(1) なぜ、ZLスペシャルアンテナか!
 すでに紹介して来たように、多くのHF用アンテナを自作しましたが、どうも満足できるものが作成できません。もちろん、タワー上の多素子のモノバンド八木アンテナがベストであることは、十分に承知しています。しかし、アンテナ設置環境や「先立つもの」(費用)を考えると、悲しいかな、それは夢でしかありません。
 アマチュア無線の楽しみ方は人それぞれ。コンテストに参加する人、QSLカードやアワードを集める人、リグを自作する人、QSO(ラグチュー)を楽しむ人。当局はアンテナの自作です。50MHz帯のJ型アンテナから始まり、いろいろなアンテナを自作し、とっかえひっかえ試して来ました。昨年、OM局と久々にアイボールした際、せめて3エレ八木か2エレのHB9CVにしてはどうかと助言を頂きました。さすがに、3エレ八木は大きすぎて(10MHzから21MHz帯を想定している)、垂直系に限定したい当局のアンテナ設置環境に適さず、また、位相差給電アンテナであるHB9CVは再現が難しいことから(だからプロは使わないらしい)、自作に二の足を踏みました。それでも、いろいろ考えた挙句、モクソン・アンテナと言う、日本ではあまり馴染みのないアンテナの自作を試みました。
 モクソン・アンテナの動作原理は、2エレの八木アンテナと同じで、ただ、電流がほとんど流れない前後エレメントの両端を互いに内向きに90度曲げたものです。従って、2エレの八木アンテナと遜色のない性能が得られるものの、サイズが小さく、世界的にファンが多いアンテナです。幸いにも、自作派のために、MoxGen.exeと言う、WindowsOS用のアプリが無料でインターネット上に公開されていて、中心周波数を入力すれば、エレメントの長さが計算できます。アンテナの入力インピーダンスは、放射エレメントの中心から給電すれば50オームで、給電同軸ケーブルとのインピーダンス・マッチングが不要、1:1電圧バラン、もしくは電流バラン等によるコモンモード電流対策だけで済みます。これを作らない手はない。
 21MHz帯での使用を目的にMoxGen.exeで計算し、その寸法通りに作成して、アンテナを設置し、給電点でアンテナの入力インピーダンスを測定しました。ところが、その共振周波数(インピーダンスのリアクタンス成分がゼロの周波数)が19MHzぐらいにあり、途方に暮れてしまいました。確かに、地上高などによって、共振周波数がずれるのは当然ですが、それにしても、あまりにもずれ過ぎていました。仕方なくエレメントを切り込んで、共振周波数を希望の21MHz帯にしました(後に、別途、14MHz帯用も自作しましたが、同様に、共振周波数が大きく低波長側にシフトしました)。インターネット上で調べると、同様の経験を持つ局を見つけることができました。

 MoxGen.exeをどこまで信用できるのか?良好なアンテナ特性が発揮されているのか疑問が残ります。(自作好きにとって、アンテナの設置後、微調整でリアクタンス成分がゼロとなり、SWR計の針が微動だにしない時は、本当に達成感があり、気持ちの良いものです。もちろん、SWR値が1.0であろうが2.0であろうが、実用的には差異はないのですが! 要は気持ちの問題! 良く飛びそうな気がするだけだが。)このアンテナをしばらく使ってみたものの、次のアンテナを模索し始めました。
 結局、一旦諦めた2エレのHB9CVアンテナを考え始めたのですが、どうも垂直に設置するには問題が多く、通常使われるガンマー・マッチング部分の製作がワイヤーアンテナでは難しそうです。もちろん、エレメントの切り込みでもマッチングは可能ですが。そこで、類似の動作原理を持つ2エレのZLスペシャル・アンテナを自作することにしました。垂直に設置する場合、水平に3本の支柱(グラスファイバー棒)を設置し、長いワイヤーエレメント(300オームのTVフィーダー線)を垂れさせるだけで済むので構造が簡単です。ところが、インターネット上で製作情報を探しましたが、作り方がそれほど掲載されていません。300オームのTVフィーダー線が入手困難となり、自作する局数が減っていることが原因であろうと想像します。米国では、幸い、電気部品販売チェーン店の「ラジオ・シャック」で300オームのTVフィーダー線が入手可能でした(100フィート、約30mで$18)。



(2) 18MHz帯のZLスペシャル垂直アンテナの製作
 設計はインターネットに掲載されていたW4RNL局 の「Modeling and Understanding Small Beams」中の「波長寸法」(寸法を波長基準で記載)を参考にしました。(日本語でインターネットを探しましたが、寸法は掲載されているものの算出法の根拠が明確でありません)。上図にアンテナの構造を、表にエレメントの長さを示しました。注意点は、前後のエレメントには同位相の電流が流れるために、エレメントの「切り出し長」の算出には、300オームのTVフィーダー線の速度係数(約0.82)を使わず、塩ビ被服の銅線の速度係数(約0.98)を使った”電気長”として計算すること。前後エレメント間の位相反転・遅延ケーブルは、異位相電流(180度差)が流れるので、速度係数0.82を使った”電気長”として計算すること。要は、HB9CVとエレメントの長さに違いはありません(もちろんエレメントの材質にわずかに依存しますが)。
 実際に立ち木に揚げてアンテナの入力インピーダンスを給電点で計ると、155 + j21オームでした。この値に困りました。手持ちのアンテナ・アナライザー(RigExpert AA-30)は、すでにこれまでのアンテナ製作のブログ中で書いて来きましたように、検体(この場合はアンテナ)のインピーダンスが50オームから大きく外れると正確な値を示さないのです。米国アマチュア無線連盟(ARRL)の機関紙「QST」にすでに検証記事が掲載されていて、それに寄れば、
 ・純抵抗100オーム時: 99.0 + j8.8 @ 14MHz
                            97.0 + j16.8 @ 28MHz
 ・純抵抗200オーム時:195 - j26 @ 14MHz
                           188 - j50 @ 28MHz
と報告されています。18MHz帯の測定値がなく、自分で純抵抗を付けて測定すれば済むのですが、純抵抗のリード線を極力短くしてアナライザーの測定端子に接続することが必須です。もし、それができたとしても、結局、それが正しいかどうか分からないので、自分で補正するのは止めました。アンテナの入力インピーダンスの実測値155 + j21オームで、リアクタンス分が+21オームですから、ほぼ共振していると言って良いでしょう(かなりいい加減!)。それで、そのまま値を信じてアンテナのマッチングを試みました。以前に書きました、終端をショートした300オームのTVフィーダーをL成分、終端を開放した50オームの同軸ケーブルをC成分としたLCマッチング回路をアンテナの給電点と給電同軸ケーブルの間に付加したのですが、SWR値の最小周波数が17.5MHzぐらいになってしまい、満足できるものではありませんでした。正確にアンテナのインピーダンスが計れていないことが原因でしょう。ただし、アンテナ・チューナー(ATU)を使えば問題なく使えるので、しばらく使ってみました。

 

  さて、その後、LCマッチング回路でなく、バランに置き換えることとしました。リアクタンス分は+j21オームで、ほぼOKとして、レジスタンス分の155オームを給電同軸ケーブルの入力抵抗値の50オームにマッチングする必要があります。1 : 4 (50 : 200)か4 : 9 (50 : 113)の電圧バランが考えられます。まずは、製作が簡単な1 : 4(巻き比1 : 2)をトライしました。手持ちのトロイダル・コアはT-20#10で、直径1mm程度の銅線2本を平行で6回巻きです(写真参照、線)。結線方法は、インターネットで検索して下さい。トロイダル・コアが少し小さい気もしましたが、RTTYで200Wフルデューティーで10秒間でも焼けることなく、うまく動いています。下写真のグラフは、給電ケーブルのリグ側端における入力インピーダンス(実線がレジスタンス成分、破線がリアクタンス成分)を示します。SWR値は18.1MHzで1.2程度、ATUが不要です。
 HB9CVとの違いは、ZLスペシャルは一種のループ・アンテナです。フォールデット・アンテナと言った方が正確かも知れません。従って、ループ・アンテナに対して一般に言われているように、ノイズの少ない静かなアンテナであるかも知れません(直流的にはショートしています)。また、帯域(SWR値が小さい周波数の幅)が広いことも特徴でしょう。ZLスペシャル・アンテナのそれぞれの前後のエレメントには2つの半波長の波が乗ります。1つの波しか乗らないHB9CVと比べてアンテナのゲインが大きいような気がしますが、ZLスペシャル・アンテナのエレメントのTVフィーダー線の近接平行2本線のそれぞれに流れる電流はHB9CVの半分ですから、合算すればHB9CVと同じになります。従って、アンテナの入力インピーダンスは互いに異なりますが、輻射特性は似たものとなります。
 アンテナの輻射F/B(前後)比を測定したいのですが、HF帯のモービル機やハンディー機がないのでできません。お持ちの方は是非トライして下さい。後方エレメントを数センチずつ切り込んで下さい。SWR値はそれほど大きく変化しませんが、F/B比が変化します。

(3) 18MHz帯のZLスペシャル垂直アンテナの飛びは?
 ここ数週間(8月上旬)は、18MHz帯のコンディションがまぁーまぁーで、デジタルのJT65モードでCQを出したところ、JAがオープンしていたのか、5 局ほどJAから呼ばれ、QSOしました。翌日、新潟の局がSSBでCQを出していたので呼ぶと応答があり、5分間程度ラグチュウしました。QSBがありましたが、S55~S59でとてもFBでした。ちなみに、相手局は3エレのモノバンド八木、当局はPEPで200Wでした。
 7L4WVU局やJI1FGG局が掲示板で指摘しているように、この18MHz帯用のZLスペシャル・アンテナは、21MHz帯と24MHz帯もATUを使って送信可能です(SWR値がATUで対応できる程度に低い)。特に、リアクタンス分がゼロに近い24MHz帯では(ただし、レジスタンス分が50オームからかなりずれていますが)上手く飛ぶようです。MMANA-GALでアンテナのシュミレーションをすると、18MHz帯に比べて、上角への輻射が増える分、DXに有利な低角の輻射が減少します。しかし、実際使ってみると、意外に飛びます。参考までに。

 

<<2013年11月 7日作成掲示>> de WJ2T