同軸ケーブルを放射エレメントとしたコーリニア・アレイ・ダイポール・アンテナ
の動作原理とその24MHz帯アンテナの製作
(12m Band Cophased Coaxial Collinear Array Dipole Antenna)
1. はじめに
当局は、アンテナ設置環境の関係で、HF帯用のアンテナとして短縮アンテナに興味を持ち、いくつかのアンテナを自作してきました。通常、アンテナの短縮には、放射エレメントへの延長コイルの挿入やリニア・ローディングによる給電法が用いられます。当局は、同軸ケーブルを放射エレメントとして用い、その速度係数(短縮率)を利用してエレメントを短縮する方法に興味を持って来ました。これまでに14、18、21MHz帯の2段、または3段同軸コーリニア垂直アンテナやJA2AZZ局によって提唱され、JA2AEP局によって改良された7MHz帯の『クロス給電方式ダイポールアンテナ(特開2008-228257A)』を自作しました。今回、この両者を融合したようなアンテナ(同軸ケーブル・コーリニア・アレイ・ダイポール・アンテナ、Cophased Coaxial Collinear Array Dipole Antenna)を設計し、自作しました。ここでは、その動作原理と24MHz帯アンテナの製作方法を紹介します。他バンドのアンテナ製作へのヒントも記述しています。
2. アンテナの構造と動作原理
同軸ケーブルを使ったコーリニア・アンテナを製作されたことがある局なら、その構造が容易に理解できると思います。すなわち、電気的長さ1/2波長または1/4波長の複数の同軸ケーブルを直列につなぎ、そのつなぎ目で同軸の芯線とシールド網線を交互につなぎ合わせたものです。アンテナから同位相の電波が輻射される原理は、芯線から電波が輻射されず、シールド網線からのみ輻射されると仮定し、直列につながった各同軸ケーブルのシールド網線から同位相の電波が輻射されることに基づいています。
今回、設計に際し、当局のアンテナ設置環境に合わせ、昨今にぎやかな24MHz帯のアンテナで、垂直系、アンテナ最下端の地上高が5m以上、最上端の高さが17m以下としました。その結果、アンテナの全長は3/2波長(同軸ケーブルの速度定数を考慮すると約12m)となりました。従って、動作原理を示した図1には、全長3/2波長を例として示しています。なお、他のバンドに合わせてアンテナを設計する場合、後に示します『法則』に従ってエレメント数を増減することが可能です。
図1-Aは、放射エレメントである同軸ケーブルの両端をオープンにした場合を示します。ここで、図1-A1の水平の2本線は、交互に繋ぎ合わせた同軸ケーブルのシールド網線と芯線を表し、太い黒色線はシールド網線を、細い灰色線は芯線を示します。青色線は電流分布で、実線はエレメントから電波が輻射されることを、破線はエレメントから輻射されないことを表します。また、赤丸はそれぞれ両極の給電点を示します。水平の2本線の間隔は、実際にはエレメント長に比較して極小ですが、解説し易くするために間隔を広げて描写しています。
これらエレメントの電流分布ですが、同軸ケーブルの開放端は電流が流れないため、そのシールド網線と芯線の電流分布は、必然的に図1-A1の青色線のようになります。従って、電流腹からの給電となり、給電点から見たアンテナのインピーダンスは、並列に接続した2本の電気的長さ3/4波長の、開放端同軸ケーブルのインピーダンスの和に相当し、理論的には無限小となります(実際には、数オーム)。同軸ケーブルの芯線から電波が輻射されないと仮定した場合の電流の合算分布は図1-A2のようになり、シールド網線から位相が揃った3つの1/2波長波が輻射されることになります。アンテナの利得を計算すると、単純にダイポールアンテナの3倍とするならば、3x2.14 dBi = 6.42 dBiとなります。
図1-Bは、放射エレメントである同軸ケーブルの両端をショートした場合を示します。なお、オレンジ色の縦線は、同軸ケーブルの両端をショートしていることを示し、その長さに意味はありません。このアンテナの場合、上記のアンテナと異なり、電圧腹からの給電となります。給電点から見たインピーダンスは、並列に接続した2本の電気的長さ3/4波長の、先端をショートした同軸ケーブルのインピーダンスの和に相当し、理論的には無限大となります(実際には数Kオーム)。電流の合算分布は図1-B2となり、前者の同軸ケーブルの両端をオープンにした場合と同様に、位相が揃った3つの1/2波長波が得られます。
どちらの給電法を選ぶかは、マッチングの容易さに依存すると思います。ただ、給電インピーダンスが数Kオームと高い場合、同調周波数からのズレによるアンテナのインピーダンス値の変化量がアンテナのインピーダンス値に比べて顕著に小さく、結果としてSWRの変化が少なくなります。すなわち、アンテナの帯域が広くなる(SWRの小さな周波数幅が広い)利点があります。
なお、給電点を境に左右を分割すると、それぞれが、VHFやUHF帯用のアンテナ(特にリピータ基地局用アンテナ)としてしばしば紹介されている、垂直系の同軸コーリニア・アンテナとなります。
他のバンドへの対応で、エレメント数を増減する場合、片側の同軸ケーブルの長さは、
*電流腹給電をする場合、
同軸ケーブルの先端をオープンにするならば、1/4波長の奇数倍長
ショートにする場合、1/4波長の偶数倍長
*電圧腹給電をする場合、
同軸ケーブルの先端をオープンにするならば、1/4波長の偶数倍長
ショートにする場合、1/4波長の奇数倍長
となります。
HFバンド、特にローバンドのダイポールアンテナを考える場合、最短長のアンテナとしては2x1/4波長となります。同軸ケーブルの先端をオープンにした場合を図1-Cに、ショートした場合を図1-Dに示します。この図1-Dは、まさにJA2AZZ局によって提唱された『クロス給電方式ダイポールアンテナ』、別名『クロス・フォールデット・ダイポール・アンテナ』です。当然ながら、電圧腹給電で、給電点でのインピーダンスを、JA2AZZ局は1600オーム、JA2AEP局は3600オームとしています。以前、当局がこの7MHz帯用のアンテナを自作した際は、マッチングのために、JA2AEP局が提案した電気的長さ1/4波長の300オームの平行フィーダー線を用いたQマッチングを採用し、良好に作動しました。当局は垂直系アンテナに限定されているので、垂直ダイポールアンテナ(全長14 m弱、エレメントの最下端の地上高3m)としました。早朝、VK(オーストラリア)とQSOできるなど、非短縮型のダイポールアンテナと遜色ない“飛び”と“受け”を感じました(当局のQTHは米国東海岸)。
参考のために、アンテナの構造が類似している『折り返し型ダイポールアンテナ』の電流分布を図1-Eに示しました。この場合、黄色の縦線は有意の長さを持つもので、その長さはアンテナ特性に影響します。動作原理は図1-Dと異なり、水平の2本のエレメントには、同位相の1/2波長波が乗ります。図1-Dのアンテナとの最も大きな相違点はエレメントの長さです。“折り返し型ダイポールアンテナ”の両エレメントには同位相の電流が流れるため、エレメントの速度定数は小さくならず、そのエレメント長は、電気的長さでなく、機械的長さ(たとえば、PVC被覆銅線の速度定数、0.98)となります。従って、たとえ300オームのTV平行フィーダ線(速度係数0.82)を使用しても短縮アンテナとしては動作しません。
最近流行のダブル・バズーカー・アンテナは、エレメントの一部に同軸ケーブルを使っています。このアンテナの場合、同軸ケーブルはショート・スタブと考えられ、放射エレメント部は、同軸ケーブルのシールド網線+ひげ(同軸ケーブルの先端に付加された単線)で、短縮アンテナとしては動作していないようです。
3. 非同軸ケーブル系コーリニア・アレイ・アンテナ
実は、同軸ケーブルを用いないコーリニア・アレイ・アンテナは、古くから知られ(たとえば、King, Minmo and Wing in ‘Transmission Lines Antennas and Waveguides’1945、ただし、著者らは同軸ケーブル系コーリニアアレイアンテナにも触れている)、市販もされています(たとえば、米国のMFJ Enterprises社のMFJ-6415, MFJ-6417, MFJ-6420など)。同軸ケーブルを用いたコーリニア・アレイ・アンテナの場合、電流の位相を180度反転させるために同軸ケーブルのエレメント間でシールド網線と芯線をつなぎますが、同軸ケーブルを用いないコーリニア・アレイ・アンテナでは、直列に繋いだ複数の機械的長さ1/2波長のエレメントの間に電気的長さ1/4波長のショート・スタブを挿入し(水平アンテナであれば、“下方に垂らす”と表現した方が分かり易い)、反位相電流をこのスタブで相殺させて、アンテナから輻射させないようにします。VHFやUHF帯では、“位相反転コイル”なるものを挿入している例もあります。同軸ケーブルを用いたアンテナとの大きな違いは、やはりアンテナの放射エレメントの長さで、電気的長さでなく機械的長さとなります。
図2-Aに、直列に3本の1/2波長のエレメントを繋いだ、ショート・スタブ挿入型のコーリニア・アレイ垂直ダイポールアンテナの電流分布を示します。これは、MMANA-GALアンテナ・シュミレーション・ソフトにより得られたものです。残念ながら、MMANA-GALのようなアプリでは、同軸ケーブルをエレメントにしたアンテナのシュミレーションは、現時点では困難なようです。ただし、図2-Aのショート・スタブ挿入型のコーリニア・アンテナの電流分布は、同軸ケーブルを用いたコーリニア・アンテナの電流分布(図1-A2)と同じで、立体的電磁波分布を知るには参考になると思われます。図2-Bは自由空間での立体的電磁波分布を、図2-Cはエレメントの最下端を地上高5mとした場合のその分布を示します。それらの特徴は、上方への輻射がほとんどなく、ほぼ水平方向へと輻射されることです。低い打上げ角(最大利得での打上げ角、8.2度)は、DXを狙うとても有効な手段となります。このアンテナを水平に設置すれば、サイドの切れが良い、鋭い“8の字”特性が得られるはずです。
4. 24MHz帯アンテナの製作
アンテナを作成、設置後、アンテナ・アナライザーでインピーダンスを実測し、LC回路でマッチングすることとしました。その場合、手持ちのアンテナ・アナライザー(RigExpert社 AA-30)の測定可能なインピーダンスの上限が1Kオームであるため、図1-Bの電圧腹給電方式では、給電部のインピーダンスがその上限を超えてしまいます。さらに、アンテナ・アナライザーは、50オームのコネクターを介してインピーダンスを測定するため(AA-30は、75オームにも設定可能)、アンテナのインピーダンスが50オームから大きくはずれると、正確なインピーダンス(レジスタンスとリアクタンス)が測定できません(RigExpert社の名誉のために:測定器は正確に数字をはじきます。しかし、測定原理上、このような避け難い問題が発生します)。従って、今回の場合、給電点インピーダンスが50オームよりも小さいアンテナの方が、比較的誤差の少ない値が得られます。これらのことから、アンテナの給電点におけるインピーダンスが相対的に小さい図1-Aの電流腹給電を選択しました。
Belden社の同軸ケーブルRG-58U(速度係数の実測値0.62)(3D2V相当)を放射エレメントとして使用し、中心周波数を24.9MHzとして、1/2波長エレメント(3.73m)、1/4波長エレメント(1.87m)をそれぞれ2本ずつ切り出し、給電点以外のつなぎ目でシールド網線と芯線を交互に半田付けして、融着テープで防水処理を行いました。
設置後、アンテナのインピーダンスを給電点で測定すると4.2 - j0.9オームとなりました。マッチングの定数決定に際し、測定されたインピーダンス値の補正はせず(スミス・チャートを使えば、上記誤差の補正ができるはずですが)、そのまま定数を計算し、CパラレルのLC回路とし、7cmの300オーム平行フィーダー線(速度係数の実測値0.78)を、末端をショートしてアンテナ側に直列に(L = 90nH)、152cmの同軸ケーブルRG-58U(3D2V相当)を、末端をオープンにして並列に(C = 434pF)給電線側に挿入しました。11cm径の塩ビパイプに同軸ケーブルRG-58Uを7回巻いたチョークバランと、念のためにパッチンコアを4個、給電点に近い給電ケーブルに追加し、コモンモード電流対策を講じました。何らかの理由でLCマッチングを避ける場合は、巻き数比4:1(1:4ではない)のバランを自作しても可能、巻き数比1:4のアンアン(逆に接続)とチョークバランを組み合わせても可能でしょう。もちろん、他のマッチング法もたくさん考えられます。当局はアンテナを垂直に設置し、垂直ダイポールとしましたが(給電ケーブルとの干渉を避けるため、取り回しがたいへんです)、アンテナのインピーダンスは、同調周波数と同様に、設置状況、たとえば地上高により大きく左右されます。マッチングは各局それぞれで対応願います。なお、リグ側で測定したSWRは、24.9MHzにおいて1.2程度でした。
最初のQSOは、パイル・アップしていたGW (Wales, UK)局で、『一発』コールで応答して頂けました(SSBモード、200W)。JAも入感しています。QSOできる日が近いと思います。
5. 最後に
ここで紹介した、同軸ケーブルを用いたコーリニア・アレイ・ダイポール・アンテナは、VHFやUHFでしばしば紹介されている垂直系の同軸コーリニア・アンテナを製作された経験がある方なら容易に思い付くもので、目新しいものではありません。本稿の趣旨は、同軸ケーブルを用いたコーリニア・アンテナの動作原理を分かりやすく紹介することです。間違いや勘違いが多々あるかも知れません。御指摘頂ければ幸いです。
なお、図や本文の転写は自由ですが、必ず引用先を併記して下さい。また、本ブログの利用規則を遵守願います。
Written by H. Komatsu, WJ2T, in Oct. 20, 2011 (Ver.1c)