社会人になってから漫画雑誌を買わなくなって久しいのだけど、「白暮のクロニクル」が結末を迎えそうということで、ビックコミックスピリッツを2ヶ月ほど買っていて知ったマンガ「あさひなぐ」。

ツボにはまってしまった。

 

薙刀を題材にしたスポ根モノで、作者は女性作家。

2000年以降、女性作家の少年誌、青年誌での活躍が年々加速しているように思う。

「鋼の錬金術師」の荒川弘、「荒川アンダーザブリッジ」の中村光、最近では羽海野チカによる「3月のライオン」などなど。羽海野チカを前者2つと紹介の仕方を逆にしたのは、羽海野チカはその前に「ハチミツとクローバー」を女性向け漫画雑誌に掲載していて、荒川弘、中村光が男性作家と変わらない絵柄、画風であるのに対し(でもなんとなく分かってしまうのだが)、羽海野チカは女性作家らしい絵柄であることもあって、分けてみた。

こういう傾向は驚くことではなく、自然な流れだとは思う。例えば私が小中学生だった1980年代の頃は少年漫画を読む男性と女性の比率は7:3ぐらいだったと思う。(ものすごくなんとなくの想像の数字で申し訳ないが)1970年代以前はもっと女性の割合は少なかったと思う。高橋留美子やあだち充が女性読者を増やした立役者な気もする。ともあれ、その後徐々に女性読者が増え、今は5:5と言っても過言ではないと思う。雑誌ではなく、単行本の購入者ともなれば尚更のこと(但し、エロ要素オンリーのマンガなどは除く)。

少年漫画、青年漫画を読んで育ったなら、描きたいと思う人が出てくるのは当たり前のことであろう。

昔の名残で少年誌、青年誌、少年漫画、青年漫画と表現されてるが、もう随分と前から実体に合わない呼び名になってしまっている。一般的にただ「マンガ」と言えばこれらを指し、逆に男性読者は1割未満であろう漫画を「少女漫画」や「女性向け漫画」と区別するのが妥当だ。

 

前置きが長くなってしまったが、こざき亜衣という女性作家による薙刀スポ根マンガ「あさひなぐ」。昔から続く古典的スポ根モノでありながら、女性作家ならではの部分も垣間見える面白い漫画。

絵柄はモロな少女漫画風ではないが、ひと目で女性作家と分かる絵柄。そして御存知の通り、薙刀は女性の武道であり、スポーツということで、主人公はもちろん大半のキャラクターは女の子。過酷な練習を積み重ね、努力と根性、ライバルや先輩、後輩との競い合いから強くなっていく主人公というところは、スポ根の基本としても十二分に面白い。

そもそもナギナタを題材にしたところが面白さのポイントでもあるだろう。マンガのコマ割りで見せるのに向いているスポーツだと思う。題材として多く取り上げられながら、案外マンガに向いてないと思うのがサッカー。TV中継の構図から明らかなように、選手の位置、動き、ボールの軌道が分かり易いグラウンドを俯瞰した構図が適しているところを細かいコマ割りで表現していくから。常に動き続けるスポーツだから。チーム人数の多い野球がマンガに向いているのは野球が静と動の繰り返しで、グラウンドは広いが、各ベースや守備位置がある程度固定されていて、描くポイントが明確だから。そういった点で、個人種目でコートも狭く、静と動のスポーツである薙刀はマンガのコマ割り表現に向いている。そして剣道よりもビジュアルとして魅力的なのが薙刀の長さ。近接競技でせせこましくなりがちなところを大きく魅せることができる。

読んで知ったことだが、構えの型が5つあるのが面白い。基本は中段の構え。切先を相手に向け、腕を下ろして腰辺りの位置に薙刀を構える。試合開始はこの構えで切先を合わせて始める。上段の構えというのがカッコいい。薙刀を振りかぶって切先は後ろに頭上に構え、あとは振り下ろすだけで攻撃できる、マンガでビジュアル的に見栄えする構え。けれども試合で使われることはあまり無いらしい(YouTubeで多少試合を見ましたが、ほぼマンガからだけの知識ですみません)。防御がガラ空きになるから。バトル漫画でいうと攻撃力は高いが自分にもダメージが起こる必殺技のようだ。

知らないスポーツだから、そういうことを解説されて知るだけでも楽しい。別にマンガの中でいちいち解説的なセリフが入るという感じはない。高校に入り何も知らずに薙刀部に入った女の子が主人公だから、先輩たちが教える体で織り込んであるから。

 

女性作家ならではの魅力というのは各キャラクターの心理描写、言動、行動が女性ならではという感じで、これは男性作家には描けないだろうというもの。スポーツは当たり前だけど、弱肉強食の世界。後輩だろうと強い選手は先輩を差し置いて団体のメンバーに選ばれる。男性作家は壁を殴って悔しがる姿なんかで済ませたりするが、この漫画は各自の嫉妬や自分の不甲斐なさなどのぐちゃぐちゃとした感情を主人公を問わず、事細かに描写する。普通よくあるパターンとしては、そういうぐちゃぐちゃとした感情を表現するためのキャラを用意したりする。嫉妬やウジウジした姿はキャラクターの印象を悪くするかもしれないから。でもこの漫画では各キャラそれぞれの個性に合わせて万遍なくぐちゃぐちゃした感情を描いている。そういう描写の中に女の子らしい考え方、言動だな、と感じるものが少なくない。

反面、気概や気迫をズバッと描くところは気持ちいい。コマ割りなんかも大胆でライバルとの対決では見開き、右に主人公、左にライバルをコマ割って、大きな文字で心の中をモノローグとして添え、そのモノローグの言葉が対比になっていたりして、読んでいて引き込まれる。心の機微が細かく描かれているマンガだと思う。

一応弁解を述べておいたほうが良いと思うが、「男性」と「女性」を比較、区別したような物言い、論述というのは、下手をすると差別と捉えられてしまうかもしれない。そういうつもりはなくとも、そう感じる人が居れば差別やハラスメントになってしまうものだ。このブログを読んで違和感や不快感を感じた方がいらっしゃったら、申し訳ありません。

でも、この魅力に気付いて考えが及んだのは、男性作家が描く女性キャラクターというのは女性からすると、違和感だらけなのかもしれないということ。女性読者は違和感を感じながらもマンガの世界ではそういうもの、と読み流しているのかもしれないな、と。

 

話があっちこっちに飛んでしまったが、今後の「あさひなぐ」の展開と女性作家の更なる活躍に期待します。