※ 司法試験考査委員(労働法)

※ YouTubeで3分解説!

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今日の労働判例

【ヤマサン食品工業事件】(富山地判R4.7.20労判1273.5)

 

 この事案は、定年目前であって、定年後は期間1年の再雇用が合意されていた従業員Xが、懲戒処分を受けたということで、会社Yから再雇用の合意を解除された事案です。Xは、解除が無効であると主張し、本判決に先立つ仮処分決定(ヤマサン食品工業(仮処分)事件・富山地決R.11.27労判1236.5)においても、Xの主張を認めました。

 

1.強行法性

 本判決も仮処分決定も、微妙な違いはありますが、就業規則の規定を高年法の観点から厳しく解釈し、解除権が発生していない、という判断を示しています。

 理論構成で注目されるのは、Xの再雇用の契約の解除の有効性を判断するための法律構成です。Xは、定年直前ですが、定年後の再雇用の契約を締結していました。所定の条件を満たす場合には、定年後も再雇用される、という内容の契約です。

 ここで2審は、この再雇用の条件を、高年法の観点から厳格に解釈する、としました。Xを再雇用するかどうかについて、「精勤する意欲」「出勤率が95%以上」「人事評価、昇給考課で普通水準」「健康」の4つの条件、すなわちYによる一定の評価が伴う条件が追加されていたのですが、これらの条件を考慮することは高年法の観点から許されない旨、判断したのです。

 高年法と異なる基準を設けることは許されない、と一般的に指摘するだけでなく、このように実際に高年法の要求する条件以上に厳しい4つの条件の適用を排除しているのですから、実質的に見ても、高年法の更新に関するルールが強行法と同様に機能しています。具体的には、解雇・退職事由のある場合以外は雇用継続を拒否できない、ということになるのです。

 すなわち2審は、高年法の法的な性格について、会社側による解雇や更新拒絶を制限する規定と位置付けているのです。

 高年法には、高齢者雇用を義務付ける効果があることは従前から認められていますが、2審はそれをさらに一歩進め、契約内容を変更してしまうという強行法としての効力まで認めたものと言えるでしょうが、強行法としての効力については異論のあるところでしょう。しかも、解雇・退職事由のある場合には雇用継続を拒否できる、という具体的な基準は、法律自体に記載されたものではなく、厚労省の通達(H24告示560号)に示されたにすぎません。

 このような強行法的な効果が、他の裁判例でも認められるのかどうか、今後の動向が注目されます。

 

2.実務上のポイント

 とはいっても、解雇事由の無いことが再雇用の条件である点は認められていますので、問題のある高齢者の雇用継続が全て強制されるわけではありません。本事案でも、Xの言動が解雇相当かどうかが議論され、検討されています。

 特に、事業継続・危機対策の担当者でありながら、Xは、コロナ禍で従業員に配布するためにYが手配した除菌水(当時、非常に入手困難だったようです)を、従業員には大量の持ち帰りを遠慮するように指示しているにもかかわらず、X自身は20ℓのポリタンク2本分を2回も持帰った点が、Xの契約を解除した最大の理由のようです。

 けれども裁判所は、このような事情だけでは解雇相当ではない、と判断しました。

 これが更新拒絶の事案であれば、与えられた業務を適切に行使できない典型的な事例ですから、更新拒絶が有効、となったかもしれません。やはり、解雇相当かどうか、という基準がその文言だけでなく、事案の評価の段階でも厳しく適用されていると評価できます。

 この2審の判断枠組みや具体的な判断を見ると、高年法が適用される場合には、形式的には有期契約の更新(したがって、更新拒絶のルールである労契法19条が適用されるはず)であっても、契約解除と同じルール(労契法16条と同程度の厳しさ)が適用される、ということになってしまうのでしょうか。

 高齢者の定年後再雇用後、特に有期契約の場合のルールについて、今後の展開が注目されます。

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

 

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!