※ 司法試験考査委員(労働法)

 

 

今日の労働判例

【学校法人横浜山手中華学園事件】(横浜地判R5.1.17労判1288.62)

 

 この事案は、小学校教諭Xが、(平成28年ころ)第5子の出産に伴う産休・育休の取得・延長、(令和2年ころ)第6子の妊娠に伴う勤務軽減措置や、母性健康保護措置に伴う休業、等を取得したが、学校Yは、Xが、①休業申請や②休業延長、③軽減措置、④看護休暇の申請が不当であり、⑤育休中に別の学校で働き(懲戒処分された)、同僚や上司を非難するなど「教師に必要な総合的な人間力が欠如している」として、Xを解雇した事案です。

 裁判所は、解雇を無効と評価しました。

 

1.各種申請の合理性(①~④)

 ①~④には、それぞれ固有の事情があります(①は、給与が支給されるかどうかによって、休業や在宅勤務等、要求内容がころころと変わったこと、②は1ヶ月・3週間前、③は3日前、④は当日、というように、申請から実際に登校しない日までの期間が短かったこと、など)が、Xの要求に対応するためにYが非常に苦労した点があります。

 裁判所は、①については、賃金支払いの有無によって申請内容を変更することは、従業員の立場として不合理ではない、としました。また、②~④については、いずれも関連法規の要求する条件が満たされている(②については、育休法5条3項・4項により2週間、③については、労基法65条3項に予告期間の定めなし、④についても、育休法16条の2の1項に予告期間の定めなし)、としました。

 たしかに、急に代わりの教師を確保するなどの対応が必要となったことから、Yとしては、Xが周囲への配慮に欠けるように感じたのでしょうが、法の定める要件が備わっている以上、法が定める休業などは与えなければならず、むしろそのような急な申し出にも対応できるような体制作りと、従業員との日頃からのコミュニケーションが求められている、と評価できます。

 会社の人事体制や管理の在り方に関し、学ぶべき重要なポイントです。

 

2.実務上のポイント

 次に⑤ですが、具体的にどのような言動があったのか、「被告代表者が作成した陳述書」の内容が明らかでないため、明らかでありませんが、裁判所は、陳述書記載のXの言動を「前提としても」、すなわちYの主張を仮にそのまま認めた場合であったとしても、Xの言動は校長を批判するものにすぎず、Xの能力不足等を「裏付ける事情とはいえない」と評価しています。

 裁判所のここでの判断を前提にすると、人格非難など、経営批判を超えた内容の言動があり、それがXの能力不足等を裏付けると評価できる場合には、かかる言動が解雇事由の1つとなり得る(もっとも、さらにそれが解雇に相当するかどうか、という問題が残ります)でしょうが、多少きついやり取りがあっても、その言動自体を問題とすることができない、ということになります。

 このことから、処遇や労務管理に関して従業員から苦情や問題提起がなされる場合、会社はかなり辛抱強くこれに対応しなければならない、ということがわかります。

 このようにして見ると、鬱積したものを爆発させてしまうのではなく、日頃からのコミュニケーションを良好にして、早めに問題に対応することが重要である、という労務管理の基本の重要性に気づかされます。

 

 

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

 

 

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