今日の労働判例

【三多摩合同労働組合元組合員事件】(東京高判R4.5.18労判1305.58)

 

 この事案は、会社と争っていた元労働組合員Yに対し、会社との交渉や訴訟に協力した労働組合Xが、Yの取得した金額の2割を賦課金として支払うように求めた事案です。

 1審(東京地立川支判R3.9.16労判1258.61読本23.120)、2審いずれも、Xの請求を否定しました。

1審の解説動画:

 

1.事案の概要

 YがXを頼ったのは、平成13年でした。Kから退職勧奨されたことがきっかけのようです。その後、YはKから解雇されてしまい、Xが同年から平成23年まで、団体交渉等を行ってきました。

 他方、Yは平成17年に、弁護士を雇って訴訟を提起し、平成18年に約1400万円の支払いを命ずる判決を獲得し、弁護士報酬などを除いた1300万円弱を受領しました。

 Xは、平成22年に組合のルールを改め、10%以上の賦課金を支払うルールを定めました。

 Yは、平成24年にXを脱退し、Xは平成25年と令和1年に、カンパや賦課金の支払いをYに求めました。

 ここで裁判所は、労働組合の団体交渉の報酬にも相当するような金銭の支払いについて、Xの請求を否定したのです。

 

2.実務上のポイント

 後からルールを改めても、賦課金を請求することはできない、という結論は、1審と2審で共通します。

 2審ではさらに、幾度となく賦課金の支払いに同意していた、という趣旨のXの主張も、Xが主張するエピソード一つ一つを検証したうえで、否定しました。後者は事実認定の問題です。

 前者について2審は、抽象的な権利としてあるとしても具体的な権利となっていない、全組合員の関係で一律でなければならない、等の理由でXの請求を否定しました。

 一律、ということが、Xの請求を否定する根拠になるのか、疑問があります(規定自体、10%以上とされており、具体的な賦課金の金額は個別に決定される構造になっている、など)が、具体的な権利となっていない、ということについては、突き詰めると、後からのルールでは拘束できない、ということと同じことであるように思われますが、何か違いがあるのでしょうか。

 法律構成上の問題は、より議論してその構造を明確にする余地があるように思われます。

 けれども、リスク管理の観点から見た場合、最初から報酬の内容を合意して契約書にしておくことの重要性が再確認される事案です。