今日の労働判例

【北九州市(嘱託職員自殺)事件】(福岡地判R5.1.20労判1304.33)

 

 この事案は、市役所Yの嘱託職員だったKが業務によってうつ病になり、Y退職後、他の職場に勤務していたが、退職後2年超経過したところで自殺した事案です。

 Kの遺族である両親Xらが、Yに対して損害賠償を請求しましたが、裁判所はこれを否定しました。

 

1.因果関係(公務起因性)

 因果関係の問題は、2つあり、1つはうつ病の「発症」がYの業務に起因するかどうかという点ですが、この点は問題なく肯定されています。

 2つ目が問題であり、同じYの業務との起因性ですが、うつ病による「自殺」がYの業務に起因するかどうか、という点です。

 裁判所は、Y退職から2年を超えていることに加え、退職によってストレスから解放され、新たな職場で「充実した生活」と、他方、新たな「業務による負荷」があり、うつ病が遷延・悪化して退職し、経済的な負担と相まって自殺した、と認定し、因果関係を否定しました。

 単に、Y退職からの期間を問題にするだけでなく、Yでのストレスの影響が薄まり、他方、新たな職場でのストレスや、Y以前からのストレス(経済的な問題)があった、という複合的な理由で、因果関係を否定したのです。

 

2.実務上のポイント

 Yでの上司によるパワハラがあった、という主張もされており、KがYでうつ病にならなければ自殺しなかったはずである、と強い不信感を抱いていたことがうかがわれます。法的責任の観点からは、Yの責任が否定されましたが、Yでのうつ病発症が遠因となっていることは間違いないようですから、YでのKの労務管理について、見直すべき点があるように思われます。