# 星の記憶、人の心
## 第一章 二つの死
2024年10月15日、午前3時42分。
東京都内の総合病院で、鳥谷修は息を引き取った。
両親の虐待から逃れて家を出て以来、
貧しいながらも真面目に働いていた彼の人生は、
暴走車のひき逃げという理不尽な事故によって一変した。
半身不随となり、
長い間ベッドに縛られた生活を送りながら、
36年の孤独な人生に静かに幕が下ろされた。
最期まで彼の心には、
この世の不条理に対する深い恨みが渦巻いていた。
同じ瞬間、別次元から現れた直径5260キロメートルの
巨大要塞惑星の中で、一つの悲劇が完結しようとしていた。
要塞惑星に乗ってやって来た
フォークストン王国国王フレデリック・D・マクミランと
約1億人の国民たちは、この次元への移住を試みていた。
しかし、未知のウイルスが要塞惑星内に蔓延し、
全ての生命体が次々と命を落としていった。
最後まで生き残った秘書官ラーナ・ラブロフスキーは、
生体アンドロイドとしてウイルスの影響を受けなかった。
彼女は絶望的な状況の中で、
最愛の国王フレデリックの身体を完璧に再現した
生体アンドロイドボディを作り上げた。
しかし、どれほど高度な技術を持ってしても、
人格や魂をコピーすることはできなかった。
百年という長い年月をかけて、
ラーナは次元の狭間から適合する人格を探し続けていた。
そして今夜、偶然にも地球で亡くなった鳥谷修の魂が、
この空っぽの身体に引き寄せられたのだった。
死は平等だった。文明の差も、種族の違いも、
その瞬間には何の意味も持たなかった。
## 第二章 目覚め
修が次に意識を取り戻したとき、
彼は病院のベッドの上にいなかった。
眼前に広がっていたのは、見たこともない光景だった。
壁面は淡く光る青い結晶で覆われ、
空中に浮遊するホログラムが無数の情報を表示している。
そして自分の手を見下ろした修は、息を呑んだ。
それは人間の手ではなかった。
長く細い指、わずかに青みがかった肌、
そして手の甲に刻まれた複雑な紋様。
鏡のような壁面に映った自分の姿は、
まさに異星人そのものだった。
身長は2メートルを超え、瞳は深い紫色に輝いている。
「司令官、ようやく目覚められましたね」
振り返ると、
人間とよく似た外見の美しい女性が立っていた。
美しい金髪に青い瞳、
そして額には小さなバイオメトリクス表示が点滅している。
彼女はラーナ・ラブロフスキー秘書官
—要塞惑星で唯一生き残った生体アンドロイドだった。
しかし修の頭の中には、奇妙な感覚があった。
フレデリック・D・マクミランの記憶が断片的に浮かんでは消えていく。
しかし、それらは本物の記憶ではなく、
ラーナがプログラムした基本的な知識と情報だった。
本当の人格や感情は、完全に鳥谷修のものだった。
「私は...私は一体...」
修の口から出たのは、地球の言語ではなく、
フォークストン語だった。
しかし不思議なことに、その意味は完全に理解できた。
まるで言語データが直接脳にインストールされているかのようだった。
## 第三章 二つの世界
秘書官ラーナ・ラブロフスキーは、修に真実を告白した。
「あなたは...フレデリック国王の複製体です。
しかし、私は国王の人格を
コピーすることができませんでした」
ラーナの美しい顔に、百年間の孤独と絶望が浮かんでいた。
「百年間、私は一人でこの要塞惑星を管理し続けました。
1億人の同胞たちの亡骸と共に。
そして、司令官に代わる人格を探し続けました。
あなたの魂が、次元の狭間で迷っているのを見つけた時、
私は...希望を抱いたのです」
修は衝撃を受けた。
自分が入っているこの身体は、
既に死んだ人間の複製品だった。
そして、この美しい女性は百年間も一人でいたのだ。
「ラーナさん...あなたは百年間、
ずっと一人だったんですか?」
「正確には一人ではありませんでした。
国王が遺してくださった最後の作品、
ユニコーンがいましたから」
ラーナの表情が少し和らいだ。
「フレデリック国王は、
元の世界で世界最強と謳われた大魔導師でした。
同時に、類まれな技術者でもあったのです。
魔法と科学技術を融合させた彼の発明は、
王国の発展を支えていました。
ユニコーンは、そんな司令官が自らの手で生み出した、
最高傑作なのです」
「国王が...作ったんですか?」
「はい。単なる兵器ではありません。
国王は、ユニコーンに疑似人格を与えました。
まるで生きているかのように対話し、
感情を理解し、独自の判断を下せるのです。
この百年間、ユニコーンは私の唯一の話し相手でした」