前回、製作した超細長スリム・デルタ・ループ・アンテナの改良を行いました。と言っても、アンテナ本体を改良した訳ではなく、倒立型(倒立二等辺三角形)へと変更しました。

(1) 正立型の「飛び」と「受け」
 改良前の正立型の「受け」に関しては、他のループ・アンテナと同様、ノイズが低く、他のタイプのアンテナ、たとえば当局が上げた経験があるスリム・ジムやJ型アンテナに比べると、ノイズに関し格段の差があります。たとえば、当局のリグ(FT-2000D)の受信部には、2つのRFアンプ(AMP1とAMP2)があり、それぞれ+10dBと+17dBの利得となります。しかし、スリム・ジムやJ型アンテナでは、ノイズがひどく、アンプをOffにしないと聞いていて疲れてしまいます。しかし、デルタ・ループ・アンテナでは、そのようなこともなく、AMP2をONにしてもノイズが気になりません。
 さて、「飛び」に関してですが、とてもBFです。CQ局を呼べども、ほとんど応答がありません。信号が明瞭に入感していても、全くだめです。CQ局の出力が大きい場合が考えられますが、その場合でもこちらの出力を上げれば何とかなるはずです(PSKやJT65モードでは、通常25W程度で十分ですが)。JT65モードで幸運にも応答があったとしても、互いのシグナルリポート(互いのリグ接続のコンピュータ が計算した信号強度をdB単位で客観的に交換、人為的な介入は不可能)に10dB以上の大きな差が出ます。多素子の八木アンテナで同様のことがあると聞いたことがありますが、どうしたものか?パイルアップしている訳でもないのに、聞こえているのに「取って」もらえないのはとてもストレスです。

(2)倒立型への変更
 スリム・デルタ・ループ・アンテナは、通常、水平偏波ですが、ほとんどは、二等辺三角形の底辺から輻射されます 。縦の2辺からは、見かけ上、互いに位相が180度異なる波が出て、スクウェアー・ループほどではありませんが、打ち消し合うために、ほとんど波が出ません。つ まり垂直偏波は出ません。図1には、倒立型の電流分布を示しています。黒線はアンテナエレメント、赤丸は給電点、水平の青線は電流の水平偏波成分、縦の赤線は電流の垂直偏波成分です。従って、通常の二等辺三角形(正立型)にすると、底辺の高さが低く、飛びが悪いと考えました。そこで、倒立型に変更し、底辺を最高部(14mH)にしました。アンテナ・シュミレーション・アプリ(MMANA-GAL)を使った解析では、打ち上げ角が少し小さく なった程度で、利得や輻射特性に大きな違いは見られませんでした。しかし、実際にQSOすると、かなりの改善が見られました。たとえば、PSKモードでは、呼べばほとんどが応答してもらえるようになりました。また、JT65モードにおいて、互いのシグナル・リポートに大きな差が出なくなりました。これには満足しています。1エレの デルタ・ループは、2か3エレの八木に相当するとの評価がありますが、そのような気がします。
 この倒立型スリム・デルタ・ループ・アンテナは、まさに移動運用に最適です。しばしば、ヘンテナが移動運用に用いられますが、利得が若干劣るものの、このスリム・デルタ・ループ・アンテナの方が構造が簡単で、組み立ての容易さや風の低抵抗を考えると移動運用に最適でしょう。

(3)倒立型の製作
 寸法を図2に示します。正立型をそのまま逆さにすれば良さそうですが、給電点が底辺中央から二等辺三角形の頂点へ移動したことに伴い、二等辺三角形の底辺を新たに製作しました。2m程度のグラスファイバーの棒(直径8mm)を購入し(木製や竹製でもOK。ただし、ある程度の「曲げ」に対する強度が必要)、1.4mに切り、同じ長さの塩ビ皮膜銅線を沿わせて、複数のタイラップで銅線を棒に固定しました。銅線の両端を縦のエレメントと半田付けし、融着テープで防水処理後、縦エレメントを「ホースクランプ」で棒両端に固定しました。もちろん、底辺を金属、たとえば鉄やアルミのパイプ等にするならば、塩ビ皮膜銅線は不要です。
 共振周波数(21.08MHz)におけるエレメントの実寸法(図2)に関し、縦エレメントの長さが、正立型に比べて少し長くなりました。これは、恐らく、正立型における底辺(給電点)のステンレスパイプを倒立型では銅線に変更したことに起因すると思われます。
 調整後のアンテナの給電点でのインピーダンスは、21.08MHzで Z  = 68 - j1オームとなり、50オームよりも少し高いですが、ATUなしでも問題ありません。

 

<<2012年 9月20日>> de WJ2T