第十一弾と第十二弾の
その後のようなお話を思いついたので
AIに書いて貰いました
# 初恋の残像
商店街のアーケードを抜ける風が、
秋の気配を運んでいた。
数多瞬は買い物袋を片手に、ゆっくりと歩いていた。
六十五歳。かつてサーキットで名を馳せた
レーシングドライバーも、
今では週末の買い物を楽しむ普通の老人だ。
引退して十年。
華やかだった現役時代の記憶は、
色褪せたトロフィーと共に書斎に眠っている。
「あっ」
前方で、小さな悲鳴が聞こえた。
中年の女性が買い物袋を落とし、
転がった野菜を追いかけようとして
バランスを崩している。
瞬は反射的に駆け寄り、
散らばった荷物を拾い集めた。
「大丈夫ですか」
「すみません、ありがとうございます」
顔を上げた女性と目が合った瞬間、
瞬の心臓が大きく跳ねた。
白髪混じりの髪。深く刻まれた目尻の皺。
年齢を重ねた肌。
それでも、その瞳の奥に宿る優しさ、
少し困ったように微笑む口元
——すべてが、四十年以上前の記憶と重なった。
「千代子さん」
呼びかけた自分の声が震えていた。
女性——山口千代子は、目を見開いて瞬を見つめた。
数秒の沈黙の後、彼女の目に驚きが浮かんだ。
「数多くん?」
「ああ」
二人は、商店街の片隅のベンチに腰を下ろした。
「変わったわね、数多くん。
いえ、変わってないというべきかしら」
千代子は遠慮がちに笑った。
瞬は、彼女のその仕草が高校時代と
同じだと気づいて、胸が締めつけられた。
「千代子さんこそ。元気そうで良かった」
「元気なんて、とんでもない」
千代子は自嘲的に首を振った。
「三度目の離婚をして、もう独りよ。
子供たちも家を出て、それぞれの人生を歩んでる。
私は……ただ、毎日をやり過ごしているだけ」
瞬は黙って聞いていた。
「数多くんは結婚したの?
レーシングドライバーとして成功して、
きっと素敵な奥さんがいるんでしょう?」
「いや、独身だ」
千代子が驚いたように顔を上げた。
「どうして? あんなに人気があったのに」
瞬は苦笑した。どう説明すればいいのか。
サーキットを走る日々、勝利の興奮、
スポンサーとの交渉、取材
——そのすべてを通じて、ずっと心の片隅にいたのは、
高校の教室で横顔を見ていた少女の姿だった。
「昔から、ずっと好きだった人がいてね」
千代子が不思議そうに瞬を見た。
「告白したけど、振られた。
でも、その思いは消えなかった」
千代子の顔色が変わった。
「まさか……」
「ああ」
瞬は静かに頷いた。
「君だよ、千代子さん」
千代子は息を呑んだ。震える手で口元を覆う。
「覚えてる? 卒業式の日、校舎の裏で。
僕、君に告白した」
「覚えてる……」
かすれた声だった。
「ごめんなさい、って。そう言って、私……」
「逃げるように去って行ったね」
瞬は穏やかに微笑んだ。
「あの時は辛かったよ。
でも不思議なことに、その思いは消えなかった。
むしろ、その痛みが僕を前に
進ませてくれたような気がするんだ」
千代子は黙ってうつむいた。
「私ね、あの時……」
静かな声だった。
「近所のお兄ちゃんが好きだったの。
子供の頃からずっと憧れていて、
その人しか見えなくて」
涙が頬を伝った。
「数多くんが告白してくれた時、
正直に言えば良かったのに。
でも言えなくて、ただ『ごめんなさい』って……」
千代子は震える声で続けた。
「でも、その人とは結ばれなかった。
彼は別の人と結婚して。
私は……その後、焦るように誰かと付き合って、
結婚して、失敗して。
何度も何度も同じ過ちを繰り返した」
千代子は瞬を見つめた。
「あの時、数多くんの気持ちに
ちゃんと向き合っていれば。
他の誰かの影を追いかけるんじゃなくて、
目の前にいてくれた人を見ていれば
……人生は変わっていたのかもしれない」
「千代子さん」
瞬の声が千代子の言葉を遮った。
「過去は変えられない。
でも、今ならまだ間に合う」
千代子が顔を上げた。目が潤んでいる。
「でも、見てよ。こんなに老けて、皺だらけで。
三度も結婚に失敗して、もう何もない女なのよ。
あの頃の私はもういない。
数多くんを振った、あの臆病な女の成れの果てなのよ」
「関係ない」
瞬は千代子の手を取った。冷たく、小さな手。
「僕は、あの時も今も、
山口千代子という人が好きなんだ。
君に振られても、その気持ちは変わらなかった。
容姿じゃない。年齢じゃない。
君の優しさ、君の笑顔、君のすべてが、
ずっと好きだった」
千代子の目から、涙が一筋こぼれた。
「でも……あの時、振ったのに」
「あの時は、君の答えだった。
今なら、違う答えがあるかもしれない」
瞬は深呼吸をした。
六十年以上生きてきて、
サーキットで命を賭けて走ってきて、
それでもこの瞬間が一番緊張していた。
「もう一度だけ、聞かせてほしい。
好きです、千代子さん。
高校の時からずっと、君を愛してる」
商店街の雑踏が、遠くに聞こえる。
千代子は震える手で涙を拭い、瞬を見つめた。
その目に何が映っているのか、瞬には分からない。
拒絶かもしれない。困惑かもしれない。
それでも、もういいと思った。
四十年間胸に秘めてきた想いを、
ようやく伝えられた。
千代子の唇が、ゆっくりと開きかけた——。
秋風が、二人の間を吹き抜けていった。
**(終)**