
しまった。
いくら初心者向けダンジョンとは言え何も準備しないで飛び込むのは不正確だったか。
ここは陽の光が入らない地下迷宮カリグラーゼ下水道。
松明くらい持って来ればよかったと壁伝いに歩いてみる。
幸いにも所々に光苔が繁殖しているのか全く何も見えないという訳では無いが、地図などを読むのは困難だ。
折角ダンジョンに来たのだし、何もしないで帰るわけには行かない。少しでも歩いて空気を感じ取っておく必要があるだろう。
壁を右側に進むと慌てふためく男がいた。盗賊の一味かもしれないと私は武器を構える。男はまだこちらに気がついて無いようである。
慎重に近づいて見てわかったのだが、所々に汚れがあるものの服が上質である。到底下水道で盗賊を生業に生活している様には見えない。それに加え体型も肥えた豚だ。
教会にいた頃よく見た事のある、世間ハズレの貴族豚様によく似ている。
放っておいても良いが、困っている人を見捨てるのは私の信条に反するので声をかける。

男はウルグス卿というらしい。やはりというべきか、貴族だ。勿論盗賊の仲間である可能性もある。
警戒しつつも何か有益な情報を持っているかもしれないので話を聞く。

この下水道には「ゾンビが徘徊している」との事らしい。予想だがそれも一体だけでは無いだろう。遺体だが。
....コホン。
しかし何故、下水道に歩く死体がいるのだろうか。考えられるのは駆け出し冒険者と盗賊共の死体がこの下水道内にそのまま放置され魔物化したという説だ。
それともう一つ「誰が」という訳では無いだろうが、埋葬の手間を省き此処に遺体を捨て続けた結果それがゾンビとなったという説。後者の場合、教会として今後どうにかしなくてはならない問題の一つと度々議論がされ続けてきた。「ゾンビ化した死体を魔物として扱うか人として扱うか」だ。私はこの冒険を通じてこの問題に答えを出したいと考えている。
話が逸れたが、この豚はゾンビに追われている間に大事なお人形を落としてしまったらしい。こんな肥溜めみたいな所に何故持って来たのかはわからないが、報酬をだすからと頼みこまれ引き受けてしまった。


ウルグス卿に見送られ、再び迷宮の奥へと進み始めた。
(続く)