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今日の労働判例

【日本HP事件】(東京地判R5.6.9労判1306.42)

 

 この事案は、管理職としての能力がないなどの理由で、管理職内でのレベルが下げられ、減給された従業員Xが、会社Yに対して、処分の無効を争った事案です。

 裁判所は、Xの主張を概ね認めました。

 

1.Yの規定

 ここでYは、Yの能力不足に関し、上司の評価や、能力開発プログラムの適用の提案など、合理性や適切なプロセスを経ていることを、強調しています。

 しかし裁判所は、規定上の根拠が不十分であることを主な理由に、Xの主張を認めました。

 たしかに、①職務・職務レベルが下位に異動した場合には、降給を実施することがあり、新職務の給与レンジで対応する、という趣旨の規定や、②管理職から非管理職に降格した場合の給与の減額例が示された規定などがありました。

 けれども、①は、(本事案に適用される規定であるという判断が前提になっているようですが)「職務又は職務レベルの具体的内容や、給与レンジの額、職務の異動の基準」が示されていない、という理由で、降格・減給の根拠にならない、という趣旨の判断をしました。

 ②は、本事案に適用されるものではない、という趣旨の評価に加え、これが就業規則の一部となりうるような、条文上の委任関係がなく、労基署への届け出や従業員への周知もない、等の理由から、やはり降格・減給の根拠にならない、という趣旨の判断をしました。

 会社が問題のある従業員に対応する場合、能力や適性のなさ、という内容面にこだわりがちですが、就業規則などの規定についても配慮しなければならないのです。

 

2.実務上のポイント

 特に、①の規定さえあれば、降格・減給の根拠として十分、と考える方がいるかもしれませんが、近時は、降格・減給などに関し、抽象的な可能性だけでなく、具体的なルールが示されている必要がある、という趣旨の判断を示す裁判例があります(「システムディほか事件」東京地判H30.7.10労判1298.82)。この事案では、抽象的な可能性を示す規程すらなかった事案ですので、ルールの具体性がどの程度必要なのかについて、判然としませんでしたが、本事案は、抽象的な可能性を示す規程は存在します(①)ので、具体的なルールが必要である、という点について、先例としての意義がより明確と言えるでしょう。

 従業員の降格・減給に関するルールが適切かどうか、この裁判例が指摘する点を参考に、検討するきっかけになるでしょう。