https://youtu.be/7EyAJ1ZQbN0

 

今日の労働判例

【サカイ引越センター事件】(東京地立川支判R5.8.9労判1305.5)

 

 この事案は、引っ越し業務を担当する運転手Xらが、会社Yに対して、未払の賃金・残業代などの支払いを求めた事案です。

 裁判所は、Xらの請求の一部を認めました。

 

1.基礎賃金

 もっともページ数を割いて検討しているのが、諸手当の「基礎賃金」該当性です。

 すなわち、Yは諸手当を残業代計算の際の基礎金額に含めていなかったのですが(出来高払制賃金、という理由)、問題とされる諸手当それぞれについて、どのような基準で計算されたか、というルールだけでなく、実際にどのように運用され、支給されたのか、という運用も検討しています。

 特に注目されるのは、実際の運用が非常に重視されている点です。

 例えば、「業績給A(売上給)」は、実際に担当した引越業務案件の売上金額をベースに計算されますから、出来高払制賃金に該当するように見えます。

 けれども裁判所は、案件がどのように配転されるのか、という「配車」の実態を重視し、従業員間で不公平が生じないように配慮しながら配車されていることなどから、出来高払制賃金に該当しない、と評価しました。

 このように、制度設計を整えれば、それで「出来高払制賃金」に該当するのではなく、運用の実態まで踏み込んで検討しなければならないことがわかります。

 

2.変形労働時間制

 制度設計だけでなく、運用の実態まで考慮している点では、変形労働時間制も同様です。

 すなわち、30日前までに公休予定表が作成・公表される制度設計になっていたものの、それが運用上徹底されておらず、Y側からの予定変更も「まれでなかった」ことを理由に、変形労働時間制が無効である、と評価されました。

 制度の導入・運用について、制度設計で形を整えるだけでなく、運用がそれに伴わなければ、違法とされるリスクのあることが示されたのです。

 

3.資格手当

 Yでは、大型免許取得者には資格手当(3,000円/月)が支払われることになっており、Xらも受給を希望していましたが、Yはその手続きを教えず、支給してきませんでした。

 裁判所は、大型免許の所持を前提に配車してきたことが、「実質的に同資格手当の申請をしていたと認めるのが相当」と評価し、資格手当の支払いを命じました。

 Yが、Xらの資格手当の申請を意図的に妨害していたのかどうかはわかりませんが、それを前提とする状況にありながら、支給しないことのYの背信性や、手当に対するXらの期待等が考慮されたのでしょう。

 

4.実務上のポイント

 本事案では、労働時間も議論されました。

 裁判所は、出勤時と退勤時の着替えの時間として、それぞれ5分間追加することを認めましたが、出勤前に控室で過ごす時間は労働時間として認めませんでした。また、昼休みにも作業をしていた、というXらの主張に対し、それを裏付ける証拠がない、という理由でこれも労働時間として認めませんでした。

 あえて、多くの論点に共通するポイントをあげれば、労働法では、実態に着目してルールが適用される、したがって、労務管理上、実態を管理・検証することが重要、ということが指摘できるでしょう。