※ 元司法試験考査委員(労働法)

 

 

 

今日の労働判例

【全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(和歌山)刑事事件】(大阪高判R5.3.6労判1296.74)

 

 この事案は、産業別労働組合Kの組合員Yらが、生コン会社の役員Bらによって、元暴力団員Iを使ってKの支部の調査、ビデオカメラの撮影、組合員の監視、等を行ったとして、Bらに抗議をしに行き、4時間半面談を継続したことが、威力業務妨害罪・強要未遂罪に該当するとして、有罪とされた事案です(1審)。

 Yらは、無罪を主張して控訴したところ、2審はYらを無罪と判断しました(破棄自判)。

 

1.事実認定

 この事案で注目される1つ目のポイントは、事実認定です。

 2審は、1審の判断が誤っているとして、事件に至る前の経緯から詳細に1審判断を再検証していますが、全般的に共通して指摘している1審の問題点はYらの一部の言動だけを取り上げていること、信用性の低い証言を過度に重視していること、Yらに有利な事情を一切考慮していないこと、などです。

 特に、Yらの一部の言動だけを取り上げている点は、たしかに大きな声を出したことがあっても、それはごく短時間で、それもBらの対応が引き金になっていること、4時間半の大部分は話し合いが行われていたこと、しかも長時間になったのが、Bらが真実でない説明をしたためにYらの追及が難しくなったこと、などが指摘されています。

 刑事事件と民事事件は、手続の構造が異なるため、証拠や事実の認定も同じではありませんが、例えばハラスメントの認定について、加害者の言動の一部だけを取り上げてハラスメントと認定するのではなく、当時の状況や言動の背景・必要性・相当性などから合理性を検討する裁判例が多数ですから、この点は労働裁判でも共通すると言えるでしょう。

 

2.組合活動の当事者

 2つ目のポイントは、正当性に関する判断の前提となる点ですが、Kの交渉相手(当事者)としてBらが適切かどうか、という点です。

 1審は、Bらの生コン会社にKの組合員が所属していないから、合理性が制限される、という趣旨の判断をしました。

 これに対して2審は、従業員が所属していなくてもBらは労使交渉の当事者になる、と判断しました。それは、Kが産業別労働組合であることが根拠とされています。産業別労働組合はあまりなじみがありませんが、今後の判断の参考になるポイントです。

 

3.実務上のポイント

 事務所内でのBらとの交渉と同時に、事務所外では組合員らが、元暴力団員の介入を非難するビラをまくなどの街宣活動を行っており、この点が行き過ぎであることは、2審も認めていることです(だからこそ、上記2(正当性)の検討がされたのです)。

 犯罪の成否として見ても、1審裁判官・2審裁判官で判断が分かれるほど微妙だったのですから、YやKに対して民事の賠償責任などを求めた場合、その責任が認められる可能性も大きかったように思われます。

 労働組合の活動が行き過ぎた違法なものかどうかは、その一部の言動だけを取り上げるのではなく全体で判断し、さらに具体的な言動や証拠の評価がどのように行われるのか、参考になる裁判例です。

 

 

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

 

 

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