※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)

※ 司法試験考査委員(労働法)

※ YouTubeで3分解説!

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今日の労働判例

【医療法人偕行会事件】(東京地判R3.3.30労判1258.68)

 

 この事案は、医療法人Yの理事Xが、取引先業者を恫喝したり、キックバックを受領したりしていた事案で、YによるXの懲戒解雇が無効であるなどとして争われた事案です。裁判所は、Xの請求を否定しました。

 

1.就業拒否

 ここではまず、YがXの就労を拒否したことの有効性が争われました。Xの不正に関し、懲戒処分該当可能性や証拠隠滅可能性等を理由に、就業規則の規定に基づいて就業を拒否しました。

 Yが責任を負うのは、これが債務不履行ではなく受領遅滞であること、すなわち就業しないことの原因がXの側ではなくYの側にあることが必要となります。この点に関し裁判所は、Xが就労可能であったかどうか(就労の意思・能力)が問題であるとしたうえで、病気を理由に職場復帰できないことを繰り返し通知していたうえに、就業拒否の通知を受けた後には、会社のスキャンダルをでっちあげてマスコミにリークするなどしていた点を指摘し、就労の意思・能力がなかったと認定しました。つまり、Xの側の事情によることから、受領遅滞ではないことになり、Xの請求が否定されるのです。

 従業員が出社しない場合、その対価である給与を支払う必要があるかどうかが問題になる場合がありますが、本事案のように、働く意思・能力があったかどうかが、その際の1つのポイントになるのです。

 

2.実務上のポイント

 不正を隠し通すことは難しいのでしょう。

 Xの不正は、相当の数について詳細に明らかにされており、ここまで明らかにされれば懲戒解雇が有効であることも、当然のことと思われます。都議会議員の議員秘書だった時の仲間などと共謀したうえでの架空発注など、かなり荒っぽいことを、しかもかなり手広く行っていたため、隠しきれなくなるのは当然のことでしょう。

 しかし、本事案のように不正はいずれ明らかになる、等と言っている場合ではありません。

 かつてほど会社に対する忠誠心が高くなくなってきており、ここまであからさまではなくても、会社を自分の都合よく利用したうえで去っていくような従業員や役員も、今後はこれまで以上に多くなるでしょう。従業員や役員を疑ってかかれ、とまでは言えないかもしれませんが、従業員や役員の不正をどこかの段階で気づくことができるような様々な仕掛けも、考えておく必要があると思われます。

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

 

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!