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BESPOKE

芸術をめぐる冒険と、最近思うこと、いろいろ。

何階だっただろうか、そこまでは覚えていないが、
エレベータの扉が開いた瞬間の
なんともえいない空気は今でも覚えている。

廊下が真っ黒で、
汚れのない真っ白な壁。
シンプルで洗礼された雰囲気。
ピンときりつめた空気。
ここがあこがれ続けた城なのだ。
ここで働ければ、どんなに幸せか。
洋服に、コムデギャルソンに
自分の人生を捧げ、生きていければ本望だった。

コムデギャルソンの本当の意味での強さとは何だろうか。
それまでは混沌とした奇抜な表現方法に
その強さを感じるのかと思っていた。
見ただけでそれとわかる様な。
でも違った。
本当に強いものとは、
シンプルに一つの事に深く集中すること。
多くのもの、時間や情熱、意識を、そこへ向ける、捧げる事。
それが解るのはずいぶん後になってからだけど、
その廊下を歩き、ただならぬ空気を感じていたのは
きっと「強さ」の本質をまじまじと体感していたからだろうと思う。

待合室には沢山の学生が待っていた。
上手くギャルソンを着こなしている人もいれば、
浮いている人もいた。
ギャルソンの世界で浮くわけだから、
日常生活ではきっと御洒落で通っているのだろうけど。

例えば仕立てのいい服の美しさは息をのむものがある、
でもそれは只の上質な洋服であって、いわゆる「ファッション」のそれとは少し差異があると思う。
当時を思い返してみても、コムデギャルソンの素晴らしいファッションを
着こなせていたかと言われれば、自信はない。
ひとつ言える事は、その場の誰よりも
コムデギャルソンが好きと言えるという事だけで挑んでいた。
コムデギャルソンに出会ったあの時から背負ってしまったものの色が
他の人間のそれとは違ってしまっていたのではないかと…。

ただそれだけで、ここまできたのだから。