岩手県立図書館は大人1人10冊まで3週間(連絡を入れれば延長6週間まで)借りられます。
きょうは児童書を中心に借りてきたのですが、
真っ先に読んでしまったのが、この本。
『トレモスのパン屋』 小倉明 作 石倉欣二 絵(くもん出版)
童話や絵本にはパン屋さんがほんとうに多く登場しますが、
こ、これってほんとに児童書でいいのでしょうか。
パン屋さんのお話といえば、「カラスのぱんやさん」のような可愛い形の空想的なパン屋さんだったり、
「まよなかのだいどころ」のような幻想のパン屋さんとか、パンでおうちをつくるお話もあれば、
超有名なヒーローのカートリッジ式顔パンを焼くジャムおじさんとか、
存在自体がすでにファンタジーなんです。
でもこの物語のパン屋さん、ポルトは弟子が3人いて、
いちばん自信があるのはシンプルな食パン、
という、
まるで「ベーカリーブック」で取材されているブーランジェリーのよう。
出版は1993年で日本でフランスパンブームが起こったころですから、
作者の小倉明さんもシンプルなパンがいちばんおいしくて、そのパン屋さんの腕がいちばんわかるところだ、
と思っていたのかも。
パリではバゲットコンクールがありますが、
トレモスの町でもパンのコンクールがあり、
ポルトは三回連続優勝していました。町いちばんのパン屋として名高く、人気もあって、
朝4時から3人の弟子とともにパンを焼き、朝10時に店を開くと切れ目なしにお客さんがやってくるのです。
そしてここのくだりも、児童書とか物語というより、
ベーカリーブック(笑)。
朝4時のミーティングでは前日売れたパンについて、きょうは日曜だから子どもがすきな菓子パンを5割ふやそう、などと話し合われ、
ゆでたジャガイモがまるごと一個入ったパンや、ブランデーやドライフルーツ、ナッツ類の入ったパン、
動物の形のパンやくだものパンなどもあり、
もうここから児童書を読んでいるのではなく、
ベーカリーブックに登場したパン職人のお店の様子を見ている気持ち
しかし、
ある日ポルトの店の真向かいにパン屋がオープンし、
ポルトの店の客も一度はそちらに行くのですが、すぐにまたポルトのパンがいちばん、
と戻ってきました。
しかし、
ポルトの食パンをいつも買いにきていた3人のお客さんだけはついに戻らなかった。
ほかのお客さんがどんなにポルトのパンを褒めてくれてもポルトの気持ちはふさがります。
そしてとうとう、年に一度のパンのコンクールが開かれ、
ポルトの店の向かいのあのパン屋が優勝してしまい…。
このコンクールの様子もすごくリアリティがあるんですよ。
最後の最後に、
向かいの店のパンの美味しさの秘密がわかるのですが、
その秘密のコツに、思わず膝をうちましたね。
名声も客も、弟子も失いたったひとりになったポルトは最後に、
食べた人が幸せな気持ちになれるような、ほんとうにおいしいパンを焼きつづけよう、
と決意し、立ち上がるのですが、
この終わり方も文学的で余韻があります。
なんの予備知識もなく、ふと手にした本でしたが、出会えてよかったです。
ちなみに、
帰宅したらライサワーが盛り上がる寸前まで発酵しており、
う。
私も焼かないと、
と焦った次第☆
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