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BESPOKE

芸術をめぐる冒険と、最近思うこと、いろいろ。

当時青山店勤務の店員さんから聞いた話を思い出した。
彼女がJIL SANDERを退職後、ギャルソンの中途採用を受けた時の事。
彼女の前順番で面接していた女性が泣きながら出てきた。
何があったのかギャルソンの受付の人に聞いたところ、
どうやら面接で問い詰められ、答えられず
泣き出してしまったようだった。
理由は、彼女の真っ赤な口紅について
「どうしてそのような化粧をしてきたのか」という質問だったようだ。

たしかにギャルソンは化粧過多な人には
似合わないかもしれない。
店員さんの多くが、ナチュラルなメイクだし
ほとんどしていない人もいる。
洋服自体が、とても派手な装飾のように見える事もあるし
あるいはとてもエレガンスで見たこともない斬新でシンプルなシルエットのものに
シックなメイクが合うのかもしれない。

店員さんの話では
「もうずいぶん前の話だし、私もその場にいたわけじゃないから解らないけど
もしかしたら口紅のせいじゃなくて、
答えられなかったことに泣いてしまったのかもしれない。」と。

自分の番が来て、中に入ると
そこには川久保玲が一人静かに座っていたそうだ。
どんなきつい質問が来るのだろうと思ったけど
一般的な普通の流れだったという。
あえて言うなら
「今日のファッションについて語ってください」
という質問があったぐらいだったそうだ。
他の店員さんにも面接の話を聞いたが
特に圧迫面接のような失礼気周りない態度や
必要以上の追及をされたことなどなかったと言っていた。

今の私には、口紅の彼女がなぜ泣いたのか
解る気がする。
私も全くうまく答えられなかったからだ。
思い出したくもない悪夢の思い出でもあるが、
川久保さんと言葉を交わせて、幸せな瞬間だった。

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待合室で心臓バクバクで待ち続ける私が
呼ばれたのは、初めの受験生が帰った後だった。
7人ほどいて、私は2番目だった。
そこにいた誰とも話さなかった。
待合室のテーブルの上に置かれた
HighFashionという雑誌の表紙の
当時の最新コレクション「ブライダル」をテーマにしたモデルの無愛想な顔を
ただ見つめていた。