24MHz帯の傾斜型同軸ケーブル3段コーリニア・アーレイ・アンテナの製作


(1) はじめに
 太陽の活動がサイクル25に突入し、予想に反し、急激に太陽黒点数(SSN)が増加、HF帯のハイハンド(21、24、28MHZ帯)が賑やかになって来ました。この機会に10MHz帯のひし形ループ・アンテナを下ろし、24MHz帯のアンテナを上げることにしました。14m高の立木に設置したいのですが、すでに18MHz帯のアンテナがあるので、当初、干渉を防ぐために10m程度離れた別の立木を利用したアンテナを考えました。しかし、結局、これらの2本の立木を利用し、少し傾斜したコーリニア・アレイ・アンテナを設置することにしました(下図、黄色丸は給電点、赤線は1/2波長エレメント、オレンジ色は1/4波長エレメント、青線はナイロン製支持紐)。ダイポール・アンテナも考えましたが、アンテナ高が半波長以上にならないので諦めました。当局のコーリニア・アレイ・アンテナは、エレメントとして同軸ケーブルを用います。この方法はアンテナの長さを短くできるメリットがあり、多段にすることが可能です。これまでにいくつかのバンドでこの種のアンテナを設置して来ましたので、今回はその再現となりました。なお、同軸ケーブルを使用したコーリニア・アレイ・アンテナの動作原理に関しては、先のブログ『同軸ケーブルを使用したコーリニア・アレイ・ダイポール・アンテナの動作原理とその24MHz帯の製作』の中で触れていますので、御参照下さい。

(2) アンテナの構造と動作原理
 このアンテナの特徴は、複数のエレメントから構成され、それぞれのエレメント長が『機械長』でなく、同軸ケーブルの速度係数(波長短縮率)が反映された『電気長』となり、多エレメントの割には短くなります。一種の短縮アンテナです。その構造は、電気的長さの1/2波長または1/4波長の複数の同軸ケーブルを直列につなぎ、そのつなぎ目で同軸の芯線とシールド網線を交互につなぎ合わせたものです(下図)。それぞれのエレメントから同位相の電波が輻射される原理は、芯線から電波が輻射されず、シールド網線からのみ輻射されると仮定し、直列につながった各同軸ケーブルのシールド網線から同位相の電波が輻射されることに基づいています。このアンテナを垂直に設置した場合、電波の輻射方向はほぼ水平方向(上空から見下ろせば全方向)となります。そのため、VHFやUHF帯用のアンテナ、特にリピータ基地局用アンテナとしてしばしば紹介されています。ただし、HF帯に用いられることは稀です。

(3) アンテナの構成
 エレメントを切り出し、つなぎ合わせた後に立木に設置、アンテナ・アナライザーでアンテナの給電点での入力インピーダンスを実測し、50オームの同軸ケーブルで給電するために、LC回路でインピーダンス・マッチングをすることにしました。この場合、手持ちのアンテナ・アナライザー(RigExpert社製 35-Zoom)の測定可能なインピーダンスの上限が1Kオームであるため、電圧腹給電方式では、給電部のインピーダンスがその上限を超えてしまいます。さらに、アンテナ・アナライザーは50オームのコネクターを介してインピーダンスを測定するため、アンテナのインピーダンスが50オームから大きくはずれると正確なインピーダンス(レジスタンスとリアクタンス)が測定できません。従って、今回の場合、給電点のインピーダンスが50オームよりも小さいアンテナの方が比較的誤差の少ない値が得られます。これらのことから、アンテナの給電点におけるインピーダンスが相対的に小さい電流腹給電を選択し、1/4波長の同軸ケーブル端からの給電としました。アンテナの全長を12m程度と考え、給電点側から順に(1/4波長)+(1/2波長)+(1/2波長)の3段コーリニア・アーレイ・アンテナとし、上図のような構造となりました。さらに段数を増やす場合は、1/2波長エレメントを追加・延長して下さい。なお、それぞれのエレメントに流れる輻射電流の大きさは、給電点側の1/4波長エレメントを1とすると、次の1/2波長エレメントは0.5、さらに次の1/2波長エレメントは0.25のようにそれぞれ半減していくことになります。

(4) 同軸ケーブル・エレメントの切り出し
 切り出すエレメントの長さは、使用する同軸ケーブルの速度係数(波長短縮率)に依存します。メーカー名とケーブルの型番が分かれば、ネットで調べることが可能です。たとえば、藤倉電線(フジクラ)社製などは、ネット掲載のカタログに明記されています。
 当局が用いた同軸ケーブル、Belden社のRG-58(速度係数の実測値0.66)(3D2V相当)を例とすると、中心周波数を24.915MHzとして、この場合、1波長=12.03m、従って、1/2波長の同軸ケーブルのエレメント長は12.03mx0.5x0.66 = 3.73m、これを2本、1/4波長エレメントは、その半分の1.87mで1本切り出し、図に示しているように、つなぎ目でシールド網線と芯線を交互に半田付けして、融着テープで防水処理を行いました。なお、当局は斜めにアンテナを設置することから、つなぎ目の強度を増すために、つなぎ目部分を下写真のようにループ状にして結束バンド(ナイロンケーブルタイ)で結んでいます(つなぎ目、一種の『電流節』は輻射電流が極小で、エレメントを曲げてもアンテナの輻射特性にはほとんど影響しません)。
 なお、同軸ケーブルの波長短縮率が不明の場合(通常、太い同軸ケーブルの波長短縮率は0.83程度、細い同軸ケーブルの場合は0.65程度です)や同軸ケーブル・エレメントを正確に切り出すためには、リアクタンスが測定可能なアンテナ・アナライザーの使用をお勧めします。1/2波長エレメントの場合、計算値よりも少し長めに同軸ケーブルを切り出し、ケーブル端を開放のまま、リアクタンス成分(X)がゼロになるように切り込みます。1/4波長エレメントは、その半分長とします。逆に、最初に1/4波長エレメントを切り出す場合は、ケーブル端を短絡し、リアクタンス成分(X)がゼロになるように切り込みます。もちろん、測定周波数は24.915MHzとして下さい。

(5) アンテナの入力インピーダンスと給電同軸ケーブルとのマッチング 
 アンテナの先端を14m高の立木の上端に、給電端は10m程度離れた隣の4m高の立木の先端にセットしました。アンテナを設置後、アンテナのインピーダンスを給電点で測定すると5.7 + j2.6オームとなりました(理論的にはインピーダンスはゼロなのですが)。マッチングに用いるLC回路の定数決定に際し、測定されたインピーダンス値の補正はせず(スミス・チャートを使えば、誤差の補正ができるはずですが)、そのままこの値を使用し、MMANA-GALアプリのHF-Component中の『LC-match』を使用し、最初の図中にあるようにCパラレルのLC回路としてC値(C=356pF)とL値(L=0.08μH)を算出しました。
 その後、それぞれのC値とL値に相当するスタブを300オーム平行フィーダー線と同軸ケーブルで作成するために、MMANA-GALアプリのHF-Component中の『Stub』を用いて以下のように長さを算出し、切り出しました。7cmの300オーム平行フィーダー線(速度係数の実測値0.78)を、末端をショートしてアンテナ側に直列に(L = 0.08μH)挿入しました。なお、昨今300オーム平行フィーダー線の入手が困難なため、30cmの50オームの同軸ケーブルを、末端をショートしてアンテナ側に直列に(L = 0.08μH)挿入しても問題ありません。C成分として160cmの同軸ケーブルを、末端をオープンにして並列に(C = 356pF)給電線側に挿入しました。これら切り出したスタブの接続に際し、アンテナ側と給電側の同軸ケーブルのシールド網線と芯線の区別をする必要はありません。図中の接続は例として示しています。回路図を参照下さい。
 なお、300オーム平行フィーダー線スタブや同軸ケーブル・スタブを正確に切り出すためには、L値やC値が測定可能なアンテナ・アナライザーの使用をお勧めします。計算長より少し長めに切り出し、目的のC値やL値になるよう切り込んで下さい。
 最後に、経験上、以下のような手順んでマッチング作業を行うと便利です。L成分であるケーブルを正確に切り出しますが、C成分である同軸ケーブルは、計算値よりも少し長めに切り出し、そのままマッチング回路図のように接続し、アンテナの設置を完了します。リグ側の給電同軸ケーブル端でアンテナのインピーダンスを測定し、リアクタンス成分(X)がゼロになるようにC成分である同軸ケーブル・スタブの開放端を少しずつ切り込みます(0.5cm程度ずつ、かなりシビアーです)。アンテナ・アナライザーをお持ちでない場合、リグでSWR値を測定し、最小になるように切り込んで下さい。2以下であれば実用上問題ありませんが、SWR計が振れる場合はATUの使用をお勧めします。
 アンテナと給電同軸ケーブル間の平衡ー不平衡接続対策とコモンモード電流対策として自作のソーターバラン(電流バラン)をLC回路と給電同軸ケーブルとの間に入れています。もちろん、1:1電圧バランでも問題ありません。

(6) アンテナ特性
 上写真に完成後の測定結果を示しています。給電ケーブルのリグ側で測定したアンテナのインピーダンスの周波数特性を上左写真に示しています。黄色線はレジスタンス成分(R)、青色線はリアクタンス成分(X)です。次の上右写真にはすべてのパラメーターを表示しています。インピーダンスが先の値とわずかに異なりますが、SWR値は24.195MHzで1.21でした。帯域内でのSWR値も写真に示しています。
 なお、これまでの自作アンテナのブログ中で示してきたアンテナの輻射特性図ですが、現在のところ、MMANA-GALアプリではコーリニア・アーレイ・アンテナのシュミレーションが難しく、その輻射特性が得られません。具体的な利得や打ち上げ角などが示せず、御容赦下さい。
 ただし、少なくともGPアンテナよりも利得があります。GPアンテナは1/4波長エレメントのみから構成されています。従って、上記『(3) アンテナの作成』の所で説明しましたように、輻射電流に注目すれば、この3段コーリニア・アーレイ・アンテナはGPの1 + 0.5 + 0.25、すなわち1.75倍の輻射電流がアンテナ全体に流れます。また、エレメントの積み重ねによって輻射電流が富士山型のように積み上がりますから、垂直に設置した場合、打ち上げ角がGPアンテナよりも低くなります。
 最後に、当局はアンテナの設置環境のために止む無く斜めにアンテナを設置しましたが、打ち上げ角が低いという利点を生かすには、やはりGPアンテナのように垂直に設置することをお勧めします。もちろん、給電点が高ければ高いほど良く飛びます。

 

de WJ2T