
【ネタバレあり】
「物語シリーズ」の最新刊「忍物語」(モンスターシーズン第1作目)を読みました。
終物語のアニメが完結するまで「終物語(下巻)」以降を読むのを止めていたので、刊行されてから半年経ってしまいましたが。
時系列的には阿良々木暦が大学生になって間もない頃のお話。
阿良々木暦が向こう見ずで熱血漢な高校生から、そういうものを忘れて、失って、つまらない男になりつつあるところが、リアルというか現実的な高校生から大学生における変化のように思えた。
時系列的にこれよりも後の「結物語」でも、正義感からではなく、流され気味に警察官になった、かなり平凡な社会人として描かれていたので、それに繋がる大学時代の阿良々木暦像として妥当だとは思うが、高校卒業からそれほど時間が経っていないにもかかわらず、変わり過ぎとも思えた。
この物語の中で阿良々木暦は常に受動的で、臥煙伊豆湖の指示に従って動くだけ。阿良々木暦が語り部となっているので、あれこれ頭の中では何かしら考えていることは語られるが、常に臥煙さんに気付いたこと、思いついたことを相談し、それに対する新たな臥煙さんの指示に従うことの繰り返しで話は進む。暗号の解読を担当しますと名乗りを挙げるが、実際は大学で出来た友人、食飼命日子に全て解いてもらうだけで、使いっ走りもいいところ。自分の母校、直江津高校の女の子が次々と血を吸われて干からびてミイラのようになる事件であるのに、なんとかしなければ!という必死さや切迫感、正義感がほとんどない。臥煙さんからの協力要請に「わかりました。学業に支障が出ない範囲で、手伝わせてもらいます」という姿勢。終盤、連続吸血の犯人が直江津高校の女子高生と分かると、
──高校時代によくやっていたように、僕がひとりで汚名をひっかぶって、どうにかなるようなことではない。あれをやるには、さすがに他人事すぎる。僕は政治家じゃない。知らない人間のためにはそこまでは働けない。会ったことも、袖が擦りあったこともない、縁もゆかりもない女子を助けるってのは、なるほど、簡単じゃあないな──
などと語っている。高校生の阿良々木暦は見ず知らずの八九寺真宵を必死に助けたのに。自分を殺そうとした神原駿河を必死に助けたのに。
それらの中で無我夢中ゆえに過ちもたくさん犯したということもあって、反省し、慎重になったのだろうか。これも成長なのだろうか。後先考えずに、その場の勢いで、感情で、行動した結果、自ら自分のやってきたことを否定する怪異を生み出すに至ったわけだから、慎重な行動は成長だとも思う。けれど、その自分が生み出した怪異までも命を賭して助け、最終的には皆をハッピーエンドに導いたのだから、その性分を貫き続けても良かったのではないかとも思う。成長による慎重さだとしても、上記のような「さすがに他人事すぎる」云々の理由にはちょっと違和感を覚える。終物語での言葉、
──己を犠牲にしてまで誰かを救おうと思っていた、自分を大切にしないことが他人を愛することだと信じていた、薄くて弱い陶酔に溢れた、優しい欺瞞の時代は終わりを迎えた。──
を理由として欲しかった。母校の後輩、それも神原駿河のバスケットボール部の後輩たちを「他人事」と言ってしまうのは高校時代の阿良々木暦像からかけ離れすぎている。事の発端がキスショットを吸血鬼にした主人スーサイドマスターだから尚更「他人事」ではないだろう。そして、何かに憑かれているように感じた見ず知らずの女の子を卒業式を放り出して追いかける終物語のラストとも繋がらないように思う。強いて挙げるなら直接出会ったか否かの違いがあるのだけれど、会ってもいない千石撫子に呪いをかけた生徒をも助けようとした前例がある。
(言葉の選択や並べ方が凝っている西尾維新にしては雑な文章。「汚名をひっかぶって」汚名をかぶるような助け方なんてしてたっけ?「僕は政治家じゃない」政治家はこんな事件に全く関係ない。当てはめるとしたら専門家か警察。「縁もゆかりもない」母校の後輩という縁がある。)
で、タイトルにも書いたんだけど、この物語の主役は影縫余弦なんじゃないかと。
話の冒頭から万が一のため臥煙さんは後輩の暴力陰陽師、影縫余弦を北極から呼び戻している、とあるのだが、北極からということもあり、到着しないまま話は進んでいく。しかし、最後のクライマックスで阿良々木暦の行動で物語が終わるのではなく、影縫余弦が突然空から連続吸血の犯人の女子高生に膝蹴りを食らわして終わる。あっけなく。そして後日談の最後の方で語られる短い会話、
「影縫さんは、迷わないんですか?」
「迷わへんよ。大人やから」
この影縫余弦が言う「大人」とは「ポリシーを持った人間」といったニュアンスだろうか。
影縫余弦は「偽物語」で初登場したときからその迷いの無さを見せつけた。自分の信念、ポリシーを元に阿良々木月火という怪異を殺そうとした。しかし、阿良々木暦の珍しく筋が通った
「家族なんだから嘘もつきます。騙します。──」
「偽物であることが悪だと言うなら、その悪は僕が背負います。」
という主張に納得するとすっぱり「例外」とし、きっちりと「さようなら」と別れの言葉を口にして去っていった。(アニメでは足を揃えて綺麗にお辞儀する姿が印象的だった)
「迷わない」という意味では高校生の阿良々木暦も迷いがなかった。いつも何の迷いもなく人を助けることに全力だったし、自分を犠牲にすることも厭わなかった。「しのぶメイル」で臥煙さんから羽川と戦場ヶ原が危機だと教えられても迷うことなく神原を走らせ、自分は死屍累生死郎との勝負を優先した。臥煙さんの予想の斜め上をいく無軌道さだった。けれど、心の奥底では後から「あれは正しい行動だったのだろうか?」と疑問を持ち、悩んでいたから忍野扇という怪異を生んだ。子供だからこそ出来る無鉄砲な「迷いの無さ」だったわけだ。ポリシーに基づいた「迷いの無さ」ではなかったから悩んでしまった。だから「大人だから迷わない」と即答できる影縫さんからは底知れないものを感じるし、阿良々木暦には重い言葉だったであろう。
阿良々木暦が不甲斐ない男になっている分、影縫余弦の存在感が際立った物語だった。
そういう対比を見せるために阿良々木暦を不甲斐ない男として描いたのかもしれない。
ちなみに、いつも通り随所にコメディ要素を盛り込んでいるものの今回は自分としてはあまり面白く感じられなかったのが残念。
(忍をチャイルドシートに座らせるのを愉しむ嗜好はさすがにどうかと思う。女装ネタも「こよみリバース」の1回で充分。臥煙さんの熟女過剰反応ネタは好き。)
追記
西尾維新は推理サスペンスが下手ですね。「おうぎフォーミュラ」でも思ったんですが。あれは鉄条径?でしたっけ?先生を生徒と同列に並べてるのがズルすぎた。
(阿良々木暦があんな奴を先生と思いたくなくて同列に語ったという理由付けはあるし、犯人を明かす前に忍野扇に「阿良々木先輩は一つ事実を隠している」とヒントを言わせてはいるけど、完全に推理モノの体裁の小説であのオチはズルい。あのオチがありだとしても語り方が下手。鉄条径 ソフトボール部 クラスのまとめ役という紹介。名前をチラッと出すだけならまだしも。)
今回は序盤に名前まで出して貼交帰依を登場させた時点でもう真犯人だと分かってしまう。動機も本人の愚痴や神原駿河たちが抱える悩みから推測できる。ミイラの発見順のトリックとか全然意味がない。名前を出さず、バスケ部であることも伏せて、ただ現状への不満を呟かせるだけでよかったのに。そうすれば怪しいと思いつつ真相に近づく面白みがあっただろうに。
後付けで話を膨らませて意外なところへ着地させるのは上手いけど、推理モノとして構えて書くとすごく下手という印象。
(「掟上今日子の備忘録」も特殊な状況、人間関係などによる事件で奇想天外なオチで普通の推理モノとは相当異なる。ただ、それが作品の読みどころだから良いとして)
後付けで膨らませた話ではなくても推理モノの体裁でなければ「まよいマイマイ」の戦場ヶ原ひたぎには真宵が最初から見えていなかった、という意外なオチに感心させられたりしたんだけど。