※ 司法試験考査委員(労働法)

※ YouTubeで3分解説!

https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 

今日の労働判例

【国・大阪医療刑務所(日東カストディアル・サービス)事件】(大阪地判R4.6.30労判1272.5)

 

 この事案は、大阪医療刑務所Yから業務を請け負った日東カストディアル・サービス社Kに雇われたXがYで運転手を行っていたが、YがKとの契約を打ち切ったことから、XがYに対して、派遣法40条の7に基づいて直接雇用関係が成立していると主張した事案です。裁判所は、Xの請求を否定しました。

 

1.派遣法40条の7

 ここで問題となった派遣法40条の7は、同40条の6と同様、派遣法の潜脱等に対し、派遣先に一種のペナルティーを科している点で共通します。

 しかし、同40条の6は、潜脱等を行った派遣先の民間企業に対し、直接、当該従業員の雇用関係が生じます(但し、当該従業員の「承諾」が必要です)が、同40条の7は、潜脱等を行った派遣先の国・地方公共団体に対し、「採用その他の適切な措置を講じなければならない」と定めるにとどまり、直接の雇用関係が当然に発生しない構造になっています。

 実際、この事案でも、裁判所は、派遣法の潜脱があったとしても、YはXを直接雇用する義務はない、と判断しています。

 同じように、派遣法の潜脱等を行っているのに、国や公共団体には直接雇用が生じないのは何故でしょうか。むしろ、国や公共団体こそ率先してペナルティーを受けるべきである、という評価もあり得るでしょうが、裁判所は、法律の規定に忠実に判断したのです。

 

2.派遣法40条の6

 このように、派遣法40条の7が適用されても、直接雇用関係が生じないのであれば、その前提となる同40条の6について検討する必要は無いはずですが、Xが損害賠償も求めているため、何らかの「適切な措置」を講じるべきだったかどうか、が議論されました。同40条の6が適用されれば、Yは(Xを直接雇用する義務はないものの)適切な措置を講じなかったとして、損害賠償義務を負う可能性があるからです。

 ここで特に問題とされたのが、「免脱目的」の有無です。同40条の6の中でも特に、1項5号が適用されるかどうかが問題になり、そこでは、Yの側に「免脱目的」のあることが条件とされているからです。

 裁判所は、この「免脱目的」に関し、2つのポイントを示しています。

 1つ目はその意義です。

 「免脱目的」と省略されていますが、条文上は、「この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的」と記載されています。この意味について、①単に、他の者を指揮命令しているという客観的な状況、すなわち、「免脱」の状況があるだけでは足りない、②さらに、指揮命令していることを認識・認容しているだけでも足りない、③違法であることを知り、適用を免れる目的であえて、派遣以外の名目で契約したことが必要、と示しました。

 2つ目はその時期です。

 「免脱目的」が必要なのは、そのような契約を締結し、当該従業員を実際に受け入れ始めた時点、としました。契約締結時や受入開始時には気づかず、後に気づき、そこで③のような目的を持つことになったとしても、「免脱目的」が無かった、と評価されるのです。

 本事案は、Xを請け負った後に労基署から派遣法に違反するという指摘を受け、その後に新たな所長が着任したのにもかかわらず、Yについてそれまでと同様に業務上の指示を与えていたことが認定されています。その後に、労基署の指摘を十分検討せず、派遣契約ではなく請負契約が締結されたことから、派遣法の免脱は存在したのですが、「免脱目的」までは存在しなかった、と評価しています。国の機関であるYが派遣法免脱状態を見逃していたことは「遺憾」であり、②が認められる可能性を示唆していますが、結局③は無かった、という判断をしたのです。その後、Yが契約形態を派遣契約に改めたことについても、それまでに③があったことを証明する事情としてではなく、むしろYの派遣法違反の違法性が小さいことを示す事情として、Yにとって有利に評価されています。

 このように、裁判所は同40条の6の1項5号に関し、「免脱目的」を狭く解釈することを通して、この適用を否定したのです。

 

3.実務上のポイント

 労働法は、労働者の生活や健康を守るために様々なルールを定めていますから、労働契約ではない、とか労働法が適用される状況にはない、という外観だけを整える免脱を認めるわけにはいきません。サービス残業や名ばかり店長など、労働法が適用されないような外観が作られている場合でも、実態が、労働法の適用されるような状況であれば、労働法が適用されます。すなわち、労働法では、実態に即したルールが適用される、という場面が多くあるのです。

 この意味で、派遣法40条の6の1項5号は、派遣の実態があるのに、それと異なる外観がある場合にその外観を否定しますから、労働法の傾向に合致する面があります。

 けれども、この規定は実態に合致しない状況を作り出してしまう、という過剰な面があります。

 すなわち、実態は派遣なのに、この規定が適用されると、派遣関係が発生するのではなく、直接の雇用関係が発生してしまうのです。派遣法を潜脱する状況で受け入れている事業者に対するペナルティーという理由で、実態(派遣関係)を超える法律関係(直接の雇用関係)が発生するのですが、実態に即したルールが適用される、という労働法の性格を超えるルールとなっているのです。

 本判決が、「免脱目的」を狭く解釈したのは、この規定の適用を広く認めてしまうと、過剰な結果が広く発生してしまうのでこれを避けたい、という問題意識があったのかもしれません。

 近時、この規定の適用が争われる事案が増えていますが、「免脱目的」など、この規定の適用されるための要件がどのように解釈され、どのような事案に適用されるのか、裁判所の判断はまだ安定していません。今後の動向を注目する必要があります。

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

 

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!