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今日の労働判例

【JR東日本(組合脱退勧奨)事件】(東京地判R5.8.10労判1306.5)

 

 この事案は、労働組合Kの組合員らX1~X4が、会社Yにより、組織的・個別に、Kを脱退するように不当な干渉を受けたとして争った事案です。

 裁判所は、請求の一部を認めました。

 

1.組織的な組合脱退勧奨

 Xらは、例えば、Kとの交渉事項に関するYの見解をたびたび社内に掲示したり、Yの社長が全国の各拠点(250か所)を訪問して、経営の考え方を伝えたりしたことなどが、組織的な退職勧奨である、と主張しました。

 裁判所は、①そもそも、組合脱退の勧奨に該当しない(「ベースアップについての被告としての考え方を明らかにしたものにすぎず、本件組合の評価を下げるような、虚偽や事実を歪曲した記載もない」、②Kによるストライキの可能性に関する報道で動揺する現場を訪問することは、「何ら不合理ではない(い)」などと評価しました。

 経営陣が現場の従業員に対して情報や意見を伝えることが、それだけで組合脱退勧奨に該当するわけではなく、かといって、何を言っても良いわけではありませんから、許容されるかどうかは程度の問題です。実際に、どのような判断枠組みで、どのような事情が考慮されたのか、が今後の参考になります。

 本事案では、比較的、シンプルな表現となっていますが、①では、表現の内容や、労働組合への影響が考慮されており、②では、会社側の事情(従業員への情報・意見発信の必要性・合理性)が考慮されています。

 

2.個別の組合脱退勧奨

 他方、個別の退職勧奨として、Xらは9つのエピソードを指摘しており、裁判所もそれぞれについて詳細な事実認定と評価をしています。組織的な退職勧奨よりも詳細であり、参考になります。

 その多くは、職場の上司や、役員が、朝礼や、上記の職場訪問の際に、組合の要求内容に対する会社側の意見をかなり踏み込んで説明したり、さらに踏み込んで、組合の脱退の検討を勧めたりしており、そのため裁判所としても、上記1より踏み込んだ、より慎重な検討が必要となったのでしょう。

 この中で、不当な退職勧奨として評価されたエピソードが1つあり、評価の分かれ目がどこにあるのか、という点が、特に参考になるでしょう。

 すなわち、損害賠償請求が認められたエピソードは、職場での懇親会の場で、20回以上、「まだ組合をやめないのか」「早くやめろよ」などと話した、というものです。否定された他のエピソードとの違いは、発言内容が、組合脱退勧奨そのものである(否定されたものは、会社の見解を伝えるものであったり、自分で判断するように促すものであったりします)点と、20回にも及ぶその頻度にある、と整理できそうです。

 逆に、損害賠償請求が否定されたエピソードは、問題となる上司の言動について、それが経営側からの発言としての合理性があるかどうか、など、その合理性が慎重に検討されています。

 このことから、上記①②と同様の判断枠組み、すなわち、従業員側の事情と会社側の事情を総合的に評価していると言えるでしょう。

 

3.実務上のポイント

 退職勧奨の場合も、それが許容される範囲を超えるかどうかが問題になり、その態様によっては同様に損害賠償請求が認められる場合があります。

 退職につながる退職勧奨と、組合脱退につながる組合脱退の勧奨は、状況が異なり、考慮すべき事情も異なりますが、相互に、参考になるでしょう。