※ 司法試験考査委員(労働法)

今日の労働判例

【ハマキョウレックス(無期契約社員)事件】(大阪高判R3.7.9労判1274.82)

 

 この事案は、有期契約者だったXらが労契法18条に基づいて「無期転換」されたことから、契約内容が正社員と同様になったと主張して、会社Yに対して正社員と同様の賃金などの支給を求めた事案です。

 なおYは、無期契約者と有期契約者の処遇のうち、無事故手当・作業手当・休職手当・皆勤手当等の相違に関し、同一労働同一賃金に反し、違法と判断した著名な最高裁判決(最二小判H30.6.1労判1179.20)後に、これらの手当の相違を是正していました。他方、最高裁が判断しなかった住宅手当・家族手当・賞与・定期昇給・退職金の相違はそのまま維持されていたようです。つまり、Xらは違法とされなかった部分(各差額9万円強)について、今度は「正社員として」差額の支給を求めたのです。

 1審2審いずれも、Xの請求を否定しました。

 

1.無期転換

 労契法18条は、5年以上有期契約が更新された場合には無期契約に転換できることが規定されています。この事案で問題になったのは、無期転換されるかどうか、という「要件」の問題ではなく、無期転換されるとどうなるか、という「効果」の問題です。すなわち、Xは、正社員と同一の処遇を求めました。

 けれども2審は、1審と同様、正社員ではなく契約社員である、と判断しました。

 詳しくは1審の解説(労働判例読本2022年版32頁)と2審の判決をご覧いただきたいと思いますが、正社員のルールが適用されるための「別段の定め」が存在せず、むしろ契約社員のルールの適用が明確に合意された、と認定されたのです。

 無期転換されると正社員と同じになる、と誤解している人もいますが、実はそうではない、という点を確認しておきましょう。

 

2.実務上のポイント

 Xらはさらに、Xらに対して正社員就業規則ではなく契約社員就業規則を適用することは、正社員より明らかに不利な労働条件を設定するもので、均衡考慮の原則(労契法3条2項)や合理性の要件(同7条)を欠く旨主張しています。

 同一労働同一賃金に関するパート法8条・9条が適用されない(本事案は、有期契約と無期契約の対比ではなく、いずれも無期契約だから)のですが、しかしこれと同様の判断枠組みで検討されている点が注目されます。

 詳しくは1審の解説をご覧いただきたいと思いますが、無期契約社員の間での処遇の違いについても、有期契約社員の場合と同じ判断枠組みが適用される(もちろん、要求される合理性の程度は違い得るでしょう)ため、処遇の違いの合理性を検証しておくべきである、という点が、実務上留意すべきポイントでしょう。

 

 

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

 

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!