きのう見てきた「三婆」。
ついでに「三婆」で検索してほかのポスター・配役もみたのですが、新派の「三婆」は
本妻・波乃久里子、妾・水谷八重子、は不動のキャスティングでほかの配役はその時々で
変わるようですが、
私がいちばん心惹かれたのが小姑・タキ役の沢田雅美。
本妻の波乃久里子はやっぱりどこかおっとりして、立ち姿もびしっとした感じ。
妾の駒代は大きいことばっかり言って、ずうずうしく、なにしろ芸者だったからいちいち動作が踊りになって、そのわざとらしさがコミカル。
沢田雅美の小姑がそこにはまると、三人姉妹の妹みたい。
実際舞台が終わってからのあいさつで、19歳で新派の舞台に出た時から、ふたりをおねえちゃんおねえちゃんと呼んで、ずっと姉のようにおもってきました、という言葉がありました。
とはいえ、三婆のバトルですから。
このポスターでは小母ちゃんくらいの、4,50代の感じの沢田雅美ですが、舞台では白髪交じりの茶色のおかっぱっぽいカツラでした。
ファッションはふたりが本妻らしい上品な無地の着物と、黒を基調とした粋な(たぶん)着物で張り合っているわけですが、行かず後家と陰口されるタキは不思議少女×ホームレス風。
私が思い出したのは金井美恵子が目白の森茉莉とあだ名していた妙に色彩感覚のオシャレなおばあさんホームレスのことで、拾ったものらしい紅茶色のブーツにポリエステルの水色の紐を結ぶというオシャレをして、色彩感覚がずば抜けている。でも素材はどうでもいいし、毛玉もどうでもいい、という潔さがまた森茉莉。とは書いていませんでしたが。
おっとりしているようで抜け目なく、同居することになった本妻の家を、お兄ちゃんの家なんだからあたしのものだ、と主張してはばからない。世間がなんだ法律がなんだ、お兄ちゃんは体の弱いあたしを大事にしてくれた、
と主張するわがままな童女。
二階から人の声がする、と本妻・松子が怯え、お手伝いの花ちゃんもびくつく場面では気丈にも出刃包丁を握りしめひとりで立ち向かう、肝の太さ。
かと思えば、松子がタキと駒代を追い出して、身元のしっかりした間借り人をおこうとして、植木屋が仲介した若夫婦をまんまとだまして、礼金敷金36000円(時代背景は来年が東京オリンピックという年)を着服しようとする。
同じくらいの時に森茉莉が住んでいたぼろアパートは6畳一間で共同トイレ・台所つきで2800円だったなあ。それを思うとやっぱりけっこうな金額じゃないのかなあ。
そんなお金に狡いところもあったり、九官鳥のキューちゃんを可愛がっていて、手作りらしいキューちゃんのマスコットを愛用の肩掛けカバンのアクセントにしたりする少女っぽさがあったり。でも60を超えているんだけどね。
佐藤B作がこの三人の間に入って右往左往するのがおかしかったけれど、故郷鳥取で実の娘につらく当たられて、結局東京に戻って来た時にはかつての毅然たる管理職の趣はみじんもなく、
どこか呆けたようになって、そこが可笑しくてまた悲哀を誘うところでもありました。
本妻の松子に、小料理屋を出すことになったから、普請が終わるまでのひと月だけ同居させてほしい、と頼んだ駒代はずうずうしいことも一流で、なんと居候の身の上で女中を雇い、
普請が終わるまでといっても実は間口一間のいわばスタンドバーだったことが女中によって暴露されてしまい、それでも厚かましく居座るのだった。
駒代の思いっ切った見栄の張り方もおかしかったなあ。
お店にくる社長さんたちがうるそうございますから、髪はやっぱり銀座でやってもらいませんとねえ、と言いながらお屋敷に戻ってくるんだけど、そこでタキにバッサリやられて、それでも平然としている。
2幕の終わりはなんだかんだ1年居座り続けた小姑と妾をついに追い出すことに成功した本妻・松子が、もううれしくてたまらない、という風な面持ちで、お別れパーティをしましょうよ、と、食堂にみんなを集め、
しかし、じつはみんなを追い出してしまうと一人ぼっちになってしまうのがさびしい。
寂しいからみんなずっとここにいてよ、と、最後は大きな口をえーんえーんとあけて泣き出してしまう。
タキと駒代はどこか白けた、戸惑った顔つきで、まあ、いいわよそれなら、いても、と、どうやらみんなこの家で年を取ることが決まったよう…。
で、てっきりここで終わりかと思ったら、三幕があり、この三幕が見どころでした。
三幕ではあれから15年がたち、当時女中だった花ちゃんが八百屋の御用聞きだった青年と結婚し、近くに自分たちの店を構えて、もう奥様も80を過ぎているから、生きているかしら、
(当時の平均寿命からしたらそういう感覚がふつうなんだろうけど、いま聞くとドキッとするね)
とやってきたら、崩れかけた築地が見え、三婆と一爺が相当耄碌しつつも、晴れやかな笑顔で
暮らしていたのでした。
晴れやかと言ってもボケの晴れやかさで、もともとの性格はそれぞれさらにしつこくなり、
駒代は相変わらず大きなことを言い、タキは疑い深く少女風ファッションに磨きがかかり、「ハウルの動く城」!と思わず声をかけたくなるシルバーグレーの長めのボブスタイルのカツラで、むしろ可愛らしくなっていて、
ほかの三人も80歳近い今のほうが妙に若く感じられる。駒代やタキや佐藤B作に比べたら、松子はしっかりしているように見えたけれど、
やはり呆けていて、幕が下りるまで4人が笑いつづける場面が印象に残った。
社長が頓死し、残された本妻・妾・小姑が一つ屋根の下に暮らすことになったドタバタ喜劇、とまとめればそれまでですが、佐藤B作のなんともいえない笑い方や、沢田雅美の疑いぶかそうでもあり、子どもころ、お兄ちゃんに可愛がられた妹だった面影をちらつかせる上目づかい、
駒代の軽薄さを知りながら、おだてにのって鏡の前で持っている着物でファッションショーをしていしまう松子、
などなど忘れがたい場面や演技はありますが、やっぱり沢田雅美がいちばん印象に残ったなあ。