DIY(自作)アンテナの勧め
ー21MHz帯ひし形(ダイヤモンド)ループ・アンテナの製作法を分かり易く解説ー

 

(1) はじめに

 アンテナを設計、設置し、調整する際の要点を2つ。
(a) SWR値を1に近づける。リグから送り出された電波がアンテナに無駄なく行き渡るか、と言うことを表す指標としてSWR値があります。HF帯用のほとんどのリグにSWR計が内蔵されていますから、この値を知ることができます。リグから送り出されたすべての電波が無駄なくアンテナに入力される場合はSWR値が1になります。2以上の大きな値になると、リグ、給電ケーブル、アンテナのすべてが同調しておらず、リグから送り出された電波がアンテナに効率良く伝わらないために逃げ場を失い、給電ケーブルの外皮から電波が漏れたり、熱となって無駄になります。従って、リグからの電波を無駄なくアンテナに伝えるために、アンテナの設置時の調整の際に、このSWR値を1に近づける必要があります。
(b) アンテナの入力抵抗を給電同軸ケーブルの抵抗値50オームに近づける。アマチュア無線に用いられる給電同軸ケーブルの抵抗値は50オームです。リグの出力端子も50オームに設定されています。リグから送り出された電波がアンテナに無駄なく行き渡るためには、アンテナの入力抵抗値も50オームである必要があります。しかし、アンテナは、その形や給電点の位置、給電点の高さやアンテナ周辺の環境によってアンテナの入力抵抗値が変化します。コンピュータの進歩により、PC用のアプリによってアンテナのシミュレーションが可能で、あらかじめアンテナの性能が予想でき、アンテナの入力抵抗値も計算できます。それでも設置環境によって、その値が僅かに変化しますから、設置したアンテナの調整の際に、アンテナの入力抵抗値を給電同軸ケーブルの50オームに近づける必要があります。もし、アンテナの入力抵抗値が50オームから大きく外れる場合、以下のような工夫が必要です。つまり、給電ケーブル側からアンテナを見た場合に、アンテナの入力抵抗値が50オームに見えるように偽装する装置、すなわち『電圧バラン』や『電圧アンアン』を給電同軸ケーブルとアンテナの給電点の間に挿入し、アンテナの見かけの入力抵抗値を50オームにします。この作業がアンテナ自作の最も厄介な点です。もちろん、アンテナの入力抵抗値が50オーム付近であれば、上記のような偽装作業が不要ですので、アンテナの自作が初めての方に最適です。

(2) ループ・アンテナの特徴

 ループ・アンテナは下図のように、たくさんの種類があります。アンテナの給電点を黄色丸で示していますが、他の場所に移動しても電波の輻射特性には大きく影響しません(もちろん、垂直・水平偏波成分は変化しますが、電離層反射が主なHF帯の場合、それほど問題でも)。ただ、同じ形、同じサイズのアンテナであっても、給電点の場所を変えるとその入力抵抗値も変化します。
 

 ループ・アンテナの特徴ですが、先のブログ『18MHz帯ひし形(ダイヤモンド)ループ・アンテナの製作』で詳細に解説していますが、再度簡単に!
(a) 給電点の地上高が低くても打ち上げ角が小さく、利得も比較的大きい。打ち上げ角が小さいアンテナはDXに有利です。ダイポール・アンテナは半波長(21MHz帯の場合7.5m)よりも高くアンテナを設置しないと、ほとんどの電波を頭上に向けて飛ばすことになります。ローカル局はともかくDXはさっぱり!
(b計算長よりも少し長めにエレメント・ワイヤーを切って設置すれば、アンテナの下端でそのワイヤーを切り詰めるだけでSWRの調整が可能です。ダイポール・アンテナであればエレメント・ワイヤーの両端の二か所でワイヤーを切り込むことになります。しかし、ループ・アンテナの場合、給電点の一か所で2本のアンテナ・エレメントを切り込むだけで済みます。
(cアンテナの幅など、その形を調整することによって、アンテナの入力抵抗値を給電同軸ケーブルの抵抗値である50オームに近づけることができます。その場合、電圧バランや電圧アンアンなどを使った給電ケーブル(50オーム)との抵抗整合が不要です。
(d2波長ループ・アンテナとしても同調します。例えば10MHz帯用に調整したアンテナは21MHz帯のアンテナとしても利用できます。ダイポール・アンテナはこのような事が出来ません(3波長アンテナとして作動はしますが、実用的でありません)。
(eノイズが少なく「静かなアンテナ」です。
逆に短所は、
(fHF帯用の場合、特に7MHz帯以下のローバンドでは巨大になり、実用的でありません。

(3) ループ・アンテナの選定
 どのようなループ・アンテナを選択するかですが、最初に思い付くのはデルタ・ループ(三角形)アンテナです。とくに水平エレメントが高くできる倒立型デルタ・ループ・アンテナが人気です。ただし、倒立型の場合、三角形の底辺部が最も高い場所になります。つまり、長く、重いエレメントを最も高い所に設置することになります。また、アンテナの入力抵抗値が100から200オームとなり、給電ケーブル(50オーム)との抵抗整合が必要となります。アンテナの調整の際、アンテナ・アナライザー等によるアンテナの入力抵抗値の測定が必須ですし、市販のアンテナ電圧バラン、もしくは自作のバランが必要となり、中・上級者向きです。
 今回紹介するひし形(ダイヤモンド)ループ・アンテナの場合、アンテナの入力抵抗値が給電ケーブルの給電抵抗値である50オームに近く、給電同軸ケーブルとの抵抗整合が不要ですので、アンテナの自作が初めての方にも最適です。ただし、それでもアンテナと給電同軸ケーブル間の平衡ー不平衡接続対策(コモンモード電流対策)が必要です。そのためにアンテナと給電同軸ケーブルの間にバランを挿入するのですが、1:1の強制バラン(電圧バラン)は自作が容易でなく、今回、製作がとても簡単なソーターバラン(電流バラン)を挿入することにしました。 なお、『平衡ー不平衡接続』に関してですが、解説されているサイトをネットで調べて見ました。下記のサイトが最も分かり易く、お勧めです。是非、御参照下さい。

 

 

 

 上写真に自作のソーター・バランを示します。上図は巻き方の解説図です(VK6YSF局のホームページから拝借、この図では巻き数が10回ですが12回巻きを推奨)。3D2V程度の細い50オームの同軸ケーブルをトロイダル・フェライト・コアに巻きます。当局が使ったものはフェライト・トロイダル・コア FT240-43で、外径が6cm程度あります。『フェライトトロイダルコア FT240-43』でネットで検索してみて下さい。通販で購入可能です。巻き数、巻き方は上写真・図を参照して下さい(赤矢印が同軸ケーブルの両端)。もう少し大きいコアや小さいコアでも問題ありません。要は、50オームの同軸ケーブルが写真のように巻ければOKで、同軸ケーブルの長さや太さなどは影響しません(巻き数、巻き方厳守!)。巻き数をさらに増やすと性能が上がるような気がしますが、巻き数を増やすと21MHz帯では逆に性能が落ちます。結束バンド(ナイロン・ケーブル・タイ)で同軸ケーブルをトロイダル・コアに固定して下さい。

 高価ですが、市販のソーター・バランや1:1バランも代用できます。ただ、このバランを省略した場合、10W程度の出力であっても給電ケーブル外皮網線からの不要輻射が無視できず、テレビやラジオなどへの放送受信障害(TVI)やリグへの『回り込み』の原因になります。TVIの苦情に関し、一度発生してしまうと対処出来たとしても、その後も厄介です。是非、バランを挿入して下さい。

(4) ひし形(ダイヤモンド)ループ・アンテナの構造と作成法
 アンテナの構造は、先のブログ『18MHz帯ひし形(ダイヤモンド)ループ・アンテナ)の製作』と同じですが、アンテナ・エレメントの長さやアンテナの幅が異なります。アンテナのシュミレーション・アプリMMANA-GAL(CQ誌2020年6月号別冊で紹介されました)を使用し、利得、打ち上げ角、アンテナの入力抵抗を留意しながら、エレメント長の最適化を行いました。
 最上図左(A)に中心周波数が21.074MHzの場合のアンテナのサイズを示しています。給電点から頂点までの長さ、すなわち全高は6.7mです。少し高価ですが、『鯉のぼり用グラス・ファイバー製伸縮ポール』(灰色の垂直棒)を使えば、移動運用に使えなくはないサイズですネ(導電性の金属製やカーボン・ファイバー製は不可)。赤線はエレメント・ケーブル、当局は0.8mm撚れ銅線の被膜電線、青線は約2m長の2本のグラス・ファイバー・ポール(直径5.5mm、通販で1本100円程度)をステンレス製のホースクランプ(ホースバンド)で束ねて、それを繋ぎ合わせて3.57mとしました。下端の黄丸が給電点。ひし形の一辺は3.72m、もちろん、エレメント・ケーブルの継ぎ目は必要なく、全長14.90mの一本ケーブルがベストです。
 アンテナの周りに十分な空間がある場合、最上図右(B)の設置方法が簡単です。オレンジ色は強度のある紐を示しています(金属製は干渉するため、NG!)。この場合、アンテナの幅(3.57m)を決めるために、先の水平棒の代わりに紐を追加しています。
 

最上部は、紐で立木などに結び付けるために上写真のように結束バンド(ナイロン・ケーブル・タイ)でループを形成すると便利です。
 

グラス・ファイバー・ポール(写真中の白色棒)とエレメントとの接続は、上写真のように、まずビニール・テープでエレメントとポールを7、8回程度巻き付け、その上からステンレス製のホース・クランプ(ホース・バンド、通販で一個300円程度)で締め付けます。
 

給電点は、紐などで固定するために2本のエレメント・ケーブルを束ねてループとし(上写真内の青矢印)、写真のように、タッパーなどのケースに入れたバランに接続します。バランは必ずタッパーなどの非金属性のケースに入れて防水処理をして下さい。エレメントとバラン、もしくは給電ケーブルとの接続は、当局は半田付けをしています。市販のバランを利用する場合、防水処理をする必要はありません。ねじ止め、もしくは給電ケーブルのコネクターで直接接続して下さい。
 上記通りアンテナを設置した場合、SWR値は2以下で実用的には問題ありません。SWR値が2よりも大きい場合、誤配線、もしくは金属製のものがアンテナの傍にあり、干渉している可能性があります。SWR値が測定できない場合、リグの出力計を見ます。SWRが悪い場合、リグが自動的に出力に制限を加えるために、リグの規定値の最高出力が出ません。

 なお、参考までに、SSBでの運用を考慮した中心周波数が21.250MHzの場合、ひし形の一辺は3.69mでエレメント・ワイヤーの全長は14.76m、アンテナの幅、つまり青線の2本のグラス・ファイバー・ポール長は3.57mです。
  
(5) アンテナの調整法

(a) SWR計を用いる場合
 リグにSWR計が内蔵しているか、もしくは単体のSWR計をお持ちの場合、両下端のエレメントを計算値より少し長めに切ります。例えば3.80m。すなわち、エレメント・ワイヤーの全長15.05m。上記のようにバランなどを仮に接続し、給電同軸ケーブルをリグに接続して、SWR値が最小になるようにアンテナ下方の2本のエレメント・ケーブルを、それぞれ同じ長さで切り込んで下さい。SWRの最小値とアンテナの共振周波数との関係を利用する場合、例えば、SWR値が20.900MHzで最小だった場合、2本の下方ケーブルを給電点でそれぞれ5.5cm切断します(でも実際は切り過ぎないようにするため、数cmずつ切り込んで下さい)。SWR値が最小になる周波数が21.074MHz付近に来るはずです。SWR値が2以下なら実用上問題ありません。ただし、SWR計の針が振れる場合、リグの終段を保護するためにリグ内臓のアンテナ・チューナー(ATU)、または後付けのアンテナ・チューナーの使用をお勧めします。

(b) アンテナ・アナライザーを用いる場合

 アンテナ・アナライザーなどをお持ちの中・上級者の場合、上記方法でアンテナだけを設置後、アンテナの入力インピーダンス(Z)を測定し、リアクタンス成分(X)がゼロになるようにアンテナ・エレメントの下端を切り込んで下さい。その後、バランと給電ケーブルを接続して下さい。なお、アンテナの幅を広くすると、すなわち3.57mをもう少し大きくすると レジスタンス成分(R)が大きくなります。例えば、15cm広げて3.72mにするとレジスタンス成分(R)が10オーム程度上昇します。アンテナ調整の際に、リアクタンス成分(X)がゼロでレジスタンス成分(R)が50オームから大きく外れる場合は参考にして下さい。

(6) アンテナの輻射特性
 上図は、アンテナの調整後、給電ケーブルのリグ側で測定したバンド内のアンテナのSWR値です。21.074MHzでSWR値が1.17でした。リグでSWR値を測定しても針が動きませんでした。ATUなしで問題なく使えます。
 

 アンテナの輻射特性をMMANA-GALアプリでシュミレーションしてみました。給電点が地上高3mの場合と8mの場合を上図に示しています。上図のそれぞれの左図はアンテナの上方から、それぞれの右図は側面から見た電波の輻射強度分布を示しています。ダイポール・アンテナと同様、いわゆる『8の字特性』で、利得は、アンテナの前後方向で最大で、給電点が地上高3mの場合は打ち上げ角27度で7.2dBi、8mの場合は打ち上げ角17度で8.6dBiとなりました。あくまでも計算値です、参考程度に。利得だけを見れば2エレ、もしくは3エレの八木アンテナ相当です。

 

de WJ2T