名前が同じですが
第十一弾の鳥谷修とは別人の設定です
こちらの鳥谷修や
生体ロボットのお話は
今後も続編を作ろうかと思っています
# 影の英雄
## 第一章 終わりの始まり
夕暮れの商店街に、悲鳴が響いた。
「やめてください!」
鳥谷修は本屋の角を曲がったところで、
四人の男子生徒に囲まれている少年を見つけた。
少年は制服から察するに、
隣町の高校の一年生だろう。
「おい、そこまでだ」
修の低い声に、不良たちが振り返る。
「あん? てめぇ、関係ねえだろ」
「関係ある。今すぐそいつを離せ」
修は静かに、
しかし有無を言わさぬ口調で告げた。
普段なら授業をサボって屋上にいるか、
誰にも見られないよう街を見回っている彼だったが、
今日はたまたまタイミングが合っただけだ。
不良たちは修の目を見て、何かを感じ取ったのか、
舌打ちをして立ち去った。
「あ、ありがとうございました!」
少年は深々と頭を下げると、走り去っていった。
修は小さく息をつき、
いつもの裏路地を通って帰路についた。
誰にも感謝されなくていい。
ただ、困っている人を放っておけないだけだ。
そう思った瞬間、背後に気配を感じた。
「おい、鳥谷」
振り返ると、
そこには隣の高校の制服を着た
五人の男が立っていた。
さっきの不良たちが呼んだのだろう。
「さっきはよくもやってくれたな」
リーダー格の男が、ポケットから何かを取り出す。
鈍く光るナイフ。
修は身構えたが、既に遅かった。
横と後ろからも男たちが迫る。
「お前、学校でも一匹狼の不良だって有名だよな。
誰も助けに来ねえよ」
その言葉と共に、鋭い痛みが脇腹を貫いた。
「がっ……」
二度、三度。
修の視界が揺らぐ。
アスファルトに膝をつき、そのまま横倒しになる。
薄れゆく意識の中で、修は考えた。
誰も俺のことを分かってくれなかった。
教師も、クラスメイトも、街の人も。
俺はただ、正しいことをしたかっただけなのに。
不良たちの足音が遠ざかる。
誰も助けに来ない。
暗闇が、修を包み込んだ。
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## 第二章 新しい命
「確認しました。鳥谷修、十七歳。
死因は多発性刺創による失血死」
黒いスーツの男が、
路地裏で冷たくなった修の遺体を見下ろしていた。
「回収を」
「了解しました」
エイキュー警備保障。
L'sコーポレーション傘下の特殊部隊。
表向きは民間警備会社だが、
その実態は誰も知らない。
黒いバンが路地裏に滑り込み、
修の遺体は静かに運び込まれた。
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「脳の記憶データ、抽出完了」
研究施設の地下。白衣の女性研究員が、
モニターに映し出される無数のデータを確認していた。
「生体ロボット『ブルー』の準備は?」
「完了しています。擬態プログラム、起動可能です」
カプセルの中で、
人間と見分けのつかない姿をした
生体ロボットが静かに眠っている。
「それでは、鳥谷修の外見データ、
記憶データを転送。起動シーケンスを開始」
カプセルが淡い光に包まれる。
ブルーの体が、徐々に変化していく。
髪の色、顔の輪郭、身長、体型。
すべてが鳥谷修そのものになっていく。
そして——目が開いた。
「こ、ここは……?」
修——いや、修の記憶を持つブルーが、
カプセルから起き上がる。
「落ち着いて、鳥谷修くん。
あなたは死にかけていたところを、私たちが救ったの」
女性研究員が優しく声をかける。
「死にかけて……? そうだ、俺は刺されて……」
「あなたの体は深刻なダメージを受けていた。
だから、特殊な医療技術で再生したの。
今のあなたは、以前より強く、
そして特別な力を持っている」
ブルーは自分の手を見つめる。
見た目は完全に鳥谷修だ。
記憶も、感情も、すべてが修そのものだ。
「何が……目的なんだ?」
「あなたには、これからも
正義のために戦ってもらいたいの。
今度は、もっと効果的に、
もっと多くの人を救えるように」
ブルーは——修は——しばらく黙考した後、
静かに頷いた。
「分かった。でも、一つだけ条件がある」
「何?」
「俺は、俺の意志で動く。命令には従わない」
女性研究員は微笑んだ。
「それで構わないわ。あなたは自由よ、鳥谷修くん」
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## 第三章 日常への帰還
翌朝、
修は何事もなかったかのように学校へ向かった。
「おはよう」
いつも通り無愛想に挨拶するが、誰も返事をしない。
クラスメイトたちは修を見ると、わざと視線を逸らす。
「また修、サボるんじゃないの?」
誰かの囁きが聞こえる。
修は——ブルーは——自分の席に座り、窓の外を見た。
以前の修の記憶がある。孤独だった。
理解されなかった。
でも、それでも正しいことをしようとしていた。
その想いは、今も変わらない。
いや、今はもっと強くなれる。
放課後、修はいつものように街を見回る。
だが今は違う。
強化された聴覚で、
遠くの悲鳴を聞き取ることができる。
強化された脚力で、
一瞬で現場に駆けつけることができる。
「助けて!」
公園の向こうで、女性の声。
修の姿が、一瞬でその場から消える。
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「大丈夫ですか」
気がつくと、引ったくりの男は地面に倒れ、
修が女性にバッグを返していた。
「あ、ありがとう……ございます」
女性は驚きながらも、お礼を言う。
修は小さく頷き、その場を立ち去ろうとする。
「あの! お名前は!?」
「……鳥谷です」
修は振り返らずに答えた。
学校では不良。街では一匹狼。
でも、それでいい。
俺は俺のやり方で、この街を守る。
たとえこの体が人工のものでも、
この想いだけは本物だから。
修の姿が、夕暮れの街に溶けていく。
新しい命を得た影の英雄の、新たな戦いが始まった。
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**【終】**