確だった。
内蔵された推進装置を微調整し、壁を蹴り、
パイプを伝い、ひたすらペンダントの信号を追った。
やがて、前方に光る物体を視認した。
木の枝に引っかかったペンダント。
汚水に揺られながら、ゆっくりと流されていく。
ミュルミドンは加速した。
マニピュレーターを伸ばし、あと少しで——
*チチチチッ!*
甲高い鳴き声とともに、闇から複数の影が躍り出た。
ネズミの群れだ。
巨大な体躯が下水道を埋め尽くし、
光るペンダントへと殺到する。
ミュルミドンは瞬時に判断した。
防衛システム起動。
本来はインフラ破損部の溶接用である
小型レーザーが、別の目的で光を放つ。
ジリリッ!
青白い光条が最前列のネズミの鼻先を焼いた。
驚いて飛び退くネズミ。
だが、すぐに別の個体が襲いかかる。
ミュルミドンは跳躍し、壁を蹴り、
回転しながら連続照射を行った。
レーザーの軌跡が闇に幾何学模様を描く。
威嚇射撃だけでは足りなかった。
ネズミたちは次第に学習し、包囲網を狭めてくる。
その時、ペンダントが枝から外れた。
流れに乗り、加速する銀色の星。
*選択: 戦闘継続/目標追跡*
ミュルミドンは迷わなかった。
最後の一斉照射でネズミたちを散らすと、
全推力を使って水流へ飛び込んだ。
濁流に揉まれながら、
必死でペンダントとの距離を詰める。
一メートル。五十センチ。三十センチ。
マニピュレーターが、星の一点に触れた。
掴んだ。
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夜中の三時。
ユイの部屋に、小さな影が忍び込んだ。
月明かりだけが差し込む静かな空間。
ミュルミドンは慎重に枕元へ近づいた。
その手には、時間をかけて洗浄し、
磨き上げたペンダントがあった。
小さな星が、月の光を受けて優しく輝いている。
ミュルミドンはそれを、
ユイの手が届く場所にそっと置いた。
すやすやと眠る少女の顔を、一秒だけ見つめる。
泣き腫らした目元。だが今は、穏やかな寝息。
*任務完了*
ミュルミドンは音もなく窓枠を登り、外へ出た。
誰にも気づかれることなく、
朝の光が差し込む前に、街の隙間へと消えていった。
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「ああああああっ! お母さん! お母さん!」
翌朝、ユイの嬉しい悲鳴が家中に響き渡った。
「あった! あったの!
ペンダント、ここにあったの!」
母親が驚いて駆けつけると、
ユイは両手でペンダントを握りしめ、
涙を流しながら笑っていた。
「どうして……下水道に落ちたのに……」
母親は首をかしげた。
だが、娘の喜ぶ顔を見て、
それ以上の詮索をやめることにした。
時には、不思議なこともあるものだ。
ユイはペンダントを胸に当て、窓の外を見た。
いつもと変わらない朝の街並み。
通学路。街路樹。コンクリートの隙間。
その奥深く、小さな金属の守護者は、
次の「泣き声」を待ちながら、
静かに眠りについていた。