
シドニーへ 彼女たちの42.195km
彼女達とは、高橋尚子、山口衛里、市橋有里、弘山晴美、小幡佳代子であるが、
金メダルをとった高橋尚子にいちばん多くページが割かれているのは当然だだろう、
私たちもそれがいちばん読みたいのだから。
村上春樹は「シドニー!」で特に女子マラソンについてだけ描いたわけではないが、
むしろ有森裕子に対して多くの言葉が費やされていたような記憶がある。

高橋尚子については、いままでにも何冊か評伝やコーチからみた彼女像など読んできたけれど、
本書ではじめて知ったことがいくつかある。
高橋尚子はコースを1kmごとに暗記するのだ。しかも1度の下見で…。
前から思っていましたが、
高橋尚子って北島マヤっぽい。天才肌とかそういう次元では測れない、異能のひと。
小出監督は当然月影先生だ。
ペースチェンジの切れ味。ハーフを過ぎてからの猛烈なスパートは、
ほかの選手に、まるで男性選手がひとり隠れていて飛び出したような、と言わしめている。


しかしいちばんマヤちゃんっぽいのは、
「女子マラソン界には興味がなく、あるとすれば高橋尚子界だけだ」と記者が語るその自分しかないところ。
「ガラスの仮面」ではマヤちゃんは自分の芝居だけを磨いていたが、ライバルの亜弓さんはいつもマヤちゃんと自分を比べていた。
天才とは自分を誰とも比較なんかしないひとのことでは…。
しかしこの、高橋尚子には高橋尚子界しかない、という言葉は非常に気にいってしまいましたね。
シドニー代表の座をかけての選考レースとその結果も、いろんな競技での思いがけない選考に泣くひと笑うひとを想起させて、
また興味深かった。
しかし私も菅原初代界のひとなので、
いちばん興味深いのは、昔なら全然興味もなかったマラソン選手について書かれた本を読んでよろこんでいる自分なのだった。