実家に帰って1週間がたった。

その日、母に連れられ堕胎の手続きに病院に来ていた。

診察室に呼ばれた私は、一通り説明を聞いた。

堕胎できるギリギリの時点だと分かった。

初期と違い、産む形での手術になるとの説明をされ、心はポッカリと穴が開いた。

 

ああ・・・

無理矢理出産しても、この子は生きれないんだ・・・

彼を失い、子供まで失い・・・

私に何が残る??

独りぼっち?

 

今までまともな恋愛なんてしてこなかった私が初めて『普通』の恋愛を経験したのが先輩だった。

 愛人時代は会ってご飯→ホテルのコースばかり。

デートらしいデートなんてした事も無く、夜のテクニックが鍛えられたくらい。

それが先輩と出会ってからは、BBQやハイキング、花火大会、だんじりを見に行ったり、夏祭りだって色々な所へ出向いた。

普通ってこうなんだ。

普通のカップルというカテゴリを初めて教えてくれたのが先輩だった。

 

私は産科医に向かってこう言った。

 

 

 

「やっぱり産みます。」

 

 

 

隣に座った母が、私の方を向き、声を荒げた。

 

 

 

「は??あんた、何言ってんの!!」

 

 

 

母は私の方を向き、明らかに動揺した顔でそして怒りに満ちていた。

その場で私と母は口論した。

私は思わず言ってしまった。

 

 

 

「彼と離れる事はやっぱりできない」

 

 

 

その言葉を聞いた母はまさに激おこ。

人前で声を荒げる母を見たのは初めてだった。

 

産科医は私と母の仲裁に入り、看護師は私に落ち着くように促した。

きちんと考えてもう1度来てください。

そう言われ、病院を出た。

 

帰り道、運転をしながら母は泣いていた。

 

 

 

「あんたの事だけを思ってこっちは動いてきた!あんな男のどこがいい!娘が大変な思いをするのを分かっていて、それを最初から許す親はいない!もうあんたなんか知らん。勝手にすればいい」

 

 

 

母を初めて泣かせてしまった。